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ノンアルコーラーがアルコールを飲んでしまった時

 自分はお酒を飲めない。結構若い頃は飲まされたりしたけれど一向に好きにもならなければ慣れることもなかったので、もう体質なのだと思っている。
 お酒そのものだけでなく、洋酒をたっぷり使ったお菓子なんかも食べられない。これは気持ちの問題なのか、一度ノンアルコールビールを少し飲んで具合が悪くなってしまってから、もう本格的にとにかくアルコールを匂わすようなものは自分には合わないのだと思っている。

 ところが、そんなもう何年もアルコールを飲んでいなかったのに、まさに昨日、よりにもよってライブの本番前に意図せずお酒を飲んでしまうという事件が発生した。
 昨日のライブのリハーサルの後、本番まで時間があったのでみんなでお蕎麦屋さんにごはんを食べに行った。
 たいそう暑い日で、またリハーサルでちょっとばたばたしてすごくのどがかわいてしまった。なんとなく炭酸の甘いのが飲みたいと思い、ソフトドリンクメニューにあった「巨峰ソーダ」を注文した。
 のどがかわいていたので、届いた巨峰ソーダを結構大きめな一口でごくんと飲んだ。
 ?
 なんだか変な感じがする。なんか違和感がある。これは巨峰の渋みなんだろうか。
 もう一口飲んでみる。今考えてみると、この追加の一口が良くなかった。
 なんか、確証は持てないが、やはりなんか変な感じがする。
 隣のメンバーに、
「ねぇ、これお酒じゃない?飲んでみてくれない?」
といってグラスを渡す。飲んでみたが
「うーん、これお酒かなぁ?」
という反応である。
 しかし、そんなやりとりをしている間にはっきりと答えが来た。
 みるみるうちに身体が熱くなり、動悸が激しくなって喉の奥が上がってくる感じがする。
 料理を運んできた店員さんに
「これってお酒入ってます?」ときくと
「あ、入ってますよ」

 入ってますよじゃねえよ。。
 死んじゃう死んじゃう。
 もう、明らかに顔色が異常になっているのがわかる。目はこぼれ落ちそうに充血し、頸動脈が脈打っているのがわかる。頭が全く回らなくなり、うまくしゃべれない。
 最初は「本番で大源太おもしろくなっちゃうかもなー!」「意外といつもと違う演奏になるかも!」などと言っていたメンバーもさすがに焦り出した。口々に「大丈夫?」と聞いてくれるが、大丈夫なはずはなく、なによりとにかくうまく話すことができないので、ただ「大丈夫です。。」と繰り返す以外にできない。

 どうも、「巨峰ソーダ」と「巨峰サワー」というメニューがあったようで、店員さんが完全にソーダとサワーを間違えてしまったのが原因らしい。また、そのサワーが信じられないほど薄く、また、あまりにも暑かったので一気に一口飲み込んでしまったのが良くなかったのだ。

 ちなみに、飲めない人が飲んでしまった時にどうなるかというと、飲む人が想像するような悪酔いや二日酔いの症状とは、これは根本的に異なっている。気持ち悪くなって吐きまくったり、頭がガンガンするみたいなことではない。
 すごくわかりやすくいうと、単純にもう具合が悪いというか、風邪ひいたり熱出したりしたのと、症状こそ異なるけどとにかく頭と身体がうまく動かない不自由さは結構近い。身体に悪いものが体に入ってしまった時の反応なんだろうか。
 熱出てる時って、全身がだるくなって、頭がうまく回らないというか、仕事みたいに判断を要することがうまくできなくなると思うが、それに近い。とにかく横になって休んでいたいという状況である。

 しかし、この日は違う。何しろ1時間後にはライブの本番で演奏しなければいけないのだ。
 しかも、管楽器というのは大量に息吸って吐くのでアルコールのまわりとは致命的に相性が悪い。
 これはまずい。
 急いで水などを多めに摂取し、相対的に飲んでしまったアルコールを薄める作戦に出る。でもなんだか本当に頭が回らなくて、これが正しいんだかなんだかもよくわからない。なんだか朦朧としながら熱さまシートを買って首の辺りに貼りまくる。
 オレは大丈夫なんだろうか。演奏できるのだろうか。表情筋が固まってしまって全く笑えない。メンバーが果てしなく心配そうな表情になっているのがわかる。
 お客さんがどんどん入ってくる。本番の時間が迫る。あと5分。あと1分。
 。。。

 そして本番が終了した。
 幸いなことに、自分には音楽の神様がついていたようで、とりあえず演奏しながらぶっ倒れるようなことはなく、ステージ最後まで演奏することができた。おそらく、お客様にも「あのひとは飲めないお酒を飲んでしまって具合が悪そうだな」とは悟られずに済んだ気がする(MCで紹介されてしまったが)。
 よかった。本当によかった。。。

 しかし、まぁ演奏の出来が良かったの悪かったのというのを後で話すのは、来ていただいたお客様にも申し訳ないのであまり言わないのだが、正直いうとやっぱりだいぶ集中力を欠いていたような気はしている。つまり、熱出ているような状態だったのだと思っていただければと思う。けっこう、「あれっ」ていうような、普段ないような間違いも多かった気がする。
 なにより、一番思ったのは、アドリブソロが全然思いつかないことで、これは演奏しながら自分で驚いてしまった。
 なんだか、次に何を吹くかのアイデアが急にぱたんとスイッチが切れたように白くなってしまったり、ソロの構成が全然考えられず支離滅裂になってうまく演奏できなかったり、普段できないことをなぜかやろうとしてしまって変になってしまったりした。
 そうか、アドリブを考える作業っていうのは、感覚的なようでいて、意外と理論的な作業だったんだなとこの一件で再認識した。よく、昔のジャズメンがドラッグをやりながら狂ったように吹いたソロが伝説になったりしている話を聞くので、酩酊した状態が芸術的に良かったりするのかなと思ったりもしたのだが、そういうことではなくて、そもそも身体と頭が明確に連動している状態でないとうまくソロを吹くことってできないのだ。


 やっぱり飲めない人というのはほんの一口、薄すぎて気づかない程度のアルコールもやっぱり致命傷になるということを再認識した。完全に毒物なのである。
 バンドメンバーも、あらためて飲めない人には本当に飲ませてはいけないんだというのを実際に自分という見本を目の前で見て再認識したようである。だって、一口飲んだだけだから、グラスにはまだほとんど巨峰サワーは残っていたのだ。飲める人からしたら、全く理解できない感覚に違いない。

 もう今度から、紛らわしい名前のメニューを注文するのはやめて、「コーラ!」一択で通すことにしようと思う。

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