大人の修学旅行(3)
2日目。息子が早朝からボカロイベントの行われるインテックスに行くと言うので、7時にはもう稼働し始めてしまった。
自分は予定がないので2度寝してもいいのだが、それもなんなのでこちらも活動を開始することにする。
昨日の夜までは、なんとなく京都の着物屋さんでも行こうかと思っていたのだが、今京都に行くと9時前には着いてしまい、着物屋さんに行くにはちと早い。
電車に乗りながら、なんとなく、じゃあ奈良行ってみようかなと思い立った。
奈良と言ったら、やっぱりまずは法隆寺である。
法隆寺は大阪からだと電車で3−40分と言ったところである。JRの大和路線に乗り、法隆寺駅で降りる。運良くタクシーが駅前に1台いて、5分ほどで法隆寺に到着。ちょうど朝9時ごろであった。
もう先に言ってしまうと、大人になってから行く法隆寺は素晴らしかった。そう、前に法隆寺を訪れたのは多分中学だか高校の修学旅行で、記憶もほとんど残っていない。
でも、こうやって自分で調べて訪ね行くと、このちょっと人里離れたロケーションといい、夏の朝のちょっと静まり返った佇まいといい、その中にぱきっと現れる線のはっきりした五重塔や金堂らの飛鳥建築の力強さ、全てが息を呑む美しさだ。
エンタシスの柱の回廊、金堂の壁画、三尊像、五重塔の不思議なつくりの屋根、全てが他では見ない特徴的なもので、やや異国の雰囲気すら感じてしまう。
思わず瓦を寄進してしまった。緊張しながら瓦に筆で自分の名前を書く。ぜひ歴史に刻まれてほしい。
法隆寺の御朱印は「和を以て貴しと為す」だ。この環境でいただくにはありがたい言葉である。御朱印を書いてくださる方もとても優しい。
自分は黒岩重吾さんの、飛鳥時代の歴史小説シリーズが好きで、その中に出てくる聖徳太子の、底抜けに聡明で、それでいて徹底して争いを好まない人物像にえらく共感して、ちょっと生きる時の指針にしている節すらある。なんとなくそのことも忘れかけていたが、この御朱印で思い出した。そうだよ。和を以て貴しと為すだよなぁ。ほんとそうだよ。
法隆寺は有名な五重塔や金堂、金堂の中の壁画や釈迦三尊像、夢殿、展示室には玉虫厨子やら聖徳太子の例の肖像画、百万塔陀羅尼など、もう教科書に出てくるような宝物が山のようにあり、全部を見てまわると結構ボリュームもある。これも、学生の頃試験の対象としか見えていなかった時と比べ、改めて大人になってから見ると随分と趣が違うものだ。
なお、法隆寺夢殿の隣には中宮寺というお寺があり、こちらは半跏思惟像で有名である。いわゆる「アルカイックスマイル」の、足組んで微笑んでいる仏像がいるところだ。
法隆寺も空いていたが、中宮寺はもっと空いていて、自分はその半跏思惟像の場所(靴を脱いでお堂の中に入るようになっている)で、かなり長いことその像を独占して眺めることができた。
だいぶ日も登ってきて、かなりぎんぎんに暑い中を法隆寺駅に戻り(帰りはタクシー捕まらなかった、歩いて15分くらい)、今度はJR奈良駅に向かう。
次の目的地は興福寺だ。
興福寺といえば自分のイメージは阿修羅像である。この日のTシャツはブロッケンJr.。ブロッケンJr.のTシャツでアシュラマンのモデルに会うのかぁ・・・。と思いながら向かう。
奈良は、大変びっくりしたことに、私が通称「赤い自転車」と呼んで地元横浜で愛用している乗り捨てのシェアサイクルがあるのだ。アプリも何も全部横浜と同じもので、全く同じようにして乗れてしまう。これは予想外で、大変助かった。
というのは、奈良駅から興福寺は歩くには結構遠いのだ。気候の良い時ならともかく、この真夏である。これが自転車なら風を感じながらかなりあっという間に着いてしまう。便利だ。
興福寺は五重塔と東金堂、中金堂らの大きな建物がある。法隆寺に比べると、全てがひと回り大きい。そして、鹿もうろうろしていることこともあり、何より奈良駅周辺自体が都市なので、法隆寺よりはややもうちょっと活気を感じる場所だった。
興福寺の「国宝館」に阿修羅像はいる。ただ、阿修羅像はもちろん数ある宝物のあくまでワンオブゼムであり、他の彫刻群も素晴らしい。何より、よくこんなにちゃんと残っているものだと思う。ここにある彫刻は写実的で力強く、どれもこれも緻密で隙のない、怜悧で張り詰めたような美しさだった。
ミュージアムショップで阿修羅像モチーフの手ぬぐいを購入。
続いて自転車を駆ってそのまま東大寺の大仏殿に行く。この辺りがもう暑さのピークである。自転車を南大門のあたりにとめ、そこから大仏殿までは歩いていくのだが、何しろとにかく敷地が広く、そこまでの距離が長い。体力がどんどん削られていく。
奈良の大仏もおそらく修学旅行以来だ。大仏そのものも巨大だが、先ほどの南大門、大仏殿の敷地、大仏殿そのもの、大仏殿の中の大仏以外の仏像、どれをとっても呆れるほど巨大である。
大仏や大仏殿は聞くところによれば、できた当初はものすごい絢爛な色使いだったという。とにかく人が圧倒されるようなスケールがでかいことをやってやろうと考えて作られたように見える。
なお、コロナのせいで例のくぐりぬける柱は塞がれていました。
ここから近鉄奈良の駅に行き、シェアサイクルを乗り捨て、電車に乗って大和西大寺の駅に。ここでまたシェアサイクルに乗り、次の行き先は秋篠寺である。
秋篠寺は、これまでの法隆寺や東大寺、興福寺と比べるとそこまで有名なお寺ではない。
このお寺は何で知られているかというと、「伎芸天像」という、芸術の神様の像があるのだ。そして伎芸天の像はなんと日本でここにしかないのである。
このお寺は、神戸のラーメン屋同様、SNSで友人から教えてもらった。趣味とはいえ一応音楽をやる身でもあるので、こういう機会にぜひ訪れようと思ったというわけである。
秋篠寺までは西大寺の駅から自転車で10分くらい。街の中ではあるが、周囲には田んぼなども広がる、完全にのどかで静かな一角にある。
ここは、佇まいといい建物といい非常に素晴らしかった。
写真を見るとわかるが、まず誰もいない。静かに苔むした境内。しんとした中に、緑と建物とのはっきりしたコントラストも素晴らしい。そして何と言っても、伎芸天像のひたすらに優しい表情。ついでに寄るようなことはないところにあるが、しっかりと訪ね歩いて、よくぞここまできたなぁと思ってしまう。伎芸天像以外の彫刻も非常に見事で、見ごたえがある。何よりゆっくりと見ることができるし、お寺の規模の割には仏像の数自体も多く、全部で25体ある。
秋篠寺を後にし、大和西大寺の駅へ。ここからは進路を変更して、近鉄特急で一路京都へ向かう。京都では、行ってみたかった着物やさん巡りをする予定だ。
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