言葉をとらえるために
そう思ったあとにいざ書こうとしたら、「あれなんだっけ?」
書いてみたけど、「さっきとちょっと違うな…」
そんなふうになることがある。
そういうとき、「ああ、やってしまった。せっかくいい言葉が思い浮かんだのに…」と残念に思う。
せっかくの言葉も残せなくては、ちょっとさびしい。noteを書いている人もそうだし、文章を書きたい人はそんな切ない思いをしたことがある人も多いのではないだろうか。
だから”言葉のとらえ方”を考えていこうと思う。文章を書きたい僕たちにできることは何なのかを考えてみる。
書く人は世界を切り取っている
文章を書きたい人。文章を書くことで自分を表現している人。誰かに読んでもらいたい人、知ってもらいたい人。
そういう書く人は、『世界を切り取っている』のだとぼくは思う。
ぼくは世界を切り取って、言葉にしている。
それは自分が考えた言葉の意味や行動。動いた感情。感じた事柄。ありとあらゆるものを自分の言葉にかえて、文章に直して、見た世界を共有したり、伝えたいと思っているということではないだろうか。
たとえば『春』という言葉がある。
これをどう文章にして、世界を切り取るだろうか。だれかは、出会いの季節をあらわすかもしれない。あるいは桜の思い出語る人もいるだろう。
ぼくはこんな文章を書いた。春に思い出す人にたいするラブレター。
同じ言葉でも感じること、表現したい世界は人によってまったく違うものになる。
だから文章は面白いし、ぼくはいろんな人が切り出したいと思った世界を読みたいと思うんだ。
言葉は流れゆくもの
とめどない川の流れのように、言葉はいつだって流れゆくものだ。
浮かんでは流れ、落ちてきては流れ、降ってきては流れる。
川の中に入ってしまったものがみな流されていくように、言葉も思考の数々に流されていってしまう。
言葉は無数の言葉に隠れてしまって、それはもうほかの言葉と似通ったものでしかなくなってしまう。ちょうど川の水が最後は海にたどりついて他の水といっしょになって、どこの川の水だかわからなくなるのと同じだ。
書くことでとどめなかったら、気がつけばとおくとおくにいってしまう。似たような言葉がまた流れてきたとしても、それはまったくちがう言葉や文章になっている。
だからいまその瞬間を大事にしたいと思う。一生に一度しか出会えない言葉かもしれない。
そんなふうにとらえなくてもいいのかもしれない。
それでもいい言葉があったら、ぼくはやっぱり自分の文章にして出会いたい。
そんなふうに言葉や文章をとらえるのも、またわるくないなと思うのだ。
言葉をとらえるために
だからいつだってぼくらは、書かなくてはならない。
書かなくてはならない言葉なんてない。そんな文章もない。
それでもぼくら書きたい人たちは、言葉を書き留めなくてはならないんだと思う。
書きたいと思った言葉を文章にしなくてはならない。そうしないと次の瞬間には消えてなくなってしまう。同じような言葉が思い浮かんだとしても、やっぱりなんだか違うなと書くことを諦めてしまう。
それではもったいない。
せっかく切り取れたはずの世界が切り取れなくなってしまう。また違う形で切り取ることになるかもしれないし、とうぶんあとになって切り取ることにもなる。
だから、いまその一瞬を切り取ろう。世界を書き出そう。
ぼくは今日、車を運転していた。
その瞬間に言葉が降りてきた。
前方に駐車できるスペースがあった。ハザードランプをつけて、後方に車が来ていないことを確認して、車を停める。
ぼくはすぐに文章を書き留めると決めている。
なにをしていようと短い時間でも、すこしの文章でいいから書き留められると世界を残すことができる。僕なりの言葉で、ぼくにしか書けない文章で。
iPhoneを取り出して、メモを開く。
書こう。
そう思ったとき。
ああ。しまった。
なにを書きたかったか、思い出せなかった。
また切り取れなかった。世界を書き出すことができなかった。
背もたれにもたれかかり、呆然と前を見る。
ふうとため息をつく。
言葉はいつだって流れゆくものだ。
ならばいつだって言葉をとらえられるようになろう。
そう思った瞬間には、とらえられなくなっていることもある。
それでいい。それもわるくない。
これだから書くことはやめられないのだと思うんだ。
また書きたいと、もっといい言葉をと、世界を切り出したいと思わせてくれる。
文章を書くことに飽きがこないのはそういうことだ。
こんなにも答えがないものがほかにあるだろうか。
きっとたくさんあるんだ。
絵とか音楽とかダンスとか。表現とよばれるもののありとあらゆるものは、きっとどこまでいっても答えはない。
でもぼくらは書くことにそれを見出した人たちだから。
いつだって、言葉をとらえられるように。
書くことでしか、言葉はとらえられない。
書いて書いて、書き続けよう。
ぼくは、ぼくの言葉で世界を切り取っていく。
だからあなたにもあなたの言葉で世界も切り取ってほしい。
自分にしか書けない言葉を、どこまでも探しにいこう。
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書きたいあなたへ
いつまでも書き続けたい物書きより
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