見出し画像

山本健介「私たちは私たちの私たちにふさわしい私たちへ」の感想など

上牧晏奈です。脚本を書いたりする人です。最近かなり無職です。

あなたの今日はどんな感じですか。わたしはドラッグストアで氷を買いました。


先日、どらま館という劇場の企画に参加しました。

4日間で短い演劇を作り、よりよい稽古場を、創作を考えようという企画でした。では、3チームに分かれてこの戯曲を上演します、と渡されたのが

この戯曲でした。大学生の時に所属していた劇団森(もりと書いてしんと読む)の、とても先輩が書いた戯曲です。

その戯曲の感想と、ちょっとだけ「えんげきのえ」の感想を書きます。

戯曲の感想

1回目読んだときの感想は、なんかよくわからない、でした。

2回目読んだときの感想は、なんかよくわからない、でした。

それからちょっと経って、配役も決まって、くり返し戯曲を読んでいると、急にすっと入ってくるタイミングが来ました。きたきたきた。おもしろい、し、わたし(上牧)のしんどさの近くにある戯曲だ。

終わっていく世界の中で、「面接」でもなく、「面接の練習」をやっている人たち。そんなことしている場合じゃないだろという、おかしさかわいさなさけなさ。ああまじでわたし(上牧)たちだなあと思った。

わたしが演出するなら、やな時間をコツコツ積み重ねていって、トマリトがゼタに「あーあ」と言うところ、カツデンテイが「助け呼んできてくれないかな」と言うところ、ゼタが「ここに、います。」と言うところ、で段階的にわずかに(ほんとわずかに)希望のようなものが観えるようにして、進んでいくかに観えたところで、急に全部を奪う、みたいなやり方だなと考えたりした。「フィクション度の高い津村記久子」という言葉を、自分のイメージを固めるために生み出したりもした。津村さんの小説は、最後にプスっと針で穴を空けて、細く強い風が入ってくるみたいだなと思っていて、それに近いものをこの戯曲に感じた。気持ちのよい時間がわずかである、その気持ちのよさもわずかな大きさであることが大切。

簡単に気持ちよくさせてくれないところが 本当 だと思った。今生きている世界が、急に良くなったりはしない、自分が生きている間にはどうにもならないこともたくさんありそう、だし、そんなこと言ってる間に、終わりが来るんじゃないかってわたしは思ってるから、この戯曲はわたしにとって 本当 だった。というか、戯曲を読んでいるうちに自分がそう思ってたことに気が付いたという感じ。

一番好きなセリフは

カツデンテイ「ゼタさん、声が大きいじゃない。あなたがどこにいても、あなたの声って、無言でも下まで響くから。うん。……誰でもいいから。(後略)」

山本健介「私たちは私たちの私たちにふさわしい私たちへ」より

です。「あなたの声って、無言でも下まで響くから。」って言葉すごい。声にならなくても、言葉にならなくても、存在は無視されない、という存在の絶対的な保証の言葉だと思った。言ってないことが在る、静かにしててもそこに居ると分かってもらえることはやっぱり希望。言ってないことが在ると分かる、は、言ってないこと勝手に推し量る、とは違うのが難しいところ。近くにあるから間違っちゃいやすい。

タイトルの終わりが”へ”なのうれしいな。進んでいく矢印がある助詞。山本さん(脚本家)からのプレゼント感がある。

企画の感想

気づきも、楽しさも、失敗も、たくさんあったという感じです。稽古して、発表して、振り返って、いっぱいやりとりをした感覚はあるけれど、それでもあの時間に声として現れなかったこと(言えない、言わない、本人も気づいてないけど思ってたなどなど)が無限にあるんだなということを今考えています。

至極個人的な気づきとしては、この企画への参加は「お仕事」だから「自分の気持ちをいくら犠牲にしてもよい」(そんなわけないのに)というマインドになった瞬間があって、自分に「お仕事の呪い」がかかっていることにゾッとしました。その呪いがかかっているわたしが今無職なのは納得がいく現実です。途中でその呪いに気がついて、ちょっと頑張ればできることを自分の役割として、それを果たすことを楽しむことができたのはマルでした。

あと、演劇が、おもしろかったです。

ダンボールこんなに積むと、こんな空間作れるんだ、とか。3日目のAチームの「何やってんだろうって事の、……連続だよねぇ」が妙に刺さったな、とか。同じ戯曲を繰り返していても、毎日変わっていく身体を通って出てくる言葉が生き物でした。

これからの創作に影響を与えないわけがない時間を過ごすことができました。ありがとうございました。




「助けてくださーい!」


                              上牧晏奈


わたしがいるチーム

最近書いた台本

また!

支援いただけると、もっと書く時間が増えてすごいことになります。