#13 続コンポタ娘とカフェラテ男
-吸い込まれるような、その目を見た僕は気づけば-
その場を立ち去った。
電話する予定などないのに。
国道沿いをまっすぐ歩く。
しかし頭にはさっきのことがグルグルめぐる。
あの子がまた別の人に声かけ
そいつがいい人のフリして
実は危ないやつだったら...
その子はどうなる?
なんのためらいもなく自宅とか言おうとしちゃってるし。
片手に持ったカフェラテを飲むと少しぬるくなっていた。
まだ稽古開始まで時間はある。
今からここを引き返してダンボールを運んでも間に合うだろう。
行くか?
行くのか?
スマホを強く握りしめて
立ち止まる。
行こう。
行くしかない
世の中助け合いだろ、ハヤシ。
ハヤシの良心還元祭開催。
踵を返してコンビニへ戻る。
ここらへんは
スローモーションにして
BGMを流していただきたい。
非常にカッコつけていた。
『G戦上のアリア』でも流しましょうか。
誰も見てやしないのに。
おめでたい脳内。
しかし、なんだかんだ結構歩いてきてしまった。
もうすでに変なやつにからまれていないか。
心配だ。
それともいい人が助けてくれたかな。
自然と歩調も速くなる。
やがて
コンビニに到着。
そこには
段ボールの横で
さっきと変わらぬ姿のコンポタ娘。
だが
その前にはの40〜50代だろうか。
作業着姿の男性が一人。
まさか!
声をかけたのか!
大丈夫か!?
「おい!お前!
そんな健気な子に何をする気だ!」
と心の中で言ってみる。
さすがに本当には言えない。
コンポタ娘がこちらに気づき一礼。
「ダンボール、大丈夫ですか?」
作業着姿の男も振り返る。
なんだ、邪魔が入ったとでも思ってるのか。
残念だったな。
そうはさせない。
「はい、お父さんが来てくれたので...」
なんと、父だと。それを早く言えよ。
あ、言ったのか。
なんだろう、恥ずかしい。
お父様。ご挨拶が遅れた。
「じゃああの...なら..よかったです、はい」
ポカーンとした顔でこちらを見るお父様。
おやおや、現在こちらが不審者になっているような空気感。
コンポタ娘はいきさつを説明。
「ダンボールを一人で運ぼうと...」
以下省略。
最後は
笑顔でお互いぺこぺこ。
なんだか拍子抜けというか
G線上のアリアのあたりの自分が非常に小っ恥ずかしくなってくるが、平和に終えれるならそれはそれで最高のエンディング。
微妙な空気感の中、その場を
あらためて立ち去る。
人生は選択の連続というけれど
あの時、立ち去ることなく
運ぶという選択をしたらどんなドラマが待っていただろうか。
後悔という意味でそう思うのではなく
単純な興味で考えたりする。
いままで生きてきた中でのいくつもの選択も。
もしあのとき
こうしていたら
ああしていたら
あっちを選んでいたら
こっちを選んでいたら
どうなってたのかな僕のドラマは
誰しも
たくさんあると思う。
些細な選択から忘れられない選択まで。
冷たくなったカフェラテを飲みながら
また稽古場へ歩みを進める。
今日の帰り道
コンポタ買って帰ろうっと。
鼻にスーッと抜けるような冷たい風が吹いている東京都心から少し離れた国道沿い稽古開始30分前。さぁ。