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税理士の先生が知っておきたい雇用をめぐる最近の法律問題 #20 個人情報保護法(2)

 社会全体で「プライバシー」という意識が高まる中で、個人情報の取扱いに対する社会の関心は高まっています。この連載では税理士の先生方にもぜひ知っておいていただきたい、個人情報保護法を取り上げていきます。
 今回からは、実際の事例をふまえてポイントを解説していきます。


事例

1 事務所に、従業員の親を名乗る人物から電話があり、「至急子ども(従業員)と連絡を取りたいので、携帯電話番号を教えてほしい」と言われた。
  当該従業員は外出中で不在だったが、携帯電話番号を教えて問題ないだろうか?

2 お世話になっている取引先にお中元を送ることにした。
  デパートで購入してそのまま発送までお願いしようと思ったが、取引先の住所や連絡先を勝手に伝えて問題ないだろうか?

解説

 今回の2つのケースでは、
 1の事例では従業員の携帯電話番号を、2の事例では、取引先の住所や連絡先を第三者に伝えようとしていますので、いずれも連絡先などの情報を第三者に伝えることが問題となっている点では共通します。
 ただ、片方のケースでは法的に問題がないのですが、もう片方のケースは法的に問題があります。問題があるのはどちらでしょうか?

 この点、1のケースは従業員の情報であることや、親に対して伝えるという点で、問題がないのでは?と考えられるかもしれません。ただ、従業員の情報であっても勝手に第三者に伝え、その伝わった情報を第三者が自由に使える状態にすることは、個人情報の第三者提供として問題となります。

 これは伝える先がその従業員の親族であっても変わりはありません(もっといえば、電話で問合せを受けただけですので、本当に親からの問合せかも確証はありません)。そのため、1のケースは伝えてしまうと、個人情報の第三者提供として問題となり得ます。

 具体的には、提供することについて従業員の同意を事前に取ることが必要となり煩雑です。むしろ、電話をかけてきた人の連絡先を聞いて、従業員に連絡するよう伝えるといった対応が適切でしょう。


 他方で、2の事例はどうでしょうか?
 取引先の情報を外部に伝えることになるので、これについても同意がなければまずいのでは?と思われるかもしれません。ただ、この場合、デパート(さらにはデパートから依頼を受けた運送業者)は、提供された情報を使って勝手になにかをすることは許されていません。あくまでも、お中元を配送するという目的が限定され、その目的に沿った形で委託されたに過ぎません。

 そのため、このような場合には依頼する人と依頼される人は一体としてとらえられますので、デパートや配送業者に情報を伝えることについて同意がない場合であっても、違法とはなりません。

 もっとも、この場合にも委託をした先を監督する責任はあるとされています。具体的に委託先として適切な委託先を選定したり、しっかりと個人情報が管理されているかを確認したりすることは必要となりますし、これを守らずに個人情報の漏洩などが生じた場合には、委託したことによって責任が生じる可能性があります。


 今回は、個人情報を第三者に伝えることが違法となる場合と、違法とならない場合という点についてよくある事例を交えてご紹介しました。
 次回も引き続き事例をふまえて、個人情報について解説していきます。

【執筆者プロフィール】
弁護士 高井 重憲(たかい しげのり)
ホライズンパートナーズ法律事務所
平成16年 弁護士登録。
『税理士のための会社法務マニュアル』『裁判員制度と企業対応』『知らなかったでは済まされない!税理士事務所の集客・営業活動をめぐる法的トラブルQ&A』(すべて第一法規) 等、数々の執筆・講演を行い精力的に活躍中。

第一法規「税理士のためのメールマガジン」2024年8月号より

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