四等星は藍色の雲間の滲みとなって
三月の記憶は、双眼鏡のレンズに彩りを与える
「もうそろそろ、水をやらないと」
彼は緑色の詩集を観葉植物と呼んでいる
手際よくダイニングテーブルを片付けて
ノートに書いたインクが乾くまでの束の間に
昔よく観た映画のアングルを思い出している
それは、光と影の、一寸した交錯で
色彩を忘れる前の祖母の写真の背景のようで
褪せた新聞紙の写真の遺失物だった
雨脚は、五月の面影をレインコートに隠して
はじいて、つたって、流れ落ちていく
水溜まりに映った月色のビルディングの
灰色の部分が、今日の僕だった
雨のままで、冷えていけばよい