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11話 王都を目指して


太陽がこの日の一番高い所に登った頃。

2頭の馬はゆっくりと、ファルダの果てから
東に移動していた。
目指すはエルミタージュの首都エルミネートだ。
ギルの話では、馬で1日程度走れば着くという。

1頭の馬には、エルミタージュが誇る最強の
騎士ギルが操り、後ろには、エルミタージュ国
正統王家エルミネス3世の娘、王妃レミアが
乗っていた。
もう1頭の馬には、エルミタージュ国魔道部
黒魔術協会1級魔導士、ダルクが操り、後ろには
この世界の創造主、小松原真一が乗っていた。

クラシス、サラの兄妹とはガルナの塔の麓で別れた。
エルミタージュの由緒ある武家、アドラス家を
裏切った罪は重く、アドラス家に帰ることはもう
出来ないそうだ。
実際、クラシスは誰一人、殺めていなかったが、
アドラス家からの追手が来ることは容易に想像
出来たので、妹サラと共に、しばらくは放浪の旅を
することに決めたのだ。

猛スピードで疾走する馬上で、真一は、別れ際に
サラが自分に話したことを思いだしていた。
「シンイチさん、あなたは創造主で、おそらく
この世界最強の力を持った人間でしょう。
しかし、その力に目覚めるのはまだまだ先のことで、
今は、一般の兵士以下の強さです。
ガルナを一人で倒したと思わないでください。
あなたがガルナの前に現れる直前に私は『ノォロス』
という体全体のパフォーマンスが3分の2に落ちる
魔法をガルナにかけていました。
ガルナが兄たちと戦うときに、少しでも状況が良く
なればと思ってかけたのですが、それよりも先に
あなたが復活し、ガルナを倒す際に、非常に
役立ちました。」
「あ、そうなんだ・・・」
自分ひとりで勝ったわけではなかったのだ。

「さきほどの戦いもそう。動きを3秒間止める『テイシン』
があったから、あなたは勝てたのですよ。実力で勝った
と勘違いしないようにしてください」
ずけずけと言われる。レミアといい、自分の夢の世界の
女性はみんなこうなのか?
女性の好みは控えめなおとなしい子なのに・・・。

「なるほど・・・」
「でもあなたには、すでに素晴らしい力も備わっています。
どう表現したらいいのか分かりませんが、死んでも
死なない力と、呪文をとなえると力やスピードが数倍にも
なる力があります。
日々の鍛錬を絶やさないでください。そして、戦いは、
私との連携のように、仲間の人と力を合わせれば、
道は切り開けるでしょう。」
「ありがとう。なんかやれる気がしてきた!」
「それでは、またお会いしましょう。さよなら」
サラは微笑みながらクラシスの傍へ行った。

「おい・・・」
「おい、お前!」
馬上でダルクが後ろで考え事をしている真一に
話しかけていた。
はっと我に返る。
「え?なんだ、ダーク?」
「お前・・・わざと間違えてるだろ・・・」
「お前こそ、いい加減、俺の名前を覚えろ。
いいか、コ・マ・ツ・バ・ラ・シンイチ!」
「塔で見せた技、あれはなんだ?お前、塔に入るまでは
あの技は温存していたのか?」
「いや、塔の地下1階の宝箱に書いてあったんだ。
下、斜め下前、右・・・、それから続けてオーと
いうとあの技が出るんだ。」
下、斜め下前、右、オーと続けて言わず、間に別の
言葉を挟めば技は出ないようだ。
「聞いたことないぞ、そんな魔法。ひょっとして
旧世界の魔法かな。」
「創造主である俺のオリジナル技だ、きっと」
真一の返答は無視して続ける。
「それとあのアドラス家の兄弟の妹のほうだ。
サラとか言ったか。
あいつ、『テイシン』を使ったな。あれは高等白魔法の
ひとつだ。エルミネートの白魔導士でも使える人間は
少ない。」
「3秒間止められると言ってたぞ。あと、なんだっけ、
動きを遅くするノォロスとか、隠し階段を見つける
サーチ・・・とか魔法を使ってたな」
「・・・全部白魔法だ。しかもノォロスはテイシン以上の
高等魔法だ。あいつは一体何者だ?」
「何者って、そりゃお前、クラシスってヤツの妹
じゃんか。それ以外に何があるんだよ!」
「・・・お前としゃべってると疲れるよ。もういい」
会話は終わった。
再び、2頭の馬が駆ける音だけが響き、みるみる景色が
変わっていく。

岩山だらけだった地から、緑豊かな景色に変わっていた。
足元は石畳の街道に変わり、道の左右は背の低い草原に
囲まれた。その奥は林となり、さらにその奥は、高い山が
そびえていた。

少し進んだところで、黒騎士が後ろにいる姫に話しかける。
「姫、ちょっと休憩しましょうか」
「そうだね」
黒騎士が魔導士にも話しかける。
「ダルク、この辺で休憩しよう」
「はっ」とダルク。
「やった、休める!ケツが痛かったんだよな!」と
救世主は言った。
2頭の馬は歩みをとめ、4人は馬から降りてしばし休憩を
取った。
真一は、慣れない馬上でお尻が痛くなり、地上に降りてからは
軽く伸びをしたり、どこで覚えたか、両手を両耳にあてて、
顔を左右に振るという変な体操をしたりしていた。
ふと、レミアがこちらを見ていることに気づく。
「ん? 何だ?」
「いや、小松原、アンタさ、死んだと思ったら、姿が
消えて、かと思えば、いきなり元気に現れて復活するから
・・・それで、ガルナとか倒しちゃうから、本当に
創造主なのかな・・・とか思ってね」
「なんだよ、まだ信じてないのかよ。
やられて消えた時は、俺の本来の世界に帰ってるんだよ。
で、そこで寝たら、またこの世界に帰ってこれるんだ。
俺の夢なんだから、俺が死ぬわけないだろ。」
「まぁまぁ、レミア様。心強い仲間が増えましたよ。」
黒騎士ギルが割って入る。
「だってね、ギル。こいつ、ムウ洞窟から出てきた時は
てんでダメだったんだよ。山を下りる前に倒れちゃって
私がおぶって、家まで運んであげたぐらい。」
「ば、バカっ、お前、それをここでバラすな!」
真一は慌てた。本当の事とはいえ、やはり格好悪い。
「本当の事じゃないの」
「こら、姫様に向かって、バカとはなんだ!!」
ダルクが叱りつける。
「しかも、お前、姫様におぶわれるとは!恥を知れ!」
「え?もしかしてダーク、羨ましかった?」
「ダルクだと言ってるだろ!!そ、それに羨ましいとか
何を言ってるんだ!!もう許さん!!」
ダルクは頭に血が上ったようだ。自分の胸の前で
両手を組む。そしてそれを真一に向けた。
「フキトバーン!!」
「うげっ!!」
ものすごい衝撃波がダルクから放たれ、真一に直撃した。
真一は10メートルほど、吹き飛ばされ、草原の中に
落ちた。

「ダルク、やりすぎだ。熱くなるな」
ギルの声にダルクははっと我に返る。
「も、申し訳ございません」
「でも加減はしたんでしょ、ダルク。私が起こしてきて
あげるわ」
レミアはダルクに微笑み、10メートル先にふっとんだ真一を
起こしに行く。
「・・・・」
ダルクはうつむいた。衝撃波魔法は加減をして
いなかったのだ。当たり所が悪ければ殺して
しまうところだった。
全力で打ちましたなど、口が裂けても言えない。

「小松原、大丈夫?あまり魔導士を怒らせたらダメよ」
「イテテテ・・・」
真一は立てなかった。お腹を中心に、ズキズキと体が
痛む。

レミアが真一の手を取って起こそうとしたとき-。
真一の目の前で信じられないことが起こった。

レミアを中心に半径2メートルの地面が盛り上がり、
そこから巨大な手が出てきた。
手は、指1本が2メートルほどあり、手の平は
畳2畳分ぐらいはあった。
あっという間に、レミアはその手の中に捕まり、
巨大な手は、再び土中に潜る。
レミアは一言も発することなく、地中に消えて
行った。
後には、手が出てきたときの巨大な穴が空いている
だけだ。

「くそー!!」
真一は、起き上がることが出来なかったため、
寝返りを打ちながら、穴に飛び込んだ。

その様子を見ていたギルとダルクは、すぐに
駆け寄り、その穴を覗いた。
穴の中は真っ暗で何も見えないが、相当深いようだ。
すでに、巨大な手はおろか、真一の気配を感じる
ことも出来ない。
「僕の魔法力を持ってしても、二人の気配を感じる
ことが出来ません。相当、深くに落ちて行った
ようです!」
レミアは地底深くに住む巨人に捕まったのであろうか。
「近くの村で、ロープや布をありったけ用意する。
それで地下へ行くしかあるまい」
「はい、ギル様。」
すぐに二人は馬に乗り、最寄の村へ走った。
「シンイチ、姫様を頼むぞ!」
ギルは馬上でつぶやいた。








ムウの洞窟から出てきた人間は創造主であるという
言い伝えが本当であれば、


「ってかな、ダルク、お前が魔法を使ったの、
光る魔法と、魔物が黒だの、俺が青だの言ったぐらいだぜ。
お前、本当に強いのかよ」






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