#12 コンポタ娘とカフェラテ男
–両手でそれを包むように持つと
手のひらにじわじわと血が巡るような感覚が広がる–
そうそう。
僕は今
稽古中なのだ。
そんな日々のなか
この話は
稽古場へ向かう道中から始まる。
はじめに書いておくが
先週本当にあった出来事だ。
決して妄想ではない。はて。
今の現場の稽古場は駅から少し離れているため
バスで向かっている。
早い時間に稽古場へ到着しそうになった僕は
降りる予定のバス停の2つ前であえて降りてみた。
散歩がてら身体を動かすがてらコンビニであったかい飲み物を買うがてら、歩いて行こう。
がてら
ってすごい口触りの言葉よね。
途中のコンビニに寄りレジでカップをもらい
セルフでカフェラテをいれる。
ガタガタガタパラパラパラガリガリボトー
そんな音。
ほんのりあったかいカップを手にコンビニをあとにする。
すぐ出た隣に
ブレザーで、薄い青?薄めの灰色?のカーディガン姿の女子高生がコーンスープを両手に寒そうに立っている。
何を思うでもなくその娘の前を通り過ぎる。
その直後声をかけられる。
「あの」
って言ったのかはわからない。
多分声かけられた。
なにぶんイヤホンをつけて音楽を聴いていた。
cinnamons&evening cinemaの
「summer time」
今、冬だろ、とかそういうのやめてね。
実際に気づいたのはその後。
肩をトントントントンとたたかれる。
実にリズミカル。
まさかそんなことがあるとも思っていない僕は
ひどく驚きながらイヤホンを外し、振り返る。
「はい?」
ストレートで黒髪の肩にはいかないくらいの長さで目はパッチリしている。
メイクはしてなさそうだ。
灰色のマスクをしたコンポタ娘。
頭の中では高速で
何か落としたかな。
リュック開いてる?
あれ、知り合いか?
何かお芝居見てくれた人かな?
いろんなことを一瞬で考えてしまうもので。
しかし彼女の一言目は
どれでもなかった。
「どこまで行かれますか?」
え?
へ?
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい。
なんか犯罪に巻き込まれるのか。
このご時世だもの。
まぬけそうな男性を狙って金まき上げるのか。
あとから怖いお兄ちゃん出てくるのかな。
えー。やだー。サイテー。
戸惑いながらも冷静風に取り繕う。
「あ、ちょっとすぐそこまで」
トトロに出てくるメイちゃんばりのセリフを言ってしまった。
行き先言ったら怖いもの。
「こっちまっすぐ行きます?」
「そうですねぇ、ここしばらく真っ直ぐ...」
「あの、あ、あー、ほんと怪しいものとかじゃなくて、すみません、突然、へへ」
「いやいやいや、え、なんか、え、どうされました?」
ハヤシは動揺。
コンポタ娘は前髪を触りながら
終始笑いながら話す。
笑うんじゃないよ。
こわいのよ。
「お願いが...あの...お頼みしたいこと..が」
「はい...」
「この荷物をすぐそこまで運んでいただくことできますか?」
彼女がさっき突っ立っていた場所をみると
中くらいの段ボール箱2箱。
宅配便らしきものだ。
コンビニ受け取りでおばあちゃんからの荷物を受け取ったはいいものの、重くて運べないので家にいる母親を呼んで待っていたらしい。
しかし待てど暮らせど母から返事はなく
早く帰りたいから、
暴挙ともいえる無茶苦茶な声かけをした。
はい。今ここ。
いや無茶苦茶すぎる。
というか知らない男に声をかけないの。
危ないよ、ほんと。
今の世の中ほんとそういうの気をつけないと、もしこれで俺が変なやつで、、
と長々と心のうちで説教。
家はすぐ近くの団地なので
その団地前の公園まで、と。
いや、まぁ、そのあたりまでたしかに行くし困ってるのなら助けないとなぁ...
変な犯罪じゃないよね...と内心どこか疑う。
ここで面白い展開にしてみようと思うなら手伝ってあげる。
読者もそれを期待する。
しかしビビリハヤシは裏切る。
「ちょっと電話しなきゃいけないんで」
今思うと、は?って理由だけど
咄嗟に出た言葉はそれだった。
すみませーんと足早にスマホを出しながら去る。
もちろん電話をする予定などない。
「あ、大丈夫です、なんかすみません。」
彼女は荷物のほうを振り返り、スマホを取り出し始めていた。
スマホ片手のコンポタ娘。
スマホ片手のカフェラテ男。
東京都心から少し離れた駅、から、さらに離れたコンビニ前、14時ごろ、陽はあたたかい。
そのまま終わると思いきや
まだこの話はつづくのである。