#22 なぜナビなびかれナミダ後編
-かゆいのよ、かゆい-
兎にも角にも
急がねばならない。
ドライバーのおじちゃんも悪い人ではない。
片手でハンドルをきり、もう片方でナビの画面をタッチする。何度も、何度も。ざっくりと。
スロースピードで進む車。
その隣を自転車が通り過ぎる。
むなしい。
タクシーの真価を発揮してくれ。
このままでは地獄のような時間が続く。
ひとまず提案してみよう。
「一回停まって、エンジンかけ直すとか、ナビの電源落とすとかしたら直るんじゃないですか?」
焦りで叫びたくなる気持ちをおさえながら、冷静を装う。
「電源の落とし方分からなくてですねぇ」
あああああああああ。
知っとけや!
乗せる前に確認しとけや!
その状態でアプリで客見つけてピックアップすんなて!
その大胆な度胸に思わず拍手。
そして愛想笑いをするしかない。
どうする...どうする...
しょうがない、どこか近くの駅まで行ってもらって電車だ。それかタクシー乗り換えよう。
「〇〇駅とかわかります?」
「わたし、この辺普段あまり走らなくて」
しらんのかーい!
よくもまぁ、頼りないナビを相棒に見知らぬ土地へ来たもんだ。
そもそも俺をピックアップする場所、よく来れたな。迎えに来る道中で、あきらめよう、ってならんかったんかい。
その根性に思わず拍手。
またしても愛想笑いをするしかない。
こうなったら、自分のスマホでルート調べて口頭で伝えよう。一か八か、目的地まで行ってやろうじゃないか。
その旨を伝え、スマホで調べ、スタート。
予定到着時間は、集合時間の5分前。
僕は友人とドライブでもしてる感覚に陥りながら必死にルートを伝える。
「最近の携帯はすごいですよね、なんでも調べられますもんね」
いい、いい、いい、いい、いい。
そういうの今いい。
集中して、集中。
愛想笑いすらやめていた。
早くしないと。僕の信用問題になるのだ。
朝早く道路がすいていて、思いの外順調に進んでいく。
無事に10分近く巻いて到着。
たぶん結構とばしたな、おじちゃん。
ありがとう。
「ご迷惑おかけしました、すみません。
あのお気持ち程度ですが...」
まさか、値引きしてくれるのか。
え、タダとか?いいの?おじちゃん。
むしろ心の中でいろいろ言ってしまって申し訳なかったよ、おじちゃん。
いいドライビングテクニックだった。
その腕はワイルドスピードさながら。
ジェルで固められたオールバックは、在りし日のジョージクルーニーを彷彿とさせるダンディさがあってカッコいいよ。
そしておじちゃんは
パーテーションの下から手を差し出し
のど飴を3つくれた。
...うん、気持ちだからそういうのは。
ありがとう、嬉しい。いい仕事ができそう。
最後まで自分貫いていて、すがすがしいよ。
タクシーを降りて
たくさんのビジネスマンであろう人たちが行き交う中、ジャックと豆の木さながらどこまでも伸びていきそうなビル群を見上げる。
この風景は、霞んだ黄色にオレンジが混ざってる感じかな。
間に合ってよかった。
振り返ると遠ざかっていくタクシーが
もう黒の点になっている。
それは今日の朝の珍道中にピリオドをうったかのような点。
ブルーピリオドならぬ、ブラックピリ..
余計なことを考えてる暇はない。
眠たいせいか花粉のせいか
目をこすりながら集合場所に向かう
東京の朝、あと8分で6時だ。