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シングルスピードパスハンティング東北横断核心(大里峠)

シングルスピードでのロングライドをした8月から遡ること3ヶ月前、私はシングルスピードで仙台から古い峠を狩り(パスハント)ながら日本海側の新潟は村上を目指していた。

初日には仙台を出発し、有耶無耶関を越えて山形に入り、飯豊の宿まで100kmを走り、翌日は小国界隈の峠をいくつか越えて日本海を目指した。

そんなツーリングの最後の峠、大里峠にとりついたのは午後1時半。
序盤は穏やかでとっつきやすく、踏み固められていて快適に自転車を押していける。
雪国らしい豊かな緑を脇目に、熊除けの叫びを度々発して歩く。

親切な道標
温かな旧街道

暫く行くと旧街道は沢を渡りながら次第に尾根へと至る雰囲気を強めていく。
鬱蒼とした中にも空が抜けるような気配が増していくのだ。この爽快さは街道パスハントの醍醐味かもしれない。

乗車できる平坦路と控えるプチ渡渉
峠に至る尾根
峠のある稜線が近づく

峠も目前になると、鉄塔メンテナンスの踏み跡が明瞭で、非常に軽快に自転車を押して登れる。
狩り払われた歩道から望む青々と茂る葉と空は気持ちが良い。思ったよりも早く峠に着きそうだし、この調子ならば新潟側の下りもさぞ軽快にいけるだろう!とか思いもめぐる。(地形図からそう簡単ではない可能性も示唆されるものの楽天思考)

大里峠

爽快な斜面を登り、少し茂る木々に分け入ると、古い社と峠の道標が目に入る。
なんとも寂しげで良い峠だ。この峠がどんな言われのある峠なのかはよく知らないが、昔は人々が行き交っており、その時代の気分を伝えるために山形側は定期的に整備などをしているようだった。
ここで一息つきたいが、もう午後の2時半を過ぎている。
新潟側の様子はこうとは限らない。峠道は、管理している自治体が違えば尾根を境にガラリと変わる事なんてザラだ。そそくさと自転車に飛び乗り、シングルトラックを走り出す。

雪に潰れた藪。夏には来たくない!

走り出したところ、すぐに自転車には乗れないフカフカの薙ぎ倒された藪に突入した。
雪に倒されたあとで歩きやすくはあるが、自転車は乗りにくい。降りて押していく。
この時点で、山形側とは匂いが違う。覚悟が決まる。担ぎ降りる感じだな。

茶屋の跡
獣の冬毛、たぶんカモシカ

街道は比較的古い人の痕跡、そして新しい獣の痕跡を残している。
人が来ていないわけではないが、どちらかと言うと獣のほうが来てるんだなと思うと、俄然シャウトの頻度が増える。
そして、自転車を押し、担ぎ、脚を絶え間なく動かし下方に前進する。
興奮しつつ、突然道がバックリ切れていたりするのに出会う。間違いない!この峠の新潟側こそがこのツアーの核心部だ!

沢沿いの街道は崩落多数
ルート

沢沿いのルートが流失して、ルートファインディングしつつ渡渉するという非常に面白いシチュエーションもあった。単独かつ、初めてのエリアで自転車帯同なもんで、緊張するが、こういうときは一回腹の底から叫んでみる。
「ッだ!集中!いいね!」
すると、緊張が声に乗って吐き出されるようで心地よく、興奮に置き換わり、次第に集中して冷静に動ける。
自転車を置いて空身で斜面を登って、担ぎでクリアできるルートを見出す。
担ぎが厳しければ、自転車を先に降ろし、自分は遠巻きに沢を迂回して自転車を回収していく。
焦らずに、こなしていくことが何より生持ちが良い。

幾度か沢を渡るサイクリング
状態のいい道を担いで降りる

そんなことを繰り返して、ついにGoogleマップにも載っている林道の突端に着いたが、そこからもまた楽しかった。倒木だらけで、降車してくぐり抜けねばならず、さらに杉の落枝や泥もあり、これらが乗車を妨げる。

林道は倒木多数。

何本も倒木を潜る、時に担いで越える。1回として同じ動きは無いので、飽きることはない。
こういう林道下りは、いつ終わるのかとか、果たしてあとどれくらいかかるのかとか先の事を考えると、そればかりに時間と気力を削がれるので、とにかく歩くのだ。流れを止めずに、歩き、押し、そして乗れるところではガンガンにシングルギアを踏んだ。

そして辿り着いた舗装路は、いつになく平坦で滑らかで、空でも飛ぶような心地よさがある。
そのまま、県道、国道をキコキコ回して午後の5時20分、日本海に着いた。

日本海

私は、幾度か海から海へのパスハンツアーをしているけれど、シングルギアでのツアーは今回が初めてだった。
シングルギアでのツアーは、踏む、歩く以外のギアが無く、思考はシンプルになり、全体にリズムがあった。乗車と降車しての歩行がシームレスなので、とにかく前進することに集中でき、結果として多段ギアの自転車と大差ない感触がある。
不思議だ。

大里峠、シングルギアで越えた思い出深い峠の一つになったし、自分の自転車に求める楽しさの形を見せてくれたフィールドだったと思う。
もう行こうとは思わないけれど、ああいうワクワクをまた味わいたい。
それが、夏のロングライドにもつながったのかもしれない。

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