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『涙の女王』とワンライン
韓国ドラマ『涙の女王』をNetflixで見ました。
それについて少し書いてみたいと思います。
ネタバレも含まれるかもしれないので、ドラマを見ていない人はこの先は読まない方がいいかもしれませんが、できるだけネタバレしないように書きます。
脚本家は『愛の不時着』と同じ人、パク・ジウンさん。
恋愛ドラマのまさにプロフェッショナル。 今回も楽しませていただきました。
脚本テクニックを分析しながら見ていたのですが、脚本構成以外の演出のテクニックも相当高いと感じました。 カット割りの数が多いので、マルチカメラで撮影しているのかなと思います。
俳優の感情表現の技術も高く、複雑なシチュエーションの中で演出家が求める演技を確実にこなすというのは、相当な実力がないとできないことです。
日本語吹き替え版で見ていたのですが、ラストの2話は日本語版が間に合っていなかったらしく、韓国語版で見ました。 僕にとっては、途中でキャストの声が変わったわけですが、あまり違和感なく見ることができました。
僕は恋愛ドラマと言うのはある種のファンタジーだと思っています。
ファンタジーとは現実の生活の中で厳しいことや辛いことがあったとしても、それを見ている時、一瞬は現実のことを忘れられる。そういう物語だと僕はとらえています。
しょせん現実逃避ではないかと言われるかもしれませんが、そこから現実の中で生きる元気をもらえれば良いのだと思います。
ファンタジーだからといって、あり得そうにないものばかりを並べても、物語は説得力を持つことができません。 あり得なさそうであり得るかもと言うギリギリのところが大事なのだと思います。
ありうるかもという部分を背負うのは、俳優の演技力になってきます。 あり得そうにないシチュエーションでも、そこで起きている人間の感情が本物であれば、みている観客はそれを現実のものとして感じることができるのです。
それではストーリー作りの観点から、この脚本を分析していきたいと思います。
シンプルなワンラインでこの物語を表現してみたら、どうなるのでしょう
か? ワンラインとは、『一行であらわす』ということです。
『一人の男が運命的に出会った女を、愛し、命をかけて守り抜く、女は愛されていることを知り、男を愛する話』
二行になってしまいましたが、だいたいこんな感じです。
物語を作るとき、このワンラインを書くことがすごく重要です。 これが物語を作っていく作業の中で、作家の羅針盤になるからです。
今はその作業を逆からして、物語全体を見て、最初のワンラインは何だったのかと言うことを推測しています。
このワンラインを元にして、あらゆる設定や展開が考えられているのです。
こうしてみると、実にシンプルなストーリーであることがわかります。 シンプルだからこそ、作者は迷いなく物語を進めていけるし、観客も安心してみていられるのだろうと思います。
観客は、物語が始まった時から、無意識ではこの物語がハッピーエンドに終わるであろうことを予測しています。 だから、主人公たちに、どんなに酷いことが起きたとしても、どこかで安心して画面を見続けられるのです。
観客は心のどこかで、主人公たちは、自分たちが望む方向に向かってくれると思っているわけです。 脚本家がそういうふうにしむけることができるのは、脚本作業の最初にこのワンラインをしっかりと作っているからなのです。
羅針盤を間違えなければ、作者は観客が望むところに、物語を持っていくことができるわけです。
このワンライン、本当に大事です。
このまま、作家がどのようにしてこの脚本を構成していったかというのを書いていくと、また膨大なものになってしまいそうなので、今回は、ここまでにしておきます。
それではまた。
ネタバレはしませんでしたね。