見出し画像

祖母とハチ公

 100歳になるおばあちゃんのところに行って昔の話を聞くのが面白い。やっぱり、いくら歳を重ねても子供の頃のことは比較的鮮明に覚えているようで、何回聞いても新しい話が出てくる。
 まぁでもわかるような気がする。自分でも学生時代のことはよく覚えているけど、昨日のことを覚えてなかったりするものね。

 今日聞いた話で比較的パワーワードだったのが
 「忠犬ハチ公におやつをあげていた」
 だった。
 「えっ、そもそもの話だけど、会ったことあるの?ハチ公に」
 「あるわよ。よく渋谷の駅に弟と一緒に行ってね、自分のおやつ半分持ってってあげてたの」
 「おやつって何あげてたの」
 「なにかしら、おせんべい?あとビスケットとか」
 「ビスケットあったの」
 「青山通りに洋菓子のお店があってね、そこで買ってきたのかしらね。おいしかった」
 「ハチ公どんなだった」
 「それがかわいくなくてね、全然話しかけても何してもこっちに反応しないの」
 「おとなしかったんだ」
 「せっかくおやつ大事に持って行ったんだから、少しは喜んでくれてもいいのに、って思った」
 「まぁ、でもだから忠犬なのかねえ。。」
 「でも、そのうち新聞記事になって、有名になって人がいっぱいくるようになって、行かなくなっちゃった。」
 「あぁあの有名な新聞記事!あれリアルタイムなのか」
 「ハチ公のお墓って、青山墓地にあるのよ。よく行ったわ。うちの母方のお墓もあってね。なんだか縁を感じちゃった」

 そういえば、今年はハチ公生誕100年だとかでイベントをやっていた気がする。
 おばあちゃんとハチ公、歳一緒だったんだ。。


小説っぽくすると、こんな感じかしら

渋谷の東急のところに、汚い犬がいつもいるんだって。
そんな話を小学校で聞いた。
ちょっと見に行ってみようかな。
弟を連れて行こう。
お土産持って行こうかな。お腹すかせているかしら。
わたしのおやつを半分あげよう。
大好きなビスケット。
この前青山通りにできたお店でおかあさんが買ってきてくれた。
渋谷までなだらかな道をまっすぐ。
川が流れている。渋谷川。水車の脇を過ぎて、表参道をわたっていく。
渋谷川でとれたしじみを売る、しじみ売りの子たちとすれ違う。
川の土手にはたくさんの果物の木が見える。
柿。ざくろ。いちじく。巴旦杏。あの木は甘い柿だけど、あっちは渋柿。
しばらく歩いて、遠くに渋谷の駅が見えてきた。
あ!いる!犬が座っているのが見える。
しばらく眺めていたが、特に動き回るでもなく、じっとしている。
近くに行く。犬は面倒そうにこちらを見る。
急に飛びかかってきたりしないだろうか。
少し様子を見る。でも、おとなしいらしく、吠えもせずじっとしたままだ。
そうだ、おやつ。
くるんでいたビスケットを出して、見せる。
ちらとこちらを見る。
そっと目の前にビスケットを置く。
おいしいんだよ。
喜んでくれるかしら。
犬は、ちょっと匂いを嗅いで、でもそのまま知らん顔をしている。
食べないのかしら。
そっと、犬の頭をさわってみる。
撫でてみても、特に喜んでいる風でもなく、無表情でじっとしている。
思っていた様子と違う。
おやつに喜んで尻尾を振り、抱きついて遊んでくれるのかと思っていた。
とても仲のいい友達になって、そのまま、離れずに家についてきちゃったらどうしよう。そうしたらお父さんやお母さんになんて言おうかなんて、あらぬ心配までしていた。
せっかく、こっちの財産の半分を気前よく分け与えたのに、拍子抜けだ。
犬はあいかわらずこちらに興味はなく、前を見たままただ座っている。
じゃあ帰ろうか。
弟に言って、きびすをかえす。
なんだよ。
夕陽が弟の顔をさす。
もう少し仲良くなれないかな。また来たら覚えてくれるかな。
また行ってみようか、と弟に言う。
うん、と弟が言う。
ふたりで、残りのおやつを口に入れた。
とてもおいしいのに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?