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「ホームレス支援」について思うこと③

前回のやつはコチラ↓

昨日、Twitterを開いたら、誰かがいいねかリツイートしていたかで、一つのツイートが目に入りました。

アカウントはフォローしていないけど、前々から同じように度々ツイートが目に入っていたのですが、「同業さんなのかな?けど、スタンスが全然違うなー」と、毎回のように思いながら見ていました。

何が正くて、何が間違っているかなんて、判断できるような人格も知識も人生も歩んでいないので、批判とかではなく、あくまで自分が現場で活動している中で上記ツイートを見て感じたことをここに書きたいなと思います。

と、言うのも、この写真の書類(生活ノート)を見たときに、素直に「こういうのも良いかもしれない」と思ったからです。
前提としては、このツイートでこの書類を見ただけで、その他の情報は持っていません。

なぜ、良いのかと思ったか。

それは「居宅に上がる」ことがゴールではなく、居宅へ移行した後の生活もとても重要だからです。

僕は、いわゆる「ホームレス支援」活動をしていくなかで、今まで何人もの路上で生活していた人を生活保護の申請を提案し、申請と居宅生活への移行(「居宅に上がる」と言います)のお手伝いをしました。
また、大阪市西成区釜ヶ崎で15年以上活動をしている中で、地域内で同じように居宅に上がった人と何人も関わってきました。
(ちなみに大阪市西成区は生活保護率が全国で一番高い地区であり、その理由の一つとしてホームレス状態だった人が居宅に上がり生活保護を受給していることが挙げられます)

過去、ホームレス状態の人が生活保護を受けることは容易ではありませんでした。
しかし、さまざまな社会運動(アドボカシー等)や活動を経て、自治体によって違いはあると思いますが、ホームレス状態から生活保護を受給する際のハードルが下がりました。
自分が関わった人の中でも直近2年でホームレス状態から生活保護を受給できなかった人はいません。

今まで何人ものホームレス状態の人の居宅生活への移行に関わりました。
振り返ってみれば、過去の方がそれが良いことであると信じる思いは今より強かったと思います。
実際、その後も何年も関わり続けている人もいますが、関係性が切れてしまった人や、居宅移行後に困難な状況に陥った方もたくさんいます。むしろ、僕の実体験ではそっちの方が多いです。
いくつかの実体験を紹介させていただきます。

①関係が切れた後、孤独死

何度か経験したことがあるお話しです。
西成区ではない地域の団体で働いていた時、ホームレス状態だった人が相談に来られて、そこから居宅探しと保護申請のお手伝いをしていました。
居宅に上がるまでは頻繁に事務所に来てくださるのですが、居宅に移行後は来所頻度がどんどん下がり関係性がなくなっていってしまうことがあります。
携帯電話を持っていない人が多く、たまに訪問しても不在だったりすることが多く、そのまま関係性が途絶えてしまいます。
その後、しばらくして、ある日突然自分の携帯に警察から電話が来ます。
電話は「●●さんが部屋の中で亡くなっていたが何か知らないか」と言うような内容です。家を借りるときに保証会社の連絡先に自分の番号と名前を書いてるので、こういった時にかかってきます。

②一人暮らしの生活を維持できない

長期間野宿生活を行なっていたり、日雇い労働をしながら飯場(寮)やドヤ(簡易宿所)で生活を続けていた人が、生活保護をきっかけに一人暮らしでの生活をスタートするわけなのですが、一人暮らしでの生活を送っていくためにはさまざまなタスクをこなしていく必要があります。

例えば、

・家賃の支払い
・水光熱費の支払い
・ゴミの分別とゴミ出し
・部屋の清掃
・家計管理
・各種手続き
・ご近所さんとのやりとり

などがあります。
そういった経験がなかったり、本人の特性の影響で行うことが苦手だったりすることも少なくありません。
上記のようなタスクができないと、
家賃未払いによるロックアウト、家計が破綻し困窮状態となる、住民トラブル、不衛生な環境で不快的不健康な生活となる、などに発展してしまうことが考えられます。

③孤立化、引きこもり状態

居宅移行後に孤立化や引きこもり状態となってしまうこともよくあります。
そうなることにより、精神状態が不安定となってしまい日常の生活に支障をきたしてしまうこともあります。自ら生きることを終わらせる人もいます。

我々のような「支援団体」に繋がってくる人の多くは、生まれ育った場所から離れていることが多く、新たに住まうこととなる居宅の地域に縁もゆかりもありません。
その結果、孤立化してしまうケースが非常に多いと感じています。

「ホームレス」→生活保護→「その先」の生活

上記①〜③のお話しは、少なくとも自分の周りでは特殊なケースではなく、よくあるお話しです。
孤立し、一人で部屋の中で亡くなる方は少なくありません。

日本国憲法第25条では「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と記載されていますが、
僕の経験の中では、ホームレス状態であった人が生活保護で居宅に移行するだけではそれを満たすことは難しいことであると感じています。

住まいだけではなく、
・安定的な生活
・心身の健康
・社会的つながり
などもとても重要です。
しかし、自力でもしくはケースワーカーとの関わりだけでは満足にいかない場合もあります。
その背景には、経験の差や幼少期の家庭環境や生育歴や本人の特性などが影響していると思っています。

10年以上前の記事になりますが、東京池袋で実施された森川すいめい医師の調査結果が下図になります。

(民医連新聞 第1495号より引用)

このデータより、41%の人が何らかの精神疾患を抱えており、34%の人が知的機能の障がい疑いがあるという結果がわかります。(詳しくはNPO法人TENOHASIさんのサイトを)

本来であれば、全てに手厚く関われることが望ましいのですが、
現状、稼働年齢層(満15歳以上64歳未満の者)で、障がい者手帳を持っておらず、何かしらの疾病もない場合、何の制度も適用されずに「一人暮らし」を続けなければなりません。
しかし、先述の通り、一人暮らしの生活を維持できずに居宅内で孤立してしまったり、居宅を離れ、再度路上での生活に戻る人もいます。

自分自身、この状態に複雑な思いを持ち続けていました。
そんな思いは活動を続ける中で募っていく一方だったのですが、
2019年に大阪市西成区にて新しい事業が生まれました。
「西成版サービスハブ構築・運営事業」です。

「サービスハブ構築・運営事業」

大阪市西成区による委託事業ですが、この事業に関しての詳細は、

↑コチラに過去書かせていただきましたので、かいつまんで説明させていただくと、
・大阪市西成区で15-64歳で生活保護を受給している
・稼働能力がある(「就労不可」ではない)

方を対象に、

・総合的な生活支援
・就労支援
・地域の社会資源とのマッチング
・社会的つながりづくり

などを実施しています。

行政の保健福祉課(生活保護課)と連携して支援を行います。
このような事業はおそらく日本国内においては西成区だけだと思います。
この事業が始まることになった時に、これなら今までとは違った関わりができると思いとても期待しました。

と、言うよりこの事業で働くことにしました。
そして、現在管理者として働いています。

僕以外には、前職がホームレス支援団体で相談員をしていた職員や救護施設で働いていた職員もいます。今までの関わり方も大切だけど、その先の関わり方の選択肢があった方がいいと現場で感じ、考えてた職員複数人がここで働いています。

まだまだ力及ばない時やどうにもならないことが多々あるものの、この事業によって今までできなかったことがたくさんできるようになりました。

本当にごくごく一部の一例になりますが、
・身分証などを発行して携帯電話の契約や銀行口座の開設ができた
・健康状態が改善され、就労(本人希望)に繋がった
・障がい者手帳の取得と就労継続支援A・B型作業所に繋がった
・不衛生な居宅内の状態の改善
・コロナワクチンをスムーズに摂取することができた
・疾病の治療ができた
・地域内で知り合いがたくさんできた
・ボランティア活動をし始めた
などが実績としてあげられます。

いざこの事業に自分自身が携わってみて、もっとこの事業がいろんなところに広がったらいいなと強く思いました。

大宮区「生活ノート」に関して

話しは戻り、冒頭のツイートに挙げられていた、大宮区の「生活ノート」に関して。
一人暮らしでの生活を維持できない人もたくさんいます。
その結果、命を亡くす人もいます。
そういった観点において、命を守るため、健康な生活を送っていくためのアセスメントを目的として、このような情報を聞くことは、必ずしも否定されるべきものではないと思います。

大宮区がどのような目的でどのようなアプローチ、コミュニケーションでこの書類を渡し、提出するように求めているのかは知りません。
人格を蔑視したり、人権を踏みにじることを目的に使用しているのであれば、許されるものではありません。

しかし、例えば、このノートで得た情報によって、「一人暮らしの生活の維持」が困難である可能性を見出し、重点的に関わりを持ち、例えば病院での受診や障がい者手帳の取得とヘルパー利用やグループホームへの転居、
などにつながり、結果本人が快適に過ごせるようになる。
と、言うことも、十分にあり得ると思います。

人の尊厳を傷つける質問はできる限りしたくはないと思っていますし、すべきではないと思っています。
しかし、配慮を行った上で、必要な情報を聞くことは問題ないと思います。その際には心理的な安全性を意識した上で、「答えたくないことは答えなくていい」ことを伝えるとともに、それが許される場づくりを怠らずに。
大宮区の生活ノートに関しては、画像を見る限り「必ず」と記載されており、拒否できないようになっている可能性もあります。(そんなことはないと思うのですが)

自分でできることを自分でしたい時には自分でしたらいいと思います。
ただ、自分が苦手なことやなかなかできないことは、遠慮なく他者や使えるサービス・制度を使ったらいいと思っています。

おわりに・・・

今回、他の人のツイートを引用させていただき、記事にした理由として、
・現場で活動する中で、一人暮らしの維持が難しい人もたくさんいることを見てきた
・今まで命を失ってきた人を見てきた
・「ホームレス状態→生活保護で居宅生活」の次の議論と選択肢がもっとあった方が良いと思っている
・自分が今働いている「サービスハブ事業」に新たな可能性を感じている
などがあり、
この「生活ノート」が一方的に否定されることに、疑問を感じ、自分が現場で見てきたものと感じたこと、考えていることを書こうと思った次第です。



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小林大悟@釜ヶ崎
釜ヶ崎で稼ぎ、釜ヶ崎でほぼお金を使い切るライフスタイル。余ったお金は基本的に釜ヶ崎の支援団体に寄付してます。なので、応援していただくと、結果的に地域内の飲食店か支援団体にだいたい届くことになります( ^ω^ )