#25 緑とりんごとエトセトラ
-電気のせいか、いやそれ以外の何かによって明るいのだ-
某カフェに行くのは何年振りか。
そのカフェは世界いろんな所にあるカフェで
僕から見るといわゆる意識が高そうなお客が利用しそうな場所。
りんごのマークが入ったPC片手に入りたくなるような。
もはや通行証なのではないかというくらい店内でそのPCを開いている人を見かける。
自意識過剰、被害妄想満点な僕にとっては
いつからか一人で行くにはハードルの高い場所になっていた。
誰かと一緒に行く分には問題はないのだが。
そもそもそんなにハードル高いもんじゃないよ、ハハハと世間様に笑われそうな気もするが、人は皆いろいろなのだ。受け入れて欲しい。
そしてついに
行かねばならない日が来た。
ここ数年か、LINEでメッセージと共にギフトを贈ることができる。
その機能で去年から今年にかけて、たくさんカフェのドリンク券、フード券をいただいたのだ。
すっごく嬉しい。ありがたい。
これは本当に思う。
が、一人で行くには覚悟がいる。
行こう行こうと思っていたら数ヶ月が経ち
いよいよその中の一枚の期限が来てしまった。
期限が切れる当日、出かけたその帰り道家から一番近い某カフェに向かう。
事前に営業時間を調べ、ギフト券の使い方を検索し、いざ参ろう。
そう、こういう時事前に調べないと不安なのだ。
中に入ると数人並んでいる。
頼む、俺の後はしばらく誰も来ないでくれ。
多分迷う。時間がかかる。
自分の順番が来て
念のため聞いてみる。
「ギフト券は使えますよね?」
美しい笑顔で大丈夫だと答えてくれる店員さん。
本当にここの店員さんいい人。
どういう採用基準なの。僕は間違いなく不採用だ。こんなに優しくできないもの。
いざ何を頼もうかメニューとにらめっこ。
正直、どれでもいい。もはや。
この高貴な空気から脱出せねばならない。
僕みたいな愚民はここにいてはならぬのだ。
よし、寒いしあたたかいカフェラテにしよう。
しかし、どれがカフェラテに値するメニューなんだ。
またしても聞いてみる。
「カ、カフェラテ的なものってどれですか?」
冷静になった今思う。
的なものってなんだ。
カフェラテでいいだろう。
「こちらです。ただ一番大きいサイズでもギフト券の上限まで使いきれませんが、よろしいですか?お釣りがでないんですよ」
え、優しい。
でも待って、また悩まなければならないじゃないか。
「えー、うーん、あー、そうですねー、えー」
を延々と繰り返し悩み続ける。
いわゆる
自意識過剰被害妄想優柔不断の林というやつだ。
「ゆっくり選んでくださいっ」
優しい。
最後に小さい「っ」が入るくらいポップにウィットにキュートにおっしゃる。
その時後ろから次の客が来た。
なんてこった。
まずいぞ、選べ俺。えらべ。えらべ。
季節限定のにしよう!
なに、ソールドアウトだと。
くっそ、ならこっちか、いや、気分的に違うな、トロピカル...も違うな、こっちは、んーお茶って気分でもない。えー...
「カ、カフェラテの一番大きいやつで大丈夫ですっ」
思わず自分も小さい「っ」を付けてしまった。
かしこまりました。
お願いしまーす、と作る担当の人に呼びかける。
あちらでお待ちくださいと言われ、
レシート片手に向かう。
なんてこった
結局最初の選択肢に戻ったじゃないか
せっかく店員さんは優しく教えてくれたのにだ。
そのとき作る担当の人が可愛らしい笑顔で話しかけてくる。
やめろ、その優しさオーラで心が真っ黒に染まった醜い俺を責めるのか。
「結構大きいんですよー、でも私もよく頼んじゃいます」
「あまりお店には来ない感じですか?メニューも迷っちゃうし分かりづらいですよね」
優しさのマシンガン。
「でも皆さん優しいので、助かりました...」
「いえいえ、またいらっしゃっていただければ」
「ははは...はは..」
ひきつった笑顔だったろう。
マスクがあって助かった。
カフェラテを受け取り、お店を出る。
ミッションコンプリート。
歩きながら美味しくいただこう。
よく見るとスリーブには可愛らしいイラストが。
バキューン。
それを両手で慎重に持つ。
ひと口飲めばあったかく優しい味わい。
バキューン。
最後の最後まで優しさの応酬に僕はノックアウト。
熱くなった自分を冷ませと言わんばかりに
ポツポツ雨が降ってくる。
ま、いっか、家まですぐだし。
なんだか、今はなんでも許せる気がする。
でかい男がでかいカップを手に
歩みを進める。
次来るのはまた期限ギリギリの日か。
いや、次はフラッと早めにトライしよう。
カフェラテ以外だ。
フードにも挑戦しなければ。
その日の翌日は
一日中、雨予報。
明日は傘と、優しさを持って仕事へ行こう。
徐々に雨に染まっていくコンクリート、18時ごろ、東京。