10話 ガルナの塔最上階
ガルナの塔の最上階では、激しい剣術戦が
繰り広げられていた。
ギルの黒い鎧は、クラシスの攻撃による
刀傷が無数についていた。
鎧のないところは、当然、傷となって赤い
線となり、そこから血がツッ・・・と流れて
いる。
ギルは最上階に来るまでに、無数の魔物を
この世から葬っており、体力も限界に達して
いた。そして今、体力は既に限界を超えており、
呼吸は非常に荒い。
一方の魔導士ダルクは、全く動けない。
目の前にいる魔物は、階下で倒した魔物とは
レベルが1段も2段も上だった。
より強力な魔法で応戦したいが、その前に
ヤツの強力な爪が、今度こそ、ダルクの
体を貫くであろう。
いつでもダルクを殺せる余裕があるにも
かかわらず、それをしないのは、ギルと
クラシスの剣術戦を見ているためだが、
その間も隙は与えなかった。
二人の戦闘をしばらく見て、魔物はダルクに
話しかけた。
「ほう、さすが王国一の騎士だな。少しずつ
形勢が変わりつつあるぞ」
クラシスの剣がギルの胸部を切り裂く。
それを皮一枚でかわし、強烈な斬撃を
叩き込む。クラシスは剣で受ける。
片手では受けきれないと悟り、剣2本を
クロスさせ眼前で防ぐ。
クラシスの腕に鈍い衝撃が走る。
斬撃を右に受け流し、自由になった左の
剣をそのままギルの顔めがけて走らせた。
ギルはさらに身をかがめて躱し、がら空きの
腹部へ右拳をめりこませた。
「ぐはっ!!・・・」
クラシスの顔が苦痛にゆがみ、姿勢がくずれ、
前のめりになる。
今度は、ギルが左手に持った剣を水平に
走らせた。クラシスの体はまっぷたつに
なったかと思われたが、後ろへ飛びのき
それを躱す。2、3回床を転がり、体勢を
立て直す。
しかし、クラシスも息が乱れていた。
最初はクラシスの圧倒的有利な攻勢だった。
しかし、致命傷を与えるに至らず、何合か
斬りあううちに、徐々にギルの攻撃回数が
増えていたのだ。
「き、貴様、バケモノか・・・!!
満身創痍なその体で、どこにそんな力が
残っているのだ」
「レミア姫を救いだすまでには倒れるわけには
いかぬ!」
そして、ダルクの方に向けた。
「ダルク!私が助けに行く!それまでなんとか
生き延びろ!」
そう言うや、二人は再び、ぶつかり合った。
ギルの強烈な一撃をスライディングしながら
かわし、すぐにふり向いて、斬撃を浴びせる。
上、右下、左、右斜め上、下。
クラシスは嵐のような攻撃で、ギルに反撃する
隙を与えない。僅かな隙が生じたとき、そこに
致命傷の一撃を叩き込む。
一方、ギル。初撃をかわされ防戦一方となった。
攻撃と攻撃の間に生じる隙を伺い、そこに渾身の
一撃を叩き込むチャンスを待つしかない。
しかし、その間にダルクは魔物に殺されてしまう
かもしれない。
「このままじゃ、あいつはクラシスを倒して、
俺との戦闘になるな。さて、ザコ、そろそろ死ぬか?」
魔物がダルクを見た。
ダルクは自分の持っている魔法で、最強の魔法を
詠唱破棄で唱えることにした。
俺の魔法が先か、やつの攻撃が先か・・・
「!?」
ふいに魔物が目の前から消えた。
魔物は左から迫ってきており、すぐ目の前にいた。
真正面から来るものと思っていたダルクは
完全にふいをつかれた。
詠唱破棄の魔法を唱える時間も余裕もない。
魔物は爪をたて、ダルクの左胸を貫こうとする。
「テイシン」
どこからか少女の声が聞こえ、その言葉で魔物の
動きが急に止まる。
「な、何っ、体が動かな・・・」
「下、斜め下前、右・・・オー!」
ダルクにとって、聞き覚えのある声が重なったかと
思うと、一人の男が、ダルクの右側から現れ、
すさまじい勢いで魔物の横をすり抜けた。
「!!!!!!」
魔物の上半身と下半身は永遠の別れを告げた。
真っ二つになり、床に倒れこむ。
そこからは紫の血が大量に吹き出し、不気味な
水たまりを作り始めた。
魔物はひとことも発することなく、絶命した。
その横には、剣を水平に払った小松原真一がいる。
しばしの沈黙。ギルも、クラシスもあまりの光景に
戦いをやめて立ち尽くしていた。
「ふう・・・なんとか間に合ったな。あ、こいつ、村で
俺を殺したヤツじゃん!・・・しかし、この技、体が
めっちゃ痛いわ・・・!」
真一が体をさすりながら、ダルクに顔を向けた。
「え、お前、どうして・・・」
ダルクは訳が分からない感じで茫然としている。
「兄さん!」
「サラ!!!」
サラがクラシスのところへ駆け寄り、クラシスが
抱き寄せる。
「サラ、どうして、なぜここに!?」
「ガルナを倒したの。倒したのは、あの人だけど。」
真一を指さす。
「ギル、大丈夫!?」
「レミア姫、無事でしたか!!」
今度はギルが、真一の後ろにいたレミアに気づき、
駆け寄り、ひざまずく。
「姫、お怪我はありませんか!?」
「う、うん、私は大丈夫。ギルこそ傷だらけじゃない」
「私は大丈夫です。軽傷です。姫こそ、どうやって
ここへ?!」
「えっとね、ガルナに捕まってたんだけど、
アイツが、小松原がガルナを倒して、救い出して
くれたんだ」目の前の真一を指さす。
「よぉ、魔法使いダーク!助けてやったぜ!」
一同の視線を受けていることに気づかない真一は
ダルクにそう悪づいた。
「僕はダルクだと言っただろが。それより、お前、
その技・・・え!?塔内の黒のオーラが全部消えた??」
「そうなのか、じゃあ、これでこのミッションは
終了だな!」
「ちょっと待て、お前、ガルナを倒したのか?!」
「あぁ、何とかな。ちょっと必殺技覚えてね」
「お前が??お前が??ウソだろ!?弱いくせに!!」
ダルクは信じられないといった様子で真一に
詰め寄る。
ギルが真一に近づいた。
「シンイチ、姫を救い出してくれたんだな。礼を
言う」
「うん、まさか地下にボスがいるとは思わなかった。
でも、倒せて良かったよ」
「ちょっと、ギル、それにダルクも小松原と
知り合いなの?!」レミアが口をはさむ。
「えぇ。姫をお救いしようと城から向かう途中、
彼に出会ったのです。ダルクから、彼は創造主と
聞きましたが、その名に恥じぬ活躍をして
くれたようです」
「そうなんだ。」
レミアはチラと真一を見た。
普通の同世代の少年。
出会った時は本当に頼りなく、創造主だと言っても
とても信じられなかったが、ガルナを倒した時、
そして先ほどの魔物を倒した時の彼は、
戦士のように勇猛で、男らしかった。
視線に気づいた真一がレミアを見た。
慌てて視線を逸らす。
なぜ視線を逸らしたのか、レミアには分からない。
いつの間にか、クラシスが真一の前に立っていた。
ギルが軽く警戒する。
「小松原真一とやら、妹を助け出してくれそうだな。
礼を言う。」
「あぁ、あなたがお兄さんでしたか。いや、こちらも
色々、妹さんにはお世話になりました」
そして、ギルの方へ顔を向けた。
「ギル=ルシファス、戦いは終わりだ。俺は妹を
ガルナに人質にとられていたんだ。そして、ガルナを
倒しに来た戦士たちを倒すように命令されていた。
しかし、ガルナが倒れた今、お前たちと戦う理由も
なくなった。謝ってすむ問題ではないが、本当に
すまないことをした」
クラシスはギルに頭を下げた。
そのやりとりを遠目に見ながら、サラはつぶやいた。
「創造主・・・そうか、だから彼は青いオーラだった
のか・・・そして不思議な力の数々・・・見たところ
まだ技は完成されていないようだが、自由に操れるように
なったら、最強の能力者になるね・・・」
ダルクに応急処置をして、一同は塔の出口まで降りてきた。
いつまでもこの塔にいるわけにもいかない。
ギルはレミアに確認した。
「姫、どうします?一旦、城に戻ったほうがよろしいかと」
「そうだね。うん、じゃあ、城に帰ろうか」
「御意」ギルが再びひざまずく。
「御意」ダルクもひざまずく。
「おい、レミア、俺も行っていいの?」と真一。
「え? う、うん。来なよ。助けてもらったしね」
「やった!城って初めて!レミア、案内よろしく!」
「な!?お、お前、姫様に向かって、何という口の
聞き方だ!!」
「ダーク、俺は英雄だよ。もう少し敬ったらどうだ?」
「はぁ?お前が英雄!?僕は認めん!絶対認めんぞ!!」
ガルナの塔に、北から風が吹き、一同をすり抜けた。
塔に入る前の真一の思い
『バッタバッタと、自分はザコ魔物を倒しながら、
ギルがガルナを苦戦しながら倒して、最後には
レミアを救い出す』
は、以下のように修正された。
『自分がガルナを苦戦しながら倒して、最後には
レミアを始めとするみんなを救い出した』
小松原真一の冒険は続く。