「馬と鹿と狼と赤ずきん」

「馬と鹿と狼と赤ずきん」
 
赤ず  おばあさん どうしてそんなに耳が大きいの?
 
狼母  それはね お前の話をよく聞くためだよ
 
赤ず  おばあさん なんでそんなにお口が大きいの?
 
狼母  それはね・・・それはね・・・
 
赤ず  何? なんでそんなにお口が大きいの?
 
狼母  それはね! お前を食べるためだよ
 
赤ず  狼さん その変装でなんで騙せると思ったの?
 
狼母  ん?
 
赤ず  その変装では、さすがに騙せないでしょ
    どういう根拠で騙せると思ったの?
 
狼母  怖くないの?
 
赤ず  その変装で騙せると思ったのは、とても怖い
 
狼母  そうじゃなくて、食べられるんだよ
 
赤ず  その変装をしてない普通の狼さんに食べるって言われたら
    とても怖いけど 
 
狼母  変装してても、狼は狼だよ
 
赤ず  そうなんだけど、その変装をしてる狼さんは
    ちょっとなんていうか
 
狼母  何? 言って
 
赤ず  馬鹿なんだろうなって思っちゃうから
    馬鹿の言葉って入って来なくて
 
狼母  馬鹿?
 
赤ず  馬鹿でしょ 馬と鹿で馬鹿だけど、さすがに馬鹿でしょ
 
狼母  食べられるんだよ
 
赤ず  わかってるんだけど、この変装で大丈夫だって
    思ったことを想像すると、シリアスになれない
 
狼母  なれないじゃなくて、食べられるから
 
赤ず  わかってる わかってるけど、ちょっと待って
 
狼母  待つわけないよ 食べるよ
 
赤ず  食べるのを待ってって言ってない 頭を整理するのを待って
 
狼母  一緒じゃない?
 
赤ず  これを一緒だと思うなら、いいや 食べな
 
狼母  ん?
 
赤ず  半笑いのままになっちゃうけどさ 私の頭の良さを
    少しでも手にいれてくれたら嬉しい 
 
狼母  ずいぶん、冷静だね
 
赤ず  普段からこんな感じ まぁさ 馬鹿は、まず馬鹿だって
    気が付くところからだから 気が付いてね
 
狼母  うーん
 
赤ず  自分が馬鹿だってことに納得いってない?
 
狼母  まぁ
 
赤ず  そっかそっか じゃあ、いいや 忘れて
 
狼母  言い負かそうともしない?
 
赤ず  馬鹿に話しても、通じないから 
 
狼母  生意気だね
 
赤ず  馬鹿は、理解できないと生意気で処理しちゃうんだよね
    まぁそれもそれでね
 
狼母  食べられていいの?
 
赤ず  いいわけないじゃん たださ、馬鹿だから交渉も出来ないし
    それにさ まぁ良いかなと思う
 
狼母  まぁ良いかな? どういう事?
 
赤ず  馬鹿に話しても仕方ないんだけど
 
狼母  一回、馬鹿辞めてくれない?
 
赤ず  あ~馬鹿だね 馬鹿って、すぐ単語に反応するんだよね
 
狼母  本当に辞めて
 
赤ず  わかった もう言わない
 
狼母  物分かりはいいんだね
 
赤ず  頭いいからね 
 
狼母  そう
 
赤ず  言い負かすことに何の意味もないって事を知ってるくらいには
    頭いい 
 
狼母  そっか
 
赤ず  質問してきたけど、覚えてる?
 
狼母  え? 
 
赤ず  質問してきて、答えようとしたら、話遮ってきたからさ
    何がしたいんだろうと思って
 
狼母  はぁ~ まぁまぁ うん なんで、まぁ良いかなと思うの?
 
赤ず  お祖母ちゃんとお母さんが仲悪くてさ 
 
狼母  あ~
 
赤ず  私が1人で来れるくらい近くに住んでるのに、
お母さん一回もおばあちゃん家に来ないの
 
狼母  あ~そうか
 
赤ず  仲悪いのを私にはバレてないと思ってるんだよね 
 
狼母  あ~
 
赤ず  どっちにも原因はあるんだろうけど、その間で立ち振る舞うのに
    疲れてたから
 
狼母  間に入るとね
 
赤ず  お母さんって、変に綺麗だから、慈愛ってより恋愛が抜けてないん
だよね お父さんと別れてからも、彼氏コロコロ変えるし
 
狼母  あ~まぁそうか
 
赤ず  お祖母ちゃんはお祖母ちゃんで、賢いから
    お母さんのそういう浅い部分を許せなくて
 
狼母  まぁそういうことあるね
 
赤ず  お祖母ちゃんは
    金を持ってるってこともあって、上から目線だしね
    言いたいだけで、伝えたくはないんだよね
    どっちもどっちでしょ
 
狼母  どっちにも似てるね
 
赤ず  綺麗で、賢い?
 
狼母  うん
 
赤ず  まぁでも、私より綺麗な人なんて腐るほどいるし
    私より綺麗な人も腐るほどいるし
    普通だよ
 
狼母  冷めてるね
 
赤ず  冷めてるのが、唯一の自分らしさかも
 
狼母  そっか 仲良くなれたらいいのにね
 
赤ず  無理なことを願うのは、まぁなんというか うん まぁね
 
狼母  今、馬鹿っていうのを我慢した?
 
赤ず  うん まぁ無理なことを無理だから
 
狼母  言わないのは優しいのか? なんだろうね
 
赤ず  優しさも、醜さも 全部を冷めさせてる
    冷めてるのが私
 
狼母  いや~ はぁ~
 
赤ず  待って待って なんで泣いてるの?
 
狼母  え? 泣いてる?
 
赤ず  うん 泣かないでよ 私は納得してるし
    泣かれるような存在ではないよ
 
狼母  いやだって
 
赤ず  食べるってことに何かを思ったの?
    それもさ 私も食べてきてるからね
    一緒 どの生き物も他の命を貰ってるわけだから
    この場合は、植物も果実も含めた命ってことね
 
狼母  うん うん そうだけど
 
赤ず  逃げ切れるとは思わないから
    食べるなら、早くしてほしいんだけど
 
狼母  いや うん
 
赤ず  それとも、勝手に同情して食べられない?
 
狼母  いや その 
 
赤ず  なに? 思ってることあるなら言って
 
狼母  狼だって、バレたかった
 
赤ず  どういう事?
 
狼母  バレれば逃げてくれるんじゃないかというか
 
赤ず  どういう事? さすがに意味がわからない
 
狼母  その。猟師の脅されてて
 
赤ず  猟師?
 
狼母  おばあちゃんと赤ずきんを食べれば、息子を返すって
 
赤ず  ん? あ~ 猟師 お母さんの彼氏か
 
狼母  だと、思う
 
赤ず  ふーん そっか お祖母ちゃんの財産が欲しくて
    私が邪魔だったってことだ
 
狼母  いや 
 
赤ず  いいって別に そっか うーんでもそれ 
    食べたら行方不明になっちゃうけど 
    いきなり2人が行方不明は、疑われそうだけどな
 
狼母  食べた後、腹から出すんだと思います
 
赤ず  あ~私たちの遺体を確認するのか
    でも。、そんな事したら、狼さん死んじゃうじゃん
    いいの?
 
狼母  息子が自由になるなら
 
赤ず  うーん
 
狼母  わかってます でも、馬鹿なんで無理な願いしていたいんです
    私が死ねば、息子は自由に生きれるって信じたいんです
 
赤ず  そっか 優しいね だったら、食べたの良かったに
 
狼母  そうなんですけど、罪悪感に駆られて 
 
赤ず  一回決めたならさ
 
狼母  馬鹿なんで
 
赤ず  馬鹿って言うか、生きづらい優しさだね
 
狼母  すいません
 
赤ず  謝らないでいいんだけど
    それで逃げてくれっ、あの変装をしたわけだ 
    うーん そっか
 
狼母  はい
 
赤ず  あのさ、お祖母ちゃん 美味しかった?
 
狼母  え? いや 飲み込んだので味などは
 
赤ず  じゃあ、生きてるかな 
 
狼母  動かないんで、生きていても気は失ってるかと
 
赤ず  自分の命より、息子のほうが大事?
 
狼母  もちろんです 

赤ず  うーん 息子ちゃんを助けてあげたいけどな
    私が逃げたら、狼さんは詰められるだろうし
    狼さんは言われたことやったほうがいいけど
    うーん
 
狼母  何か出来そうですか 息子が自由になるなら
    なんでもしますから、言ってください
 
赤ず  うん 私を飲み込んだら、すぐアイツを呼んできて
 
狼母  はい
 
赤ず  私が腹から出たら、そこからは私がどうにかする
 
狼母  どうにか?
 
赤ず  言っても、きっとわからないから、考えないでいいよ
 
狼母  え? 大人で強いですよ
 
赤ず  大丈夫だから! 私たちが出たら、すぐ自分で縫いな
    かなり痛いだろうけど、
    息子ちゃんも狼さんと暮らしたいはずだから
 
狼母  息子と暮らせるなら、なんでもします
    痛みも大丈夫です 馬鹿なんで痛み感じません
    ありがとうございます
 
赤ず  そう馬鹿なんだから、息子ちゃんと暮らす以外のことは
    考えないって約束して
 
狼母  ・・・はい
 
赤ず  (独白)そうして、ベットの横に、糸と針を用意して
    私は狼さんの飲み込まれた 
    意識を失う瞬間に、目に光が入ってきた
    ぼやけた視線が定まると
    猟師とお母さんの顔が見えた
    落胆して無警戒だった猟師とお母さんを
    狼さんのお腹を切ったナイフで刺し続けた
    狼さんは私を見ず、自分をお腹を縫っていた
    そう、馬鹿は1つのことだけをやればいい
 
                          おしまい
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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