「スキップとローファー」と「ひばりくん」
最近、遅まきながら漫画の「スキップとローファー」を読み始めた。
もう本当に面白くて、一気に既存巻全部読み尽くしてしまい、今はアニメでおかわりしているところだ。
漫画賞もとっている作品だしファンも多いのでご存知の方も多いかもしれない。
この作品は分類上はいわゆる学園ラブコメに当たる。あらすじを説明すると、主人公は岩倉美津未(いわくらみつみ)ちゃんという女の子。この子は田舎で育った純粋な子なのだが、中学卒業を機に都内の進学校の高校に入学するところから話が始まる。そこで繰り広げられるさまざまな人間模様、登場人物たちがみつみちゃんの純粋さに触れて心を開いていく・・というようなお話。
と、これだけ聞くとよくありそうな話に聞こえるかもしれない。少なくとも「火星移住を計画した人類の前に虫が変異した異星人が現れる」「北海道の金塊を探すためにアイヌの少女と旧軍人が」みたいな、それだけきいてぐぐっと手繰り寄せられるようなストーリーとはちょっと違う。
しかし、これが圧倒的に面白い。その面白さは、もう多数の考察やら何やらで語り尽くされていると思うので多くは触れないが、単純に言うと、人物の心の描写の解像度が非常に高く、まるで自分がその場にいるように没入できるのがとにかくすごいところである。
また、自分が高校時代に陰キャであろうと、クラスの一軍であろうと、どの立場の人でも共感できるような人物配置がされていて、登場人物の心理描写による納得度が強い(そうそう!と共感したり、陽キャはこう言う考えだったのか、と納得したり)。だから、どんな人にも刺さる話になっている。
つまりは、簡単に言うと「いかにも自分がそのクラスの一員となったかのように話を見ることができる」ということである。これが楽しい。
このお話は、最近の漫画の中では珍しく、非常に幅広い年代層人気なのだと言う。高校が舞台の話ではあるが、別に若い子だけではなく、大人世代、さらには60、70代の人でもファンが多いと聞く。でも、それは本当にわかるような気がする。自分もこんな高校生活を送りたかったなぁ、とか、そう言う感情をなんの違和感もなく取り込んでくれて、一緒のクラスの中に入り込めるのがこの作品の最大の魅力なんじゃないかと思う。
さて、同じ頃に、たまたまAmazonで江口寿史「ストップ!!ひばりくん! コンプリート・エディション3巻セット」を見つけて思わず購入してしまった。
これは、もうぼくら世代には説明の必要がない名作で、ぼくも小学生から中学生の多感な時代に夢中で読んだ。
「母を亡くして天涯孤独になった坂本耕作が世話になるために上京した大空家は実は暴力団の家、しかしそこには美人4姉妹がいたと思ったらその中のひとりひばりくんは実は男の子、でも学校にはそれを隠していて学校1のマドンナになっている中で翻弄される学園生活」なんて、本当に今考えても天才としか言いようのないアウトラインである。
また、江口寿史さんといえば今でもイラストレーターとして第一線で活躍されているが、とにかく絵のクオリティ、かわいい女の子の造形がこれも天才的に素晴らしい事で知られており、その意味でも金字塔的な作品になっている。
さて、その「ひばりくん」を、おそらくだが30年以上ぶりくらいに再読したのだが、いや驚くべきことに今読んでもやっぱり圧倒的に面白い。
全くもって40年以上前の作品とは思えない。ちゃんと女の子は今見ても可愛いし、学園生活の中で出てくる高校生の会話も、正直そんなに今と違和感ないように感じる。こんなに変わらないものなのか・・?とちょっとびっくりしてしまった。
つまり、さっきの「スキップとローファー」で描かれている高校生と、ひばりくんたちというのは、仮に一緒の世界線でも、そこまで変な感じではないのだ。
だって、40年前って、すごい。
例えば、「ひばりくん」が描かれたのは1981年で、その40年前だと戦時中なのである。価値観が同じであるはずがない。80年代と60年代でも圧倒的に違うと思う。70年代と80年代だって違うだろう。
しかし、1980年代と2020年代って、流行っている見た目が違うだけで、心理的にはそんなに変わらないのかもしれない。
どうなんだろう。例えばだが、「ドカベン」や「キャプテン」なんかは今読んでも抜群に面白いが、「ひばりくん」「スキロー」とは、明らかに違う時間軸と世界線の話である。学校や生徒の描写、価値観や考え方が全く違う。
「ひばりくん」の若葉学園と「スキロー」のつばめ西高校は、正直入れ替わったり一緒になったとしても対して違和感はないが、明訓高校が一緒になるのは無理がある。「里中くぅ〜ん!こっち向いてー!」と歓声をあげる女子と、志摩くんに休み時間に話しにに来る女子は、やっている方向性は同じだが、両者が顔を合わせて会話が成立するとはとても思えない。時空が異なっているのだ。
しかし、ひばりくんの椎名みたいなやつがつばめ西にいて山田たちと絡んでいてもあんまり違和感はない。あんまりちゃんとした友達のいなそうなひばりくんが、志摩くんやみつみちゃんと触れ合って本音を話していく展開なんて、想像するだけで胸熱である。
でもそれはさておいても、40年以上経ってもちゃんと成立できる漫画を描けて、今見ても可愛い女の子を描くことができる江口寿史さんがやっぱり異能なんだろうと改めて思う。