夢さすらう 1話 同じ夢を見る少年
「・・・はっ!!」
少年は布団から飛び起きる。いつもの部屋の中。
勉強していない勉強机、漫画が占領している
本棚、閉められた薄グリーンのカーテン。
辺りは真っ暗、時刻は午前1時である。
小松原真一(こまつばらしんいち)はここ最近、
いつからか、毎晩同じ夢を見ていた。
真っ暗な洞窟の中、ただ一人。
洞窟の中は不気味なほどに大きく広く、
高さは10メートルはあるであろう。
前も後ろも無限に広がっているかのような
空間があり、幅は20メートルはゆうにある。
靄がかかり、ときおりゴォーン・・・
と、不気味な音が鳴り響く。
足元はゴツゴツした岩となっており、
何度も転びそうになった。
いや、実際に何回か転んでいる。
心細いこと、このうえない。
出口を探して、しばらく1時間ほど彷徨う。
冷気は徐々に強くなり、背筋がゾクリとする。
ところどころ、洞窟の天井から水滴がピチョン
と落ちる。それが頭の上に落ちた時は腰が
抜けそうなほどに驚いてしまう。
ふと、洞窟のはるか先に、何かが現れる気配が
する。洞窟の暗さには慣れてきているが、
現れた何者かの姿は、靄がかかっていることもあり、
よく見えない。
しかし、真一はそれが何かよくわかっている。
自分を襲う者だと。
ズズズズズズ!ズズズズズズ!不気味に岩場を
すりながら、何者かは真一に近づいてくる。
黒い生き物は真一の視界をさえぎるほど大きい。
目の前が黒につつまれる。
そうかと思うと、大きな口を開けて、真一を
飲み込むのだった。
そこで目が覚める。寝覚めとしては最悪だ。
しかし、また眠りにつく。また同じ光景で
同じ体験をする。
最初は黒い生き物に対して、全力で逃げた。
しかし、相手のほうがスピードが速く、
すぐに追いつかれて飲み込まれてしまう。
ある時は、反対方向に歩いてみる。
やはり同じだ。1時間後には目の前に黒い
生き物が現れ、抵抗も空しく一飲みにされてしまう。
更に不思議なのは、夢というよりも現実世界に
いるような感覚であることだ。
格好は眠りについたときのパジャマのため、
下は裸足だ。その足の裏には、リアルな
岩場の感触がある。ゴツゴツな岩もあり、
そこを歩くときは痛みもある。
黒い生き物に一飲みにされて、目が覚めた
とき、夢の中で走って逃げていた時の疲労、
硬い石を踏んでケガした足など、全てが
何もなかったようにリセットされている。
夢だから当然なのだが、真一にとって、
この感覚が一番気持ちが悪い。
悪夢であるにも関わらず、しっかり熟睡できており、
全く不思議な感覚である。
そんな特異な日が続いたある日のことー。
「また、あの夢だよ!もう何回目だ、まったく!」
松原真一は池ノ上高校の2年6組。
つい、夢のことを考えてしまう。教室で自分の
席に座ると、また夢を思い出してしまった。
暗い洞窟の中を1時間ほど彷徨って、挙句、
よくわからない生物に食べられてしまうことの
繰り返しだ。
ふと、真一は教室の中を見渡す。
大きな黒板、ロッカー、そしてクラスメート、
平和な世界。
なんか、こちらのほうが非現実的な世界に
思えてくる。
何とかしないと、と、思っていると、中学からの
友人の柿崎智也が話しかけてきた。
「よっ、松原。元気ないな。またあの夢か!?」
「そうなんだよ。昨日もだよ。俺、なんか
病気なのかな?」
「俺も考えたんだけどさ、今度は包丁とか刀とか
何か武器を持って寝てみろよ。もしかしたら、
夢でも使えて、そのバケモノを倒せるかもしれないぜ」
「うーん・・・そうだなぁ・・・」
包丁とかで倒せるような感じのヤツじゃないん
だよなぁ・・・と、頭で思いつつ、武器を持って
寝てみるのはいいかもしれないと思った。
下校時刻になり、帰宅部の真一は、寄り道せずに、
まっすぐに家に帰り、自分の部屋に入った。
さすがに制服で寝るわけにもいかず、ラフだが、
上は黒いTシャツと、下は紺色の半パン、そして
右手には玄関に置いてあった金属バット持ち、
寝床につく。
真一は寝つきがすごく良かった。
5分もしないうちに夢の世界に落ちていった・・・
ゴォーン・・・
不気味な音と冷気、いつもの場所だ。
格好は寝るときの黒いTシャツと紺色の半パンだ。
右手には寝る前に手にした金属バットが握られている。
「よぉし!今度こそ倒すぞ!」
声が洞窟内にこだまする。
いつもよりテンションが上がり、足取りも軽い。
とはいえ、いつものように暗闇を彷徨い続けることに
なるが・・・。
「ん?」
真一はいつもと違う感じがしていた。
洞窟がいつもより明るい感じがする。
暗さに目が慣れる前から、洞窟内の様子が分かる。
更に、風が生暖かい。いつもは凍えるぐらいの
冷気なのに。
そしてその風は、いつもより強めに吹いていた。
まるで外がすぐ近くにあるかのように。
「もしかして、出口が近いんじゃないか!?」
自然に足早になってしまう。
帰宅部で普段、運動していないせいか、すぐに
息が切れるが、出口が近いなら多少は無理を
してでもと、駆け足になる。
遠くに、光が指してっ!!」
少年は布団から飛び起きる。いつもの部屋の中。
勉強していない勉強机、漫画が占領している
本棚、閉められた薄グリーンのカーテン。
辺りは真っ暗、時刻は午前1時である。
小松原真一(こまつばらしんいち)はここ最近、
いつからか、毎晩同じ夢を見ていた。
真っ暗な洞窟の中、ただ一人。
洞窟の中は不気味なほどに大きく広く、
高さは10メートルはあるであろう。
前も後ろも無限に広がっているかのような
空間があり、幅は20メートルはゆうにある。
靄がかかり、ときおりゴォーン・・・
と、不気味な音が鳴り響く。
足元はゴツゴツした岩となっており、
何度も転びそうになった。
いや、実際に何回か転んでいる。
心細いこと、このうえない。
出口を探して、しばらく1時間ほど彷徨う。
冷気は徐々に強くなり、背筋がゾクリとする。
ところどころ、洞窟の天井から水滴がピチョン
と落ちる。それが頭の上に落ちた時は腰が
抜けそうなほどに驚いてしまう。
ふと、洞窟のはるか先に、何かが現れる気配が
する。洞窟の暗さには慣れてきているが、
現れた何者かの姿は、靄がかかっていることもあり、
よく見えない。
しかし、真一はそれが何かよくわかっている。
自分を襲う者だと。
ズズズズズズ!ズズズズズズ!不気味に岩場を
すりながら、何者かは真一に近づいてくる。
黒い生き物は真一の視界をさえぎるほど大きい。
目の前が黒につつまれる。
そうかと思うと、大きな口を開けて、真一を
飲み込むのだった。
そこで目が覚める。寝覚めとしては最悪だ。
しかし、また眠りにつく。また同じ光景で
同じ体験をする。
最初は黒い生き物に対して、全力で逃げた。
しかし、相手のほうがスピードが速く、
すぐに追いつかれて飲み込まれてしまう。
ある時は、反対方向に歩いてみる。
やはり同じだ。1時間後には目の前に黒い
生き物が現れ、抵抗も空しく一飲みにされてしまう。
更に不思議なのは、夢というよりも現実世界に
いるような感覚であることだ。
格好は眠りについたときのパジャマのため、
下は裸足だ。その足の裏には、リアルな
岩場の感触がある。ゴツゴツな岩もあり、
そこを歩くときは痛みもある。
黒い生き物に一飲みにされて、目が覚めた
とき、夢の中で走って逃げていた時の疲労、
硬い石を踏んでケガした足など、全てが
何もなかったようにリセットされている。
夢だから当然なのだが、真一にとって、
この感覚が一番気持ちが悪い。
悪夢であるにも関わらず、しっかり熟睡できており、
全く不思議な感覚である。
そんな特異な日が続いたある日のことー。
「また、あの夢だよ!もう何回目だ、まったく!」
松原真一は池ノ上高校の2年6組。
つい、夢のことを考えてしまう。教室で自分の
席に座ると、また夢を思い出してしまった。
暗い洞窟の中を1時間ほど彷徨って、挙句、
よくわからない生物に食べられてしまうことの
繰り返しだ。
ふと、真一は教室の中を見渡す。
大きな黒板、ロッカー、そしてクラスメート、
平和な世界。
なんか、こちらのほうが非現実的な世界に
思えてくる。
何とかしないと、と、思っていると、中学からの
友人の柿崎智也が話しかけてきた。
「よっ、松原。元気ないな。またあの夢か!?」
「そうなんだよ。昨日もだよ。俺、なんか
病気なのかな?」
「俺も考えたんだけどさ、今度は包丁とか刀とか
何か武器を持って寝てみろよ。もしかしたら、
夢でも使えて、そのバケモノを倒せるかもしれないぜ」
「うーん・・・そうだなぁ・・・」
包丁とかで倒せるような感じのヤツじゃないん
だよなぁ・・・と、頭で思いつつ、武器を持って
寝てみるのはいいかもしれないと思った。
下校時刻になり、帰宅部の真一は、寄り道せずに、
まっすぐに家に帰り、自分の部屋に入った。
さすがに制服で寝るわけにもいかず、ラフだが、
上は黒いTシャツと、下は紺色の半パン、そして
右手には玄関に置いてあった金属バット持ち、
寝床につく。
真一は寝つきがすごく良かった。
5分もしないうちに夢の世界に落ちていった・・・
ゴォーン・・・
不気味な音と冷気、いつもの場所だ。
格好は寝るときの黒いTシャツと紺色の半パンだ。
右手には寝る前に手にした金属バットが握られている。
「よぉし!今度こそ倒すぞ!」
声が洞窟内にこだまする。
いつもよりテンションが上がり、足取りも軽い。
とはいえ、いつものように暗闇を1時間ほど彷徨い
続けたが・・・。
「ん?」
真一はいつもと違う感じがしていた。
洞窟がいつもより明るい感じがする。
暗さに目が慣れる前から、洞窟内の様子が分かる。
更に、風が生暖かい。いつもは凍えるぐらいの
冷気なのに。
そしてその風は、いつもより強めに吹いていた。
まるで外がすぐ近くにあるかのように。
「もしかして、出口が近いんじゃないか!?」
足取りが更に軽くなり、自然に足早になり、
それはやがて軽い駆け足に変わった。
遠くに、光が差している。間違いなく出口である。
出口まであと50メートルぐらいまで近づいたで
あろうか。
突然、出口が塞がれた。
正確にいえば、黒い何かが起き上がり、真一の
視界を遮ったのだ。
「出たな!」
バットを持つ手に力がこもる。闇の向こう、出口の
光の代わりに、赤い小さな光が2つ見えた。
・・・いつものヤツだ!真一は直感的に分かった。
作戦を考える間もなく、怪物が襲ってきた!
とっさに、真一は持っていたバットを怪物の目の
付近にめがけ、斜め上から大根斬りのような感じで
振り下ろす。
ガキン!!
鈍い音がして怪物の眉間にヒットする。手にも
鈍い感触が残る。
「やったか!?」
一瞬ひるんだ(ように見えた)怪物だったが、すぐに
体制を立て直して襲ってきた。
いつもならここで怪物に食べられて目が覚めるのだが、
真一は、開けた口の中へバットを思い切り投げ入れ、
自分はでんぐり返りのような感じで、怪物の横を
すり抜ける!と、同時に出口の光が差し込んできた。
怪物は口の中に入ったバットを噛み砕き、それが
いつもの人間でないと分かると、すり抜けた真一
めがけて襲い掛かってきた!
真一は、怪物には振り返らず、出口の光に向かって
ひたすら走り出した。息はすでに切れており、
限界寸前だ。
光が目の前にせまってきた!
だが、怪物のほうが動きが速い。真一に追いつき、
真一を噛み砕く!
・・・噛み砕いたのは、黒いTシャツの背中部分
だけだった。
真一は洞窟の外にいた。
外に出ることに成功したのだ。
真一はすぐに振り返った。洞窟の外まであのバケモノが
追ってくるかもしれない。
しかし、出口は人が中腰でギリギリ出れるサイズで、
怪物は出てこれないようだ。
奥の暗闇で唸る声がする。
助かったのだ。
「ひゃーっ!危なかったぁ!」
真一は体中の力が一気に抜け、その場に座り込んだ。
汗だくだ。Tシャツは背中の部分が食い破られ、
背中が見えている。
真一は呼吸を整え、改めて目の前に広がった世界を見る。
巨大な山脈が周りを囲み、山の頂上部には、雪が少し
残っていた。眼下には広大な川と深緑溢れる森。
絶景の大自然だ。
「うわー、すごいなぁ!これ、俺の夢か!」
「ちょっと、本当に出てきたわ。あなたが神様?」
上から女の声がした。
真一はびっくりして声のする方を見ると、先ほどの
洞窟の出口から少し離れたところに少女が一人立って
いた。
髪は金色、目はブルーでぱちくりしており、
真一の定義の中で、外国人というに相応しい娘だ。
膝までの黒いショートパンツに、上は手が隠れるぐらいの
長さの白いロングスリーブを着ていた。
真一はほんの少し見とれていたが、すぐに思い出す。
「神様? 俺は小松原真一。日本人の16歳だよ。
キミは?」
と、説明にもならない紹介をした。
目の前の少女は、真一を睨む。
「ニホンジンってなに?あなた、神様じゃないの?」
「そ、そら、そうだろ!普通の高校生だ!」
「コウコウセイってなによ。なんだ、神様じゃない
のか。」
「ちょ、ちょい待って!神様ってなんだよ!?」
「神様じゃないアンタに言っても分からないだろうから
言わない。もういいわ。早くどこかへ行ってくれる!?」
真一はその言い草に急激に腹が立ってきた。
「俺は今、ここから出てきたばかりで、何がなんだか
分からないんだよっ!」洞窟を指さす。
「洞窟から?確かにアンタは洞窟から出てきたわね。
と、いうことは、洞窟はどこかにつながってるって
ことよね。どこから来たの?」
「東京の自分の家からだよ!ってか、東京も知らない
のか!?」
「トウキョウ?聞いたことないわ。ここはエルミタージュ
よ。バルシレン4国の1つ、エルミタージュ。それぐらい
知ってるでしょ?」
「し、知らん!」
「本当に知らないの!?ひょっとしてアンタ、実は
実は神様?全然そんな風に見えないけど・・・」
真一は深呼吸し、頭を整理した。
これは自分の夢の中であり、現実ではない。
目の前にいるちょっと可愛らしくも憎たらしい少女は
俺が作り出した架空の人物だ。そう考えたら、俺が
この世界の万物の神様というのもあながち嘘じゃない。
「確かに俺はこの世界の神様、創造主だ。」
「えー、本当に?疑わしいなぁ」
少女はまだ疑っているようだ。
「本当だって!じゃあ、なぜお前は最初、俺のことを
神様って聞いたんだ?」
「あー、ちょっとね。この洞窟から出てくる人間は
この世界の神様で、この世界を救ってくれると
聞いたからね。」
「それでずっと、洞窟から人が出てくるのをここで
見張っているのか?」
「まさか!私もそんな暇じゃないし!
・・・まぁ、いいわ。あんた弱そうだし、
背中見えててカッコ悪いし、神様じゃないよ、
きっと。
さっきも言ったけど、もう行っていいわよ。
さよなら」
数時間後、真一は山を、道なき道を下っていた。
怒りがこみあげてくる。
「なんだ、あの女は!?偉そうに!」
神様とは思えない発言だ。
それにしても・・・自分が出てきた洞窟が、
とてつもなく高い山の頂上付近にあったことを
知ることになった。
もう何時間下っただろうか・・・まだ麓が見えない。
と共に、徐々に脱力感が体全体を覆い、足が止まる。
グー・・・腹の虫も鳴る。
「夢の中なのにお腹もすくのか・・・」
段々と力も入らなくなってきていた。
膝を抱えてうずくまる。
周りで鳥たちのさえずりが聞こえる。
日の光が差し込み、空気もおいしい。
のどかな世界だ。そしてこの世界は
自分が作ったものだ。でも力が入らない。
どうしよう・・・段々意識も薄れていく。
「あれ?アンタ、まだいたの?」
後ろから聞き覚えのある声がして、
振り向くと、先ほどの少女がいた。
しゃべらなければカワイイのに、なんて
余裕ももうない。
「待ち伏せていたんじゃないぞ、別に。
早く行けよ!」
最後の力を振り絞って声をだす。
「言われなくても先に行くけど、アンタ、
顔真っ青じゃない。力が入らないの?」
「そ、そんなこと!・・・あるかも・・・」
つい本音が出た真一であった。
「・・・仕方ないわね」
「え?!」
少女はいきなり真一を抱えたかと思うと、
真一をおんぶして山を下り始めた。
「お、おい!いいって!」
「アンタ、もう歩く力もないんでしょ!?」
「・・・・」
少女は自分より大きい真一をおぶったまま、
慣れた足取りで山を下りていく。
黙っていた真一だったが、ふと興味が湧いて
少女に尋ねた。
「な、名前を、教えて。お前の。」
「・・・レミア。レミア=キングレス。アンタは?
さっき言ってたけど、どうでも良かったから忘れ
ちゃった」
「小松原真一だ。」
サァーっと軽い風が吹き、レミアの髪を揺らした。
ふっと、ほんのり甘い香りが真一の鼻孔を
刺激し、これがレミアの香りだと分かりかけた
頃には、そのまま、目を閉じて寝息を立て始めた。
「おい、小松原。おい。・・・なんだ寝たのか?」
完全に眠りについてしまったようだ。
「大丈夫かな、こいつ。自分で神様とか創造主とか
言ってたけど、本当かな。確かにあの洞窟から出て
きたし・・。だったら、情けない神様がいたもんだ」
やがて、目の前に小さな村が見えてきた。
人口30人ほどの小さな村、ゼローク村である。
小松原真一の壮大な夢冒険が今、始まる。