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ホーンセクションの譜面を10曲書く

 8/11-13までの三連休、3日間連続でライブをしていた。初日はブルース、二日目ジャズ、三日目ラテンビッグバンドである。別に職業がミュージシャンというわけではなく、平日は普通に会社に行っているので、そういう意味ではまぁまぁ充実していつつ忙しい週末だった。
 そしたら、それが終わったら高熱が出て一気に体調を崩し、1週間寝込んでしまった。たまたま会社の休みをとっていた週で、なんとも因果なことにせっかくの休みをただ寝て過ごすことになってしまった。
 次の演奏機会は9/9で、そこではホーンセクションの人数の多いバンドに向けて譜面を10曲程度書かなければならない。今週に入ってからようやく体調も戻り始めたので、ぼちぼち譜面を作り始めた。

 ホーンセクションの譜面を書くというのは、まぁまぁに気を使う作業である。つまりホーンの人たちは、基本譜面がないと演奏できないからだ。リズム隊の人と違って事前に曲を覚えたり予習してくることも稀なので、ほぼ自分が作る譜面だけを頼りに演奏することになるわけである。当然、譜面に間違いがあると進まないし、譜面の書き方だって、初見ですぐできるような譜面にしないと効率が悪い。

 ただ、それでも、自分が書いた譜面で実際にバンドで音を出す、というのは、アマチュアの趣味としては大変に贅沢なものである。その理由の一つが、大概の場合は、「予想していたよりもはるかにいい」出来になるからだ。
 単純に、自分の頭の中でフレーズを組み立てて曲にしていって、それを譜面にしていく作業って一人でやっていても楽しい。自分なんてノルマ性なくただやりたいことだけやっているんだから尚更だ。
 それを実際に楽器で音を出してもらうと、自分が頭の中で思い描いていた音の像に、想像していなかった多くの要素が付加されてひとつのサウンドとなるので、自分の作ったものでありながら、自分が考えたものをあっという間に超えていく瞬間を見ることができる。だからより贅沢で楽しいわけである。
 自分が楽器を演奏するのとはまた違い、音楽を作っているなぁ、という感じがする。また、実際に音を鳴らしてみて、メンバーとああでもないと言いながらまたその場でアレンジを加えていく作業もとても楽しい。本当に、こういう経験をできる人生に感謝である。

 ちなみに、自分がこの手の譜面を書くときに気をつけているのはただ一つで、不必要に難しくしないということである。今回であれば、トランペット・トロンボーン・アルトサックス・テナーサックス・バリトンサックス・キーボード・チューバ・ドラムの譜面を作るが、基本的にはそれぞれのメンバーの顔というか、プレイスタイルや楽器の力量に合わせた譜面を書く。
 アマチュアバンドの場合だと、本物のミュージシャンのコピーをすることも多いが、それであっても、必ずしも本物と全く同じにする必要はないわけだ。
 だって、まず聞いている方だってそんなにわからない。細かいところで本物に近づける努力をして負担を増やしてもいいことがないのだ。ファンであれば細部に凝りたくなったり、本物に近づけたくなる理屈はわかるが、その結果出来ないような譜面を書いたって仕方がない。難しすぎて思ってるような音の要素が聞こえてこなくなっちゃう方がよっぽど違和感である。
 まず、練習の回数だっていいとこ2回とかである。基本、初回でできないような難しい譜面だと、まず本番までにこなしてくることは不可能だ。やらなきゃいけない曲の数だって多いし、みんなでスタジオに集まっている時間内に「できないものをできるようにする」作業は効率が悪いのである。そう、あらゆるジャンルのアマチュアバンドの永遠の課題だが、今できないものはそんなにすぐにできるようになんかならないのだ。
 特に、管楽器というものは、普段TVや配信で聞いているような音を出すことそのものが至難の業、という珍しいジャンルの楽器である。つまり、トランペットの必殺仕事人のあんなハイノートなんて、9割以上のトランペッターは出すことすらできないわけである。CMで聞こえてくるサックスのあの音だって同じで、いくら吹奏楽部で何年やっていようが、あんな音出せる人なんてほんと全サックスプレイヤーのうち1%もいないのだ。
 そのくせ、ガラスのハートの持ち主しかいないのが管楽器奏者だ。管楽器でないひとが書いた譜面の音域が高すぎてできない、というなんて死んでも言いたくないし、「譜面の通りの音を吹いてよ」「本物と同じようにしてよ」なんて軽く言われるのも本気で腹がたつ。自分だってこの界隈ではトランペットの申し子と言われるくらいに練習も積んで実力もあるのに、エリック宮代と同じ音をしゃあしゃあと要求して挙げ句の果てにオレをヘタ扱いしやがった!!
 ・・となったらどうなるか。バンド崩壊である。おそらく、そのトランペッターが機嫌をなおすことはもう金輪際一生ないと思う。演奏の内容だって結果求められているものにならずに不完全燃焼で終わること間違いないし、誰も得しない顛末である。

 違うのだ。
 「とりあえず、譜面はそれらしくは書きましたけど、まぁ行けそうだったら上いってもらっても大丈夫です」
 出来なくても自尊心は傷つけない。仮に出来たら最上級に賛辞の言葉を贈る。人間関係だってそうだっていうじゃないか。過度な期待なんか最初からしちゃいけないのだ。
 しかも大事なのは、これはアプローチが違うだけで、結果的に演奏する音楽の質は結果的にはさっきの崩壊バンドと同じなのである。だって、さっき言ったように、今技術的にできないことは、そんなに譜面を書かれたくらいではできるようにはならないからだ。結果的に出来上がる演奏自体は変わらないし、なんならプレッシャーなくて後者の方がいいかもしれないくらいだ。
 いや、間違いなく後者の方がいいだろう。なぜなら、バンドの雰囲気は確実に後者の方がいいはずだからである。何が悲しくて、貴重な休日を潰しているのに、そんな自分のことを知らないようなやつにヘタだと言われないといけないのだ(しかも言った方は多分そんな風に思われている自覚がない)。
 それなら、自分の実力を認めて尊重してくれる方がいいに決まっている。楽しい。楽しく演奏できるというのは、何においても基本である。ただ機械のように演奏しているより、一緒にやっているメンバーやお客さんたちと相互信頼関係があって、気持ちが入って主体的に演奏できている方が、当たり前だが、やっぱり圧倒的に楽しい。

 ということで、自分は、変な自己満足とこだわりは一切捨てて、現有戦力が気分よく最大限実力を発揮できるようになることだけを目指して今日も譜面を書いている。明日はリハーサルなので、さっきなんとか10曲書き終えて印刷もした。とんとんと角を揃えてクリップにとめた。達成感。そして、実際に音を出してみる、あの贅沢な瞬間が今から楽しみである。

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