死と向き合うマサイの戦士との出会い
結婚してから新婚旅行にまだ行ってないことをふと思い出した。
ギリシアに行きたいと言ってた奥さんの意見を無視するかのように、
僕はケニアに行って本物のサファリを味わいたいと言った。
最初は渋っていた奥さんだったけど、
リアルなシマウマやライオンを間近で見ることができるパンフレットや動画を観て、
ケニアに行こうということになった。
ケニア⇒モルディブ⇒ドバイが新婚旅行の目的地となった。
アフリカの大地はとてつもなく広く終わりが見えない。
人間は大地に飲み込まれる小さな蟻と同じことを知った。
こげ茶色の絨毯を敷いたようなヌーの群れに心を奪われた。
巨大な鳥の死骸に群がるハイエナの声、
数匹の子供を従えたライオンの母親が歩く姿は凛として美しかった。
野性の象の巨大さに、その眼差しの鋭さに声を失った。
巨大な夕陽は辺り一面を紅に染める。
ケニアにはあの有名なマサイの戦士が住むと聞いていた。
マサイの戦士、もし出会えたら何を話そうかと楽しみにしていた。
夢は案外とすぐに叶う。
僕は知らなかったのだが、マサイの戦士が同行してくれるツアーがセットになっていたのだ。
172cmの僕を遥かに超える彼はすらりと長く美しい褐色の肌に濁りのない瞳をしていた。
お互い拙い英語でどこから来たんだ?とたわいもない会話を重ねた。
マサイの村では成人した大人と認められるためにはライオンと戦って生き残らなくてはいけない。
「ライオンと戦うのは怖くないのか?」
「怖くはないよ。だって僕はマサイの戦士だから」
そう言って彼は微笑んだ。
その屈託のない笑顔は今でも脳裏に刻まれている。
彼はどこまでも純粋で、自分の運命を受け入れる強さがあった。
仕事をどうしようかと悩んでいた自分がちっぽけに見えた。
その時、もう自分に嘘をついて生きるのはやめようと思った。
当時一緒に仕事をしていた税理士にマサイの大地から「やめます」とメールを入れた。
帰国した僕は15個あるサイトをすべて閉鎖していった。
つまり収入源を絶っていったのだ。
翌月からほとんど無職になった、1円も収入は無くなった。
「文章を書きたい」
と奥さんに伝えると、
「いいやん、やりたいことやり」と答えてくれた。
「しばらく仕事も無くなるし、生活費も入れられなくなるよ。」
そういう僕に彼女は
「いいよ、なんとかなるし」
と言って笑っていた。
僕は間違いなく幸せ者だった。
30過ぎの男が突然今の仕事を辞めて、自分のやりたいことをやると言ったら、
世間の奥さんの99%はNOと言うだろう。当然だ、彼女たちは家庭を守る責任がある。
しかも彼女のお腹には新しい命が宿っていた。
今でも彼女に頭が上がらないのは当然だろう。
僕は彼女の言葉に救われて、文章を書き始めた。
書き始めて気づいたことは、文章をいくら書いても1円にもならない現実だった。
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