#14 覆うようにして応じて
-見えないからこそ、見えてくるものもあるのだろう-
僕が子供の頃
マスクをする、なんて概念はほぼなくて
給食当番や風邪をひいたとき布製のマスクをした記憶があるくらい。
いつからか気づけば使い捨てのマスクを一般の人も当たり前のようにつけるようになる。
それでも花粉症の人、体調悪い人など一部の人が限定してつけていた。
僕もこの仕事をするようになってから
マスクをよくするようになった。
のどの乾燥を防ぐとか周りから風邪などもらってしまわないようにとか
お前ごときが俳優さんみたいなことしてんじゃないよと言われそうだが、この業界の片隅にいる僕も、やれることはやろうと。
先輩方がやってるのを見てかっこいいなと思ったのはあったけど。
そして
知らぬ人はいないであろう今、この世の中。
例のあいつのせいで世界中マスクになった。
あいつが流行り始めた頃、外国のどこかの国ではマスクをする文化が無いに等しかったが
感染者が少ない日本をみて
ワーオあれマスクの効果ダナ
となってみんなし始めたというのもあるらしい。
一説ね。
舞台稽古、撮影もご存知の方も多いと思うが、本番以外はマスクやフェイスシールド。
そう、本番はない。
ドラマや映画を見ればわかるが作品の中では
例のあいつが蔓延して以降もマスクなし。
それが悪いわけじゃない。
対策をしっかりしていれば、なんら問題はない。
そこで
最初から最後まで
全員マスクの作品をやってみてはどうだろうか。
もちろんシーンによって。
一人で家にいるシーンはマスク外してるとか
河原にマスクでやってきて、周りを見て誰もいないことを確認したのち、外して深呼吸。
いや、どんなシーンだよってのは置いといて。
刑事が聞き込み中。建物に出入りするところをいちいちアルコールプシュっとやって。
おはようって朝起きて、当たり前のようにおでこで検温。とかね。
我々の今、の日常を切り取った作品があっても面白いんじゃないだろうか。
もうあるのかもしれないけど。
リサーチしてなくてすみません。
もちろん俳優は目の動きやちょっとしたとこで表現しなければいけない。
顔が見えない分、視聴者に伝わらないこともあるかもしれない。
でもそんなミステリアスな空気をまとってもよい。
全部が全部伝わらない、それが人間だもの。
みつをさんみたいになってしまった。
俳優やアイドルのファンの皆さんやこの人の顔を拝みたいなんて人にとって地獄のようになるだろう。マスクはずせよ!って連日テレビ局にクレームが来るかも。
それで面白い作品作れるのか、なんて言われたらやってみないとわからない。
もし人気が出たら
何年後か、例のあいつが落ち着いたら
マスクなしバージョンで撮影してオンエアしてもよい。
かわいい、かっこいい、素敵なマスクをしてたら人気出ちゃったりして。
今、これを書いている翌日から
舞台の本番がスタートする。
マスクを外して演じたのは劇場に入ってから。
マスク無しの方がいいことが多いのは事実。
が、マスク有りでやっていたからこそ気づいたことも沢山ある。
それは日常生活も変わらないのではないだろうか。
今、あなたの目の前の、近くにいるマスク姿の人はどんな顔をしてるだろう。何を考え、何を思ってるだろう。
僕の目の前にいる女性は
スマホを見てる。
目の表情は笑ってる。
幸せそうだ。
さ、買い物して帰らなきゃ。
東京都内の電車3両目、間も無く乗り換え、16時ごろ。日は沈みはじめた。