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晴読雨読

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晴レノ日モ雨ノ日モ、私ハ本ヲ読ム
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#毎日note

あたまの中の栞 - 霜月 -

 本当に11月は私にとって鬼門となる月だった。たぶん、これから何十年と生きていく中でそれは単なる一コマなんだろうけれど、きっとあの時の自分が目の前にいたらピシャリと頬を叩いて正気に戻りなさい!と言うはずだ。残念ながら、過ぎ去った時間は戻ってくることがない。  ちなみに、これはもしかしたら好みの問題なのか、はたまた私が単純に慣れていないだけなのかはわからないが、個人的に今のnoteの仕様はあまり好きではない。ルビを振れるようになったところまでは良いのだが、どうも機能が多過ぎる

あたまの中の栞 - 神無月 -

 本当に10月の前半は秋とは思えなくらい暑かった。一体いつになったら涼しくなるのだろうとドキドキしているうちに金木犀は2回香り、弾けるように気がつけば匂いは消えていた。  空気が澄んでいるせいか、どこからか夕食の匂いがしてくる。ようやく緊急事態宣言が解かれて、図書館の平常通りに行けるようになりそれだけは私の中で小躍りしたい出来事だった。再び会社からは週に最低2日は出社するようにとお達しを受け、泣く泣く都心へと向かうバスに乗る。  流れるバスの窓の外から、遠くにスカイツリー

先の見えない山を見て、息切れする件について

 ついついぼーっとしていたら、親指の先を切ってしまった。パン切り包丁で。包丁とはいえ、切れ味はさほどではないと思っていたから迂闊であった。プツリと切れた指からは、するりと真っ赤な血が滴り落ちる。思わず流れ落ちた血をまじまじと見た。止めどない赤。 *  最近読み終わった本の余韻に後ろ髪を引かれている。  小説と一口に言っても、さまざまなジャンルに分岐していて、その奥深さを語るだけでも一晩以上はかかることだろう。それほどまでに思えば私は言葉の不思議に魅入られて、気がつけば物

ありえないものたちの分解

 夜の虫の鳴き声は哀愁が漂っていて、漣が立つ。  近頃は少しずつだけど、人が密集しない場所で友人たちとご飯を食べにいくようになった。流石に東京は怖いので、大体は地元の友人たちと時間を共にする。久しぶりに会うと話が弾み、会わなかった期間が嘘ではないかと思ってしまう。  今年3月に見た映画のことが何故か頭にパッと思い浮かぶ。花束みたいな恋をした。終電を逃した男女が共に朝まで時間を過ごすことになり、お互いの好きなものを言い合うと恐ろしいほどにぴたりと一致する。  いやいや、こ

カモミールティーで目を覚ます

潮だまりの輝く砂、月に照らされて漂うボート。(早川書房 p.267)  途方に暮れるような悲劇から、物語はゆっくり動く。  私たちの日常においても言えることだが、かくも恋愛というものは、複雑で奇奇怪怪。容易には説明できないものである。  よく男はどうたら女はどうたらと無闇矢鱈に性別の傾向をもとに分析をしようとする人がいて、それを聞くとなんとなくそうかもなあと思ったりもするけど、結局最近そんなものはなくて一人ひとりの個性に準ずるのだろうと勝手に結論づけている。  きっと

あたまの中の栞 - 葉月/長月 -

 どこからか、美味しそうな香りが漂ってきた。グゥとお腹が鳴る。  じとっとした季節もいつの間にか通り越して、少し肌寒い季節がやってきた。私は暑い8月が好きで、お祭り拍子が聞こえてくるとどうしようもなくドキドキしてしまう。  イカを焼く香ばしい匂い、色とりどりに流れゆくスーパーボウル、海へと逃げるタイミングを逃したたい焼きたち。彼らは皆、私に夢を見せてくれる。  でもコロナによってイベントが悉く中止になり、夏休みも例年に比べると凡庸な過ごし方になった。  家でひたすら簿

理想の世界には程遠い

<2021年9月21日執筆>  いくばくかの小さな星と、大きな月が宙に鎮座している。 *  中秋の名月って、毎年満月の日に重なるものだと思っていた。  それはとんでもない間違いで、必ずしも満月の日に当たるわけではないということを恥ずかしながら最近知った。今年は偶然にも、たまたま満月にあたるということでちょっと話題になっていた。宙空にぽっかりと浮かんだ欠けることのない完璧な月は鈍く光り輝き、その存在感を示している。  昔から月が好きだった。というより宇宙という概念自体

『星のように離れて雨のように散った』

<2021年9月15日執筆>  ちょうど金木犀の花が咲き始めて、どこからともなく高貴な香りが漂っている季節に私はこの文章を書いている。気がつけばあれほど忙しなく鳴いていた蝉の声も収まり、代わりに柔らかい草木の匂いが立っている。  この時期、中編小説を書いている真っ最中だったわけだが、不思議と片手間で本を読みたい熱が沸々と湧き起こり、新橋駅からほど近い本屋さんに立ち寄った。しばらくウロウロした後、ふと一冊の本を手にとる。──早朝の7時のことである。人の姿は、まばら。  本

あたまの中の栞 -文月-

 どうやら7月は旧暦の名の通り、手紙を認めたくなる月らしい。以前イースター島で出会ったアンドレイという青年と気がつけば文通を交わすようになり、久しぶりに彼に宛てて手紙を書いた。心を鎮めてゆっくり丁寧に文字を綴っていく。不思議と気持ちが落ち着く。誰かに読んでもらうというだけで手が震える。  ようやく1年の折り返し地点。でもなんだかあっという間だった気もする。どこか遥か彼方で起こっている出来事のように感じても、今まさに私が住んでいる家の近くで各国がしのぎを削っている。そしてきら

新たな扉をそっと開くために

 最近、夏だからなのか色々モチベーションが上がってきている。やっぱり気温が高いと不思議と体もスムーズに動くものらしい。久しぶりに髪を切りに行ってショートカットにしたおかげでだいぶ心も軽くなった。冬は寒さ対策も兼ねて長く伸ばしているのだが、毎年この時期になると思い切ってぱつっと髪を切る。  自然とこれを機にいろんな本を読んで新しい考えや世界を吸収したろうではないか、という気持ちにもなってくるのだ。懲りもせずまた少しずつ小説を書き始めていて、どうしたらいろんなアイデアが湧いてく

世の中の先入観なんて吹っ飛ばせ!

いつになったら、私たちはタイムリミットから解放されて手を取り合うことが出来るんだろう。世界中にある時計を一つ一つ、金槌で壊して歩けたらどんなにいいだろう。(p.116)  今年の4連休は意外とあっさり終わってしまったことになんとも言えないモヤモヤとした気持ちを抱いている。ニュースを見る限りだと結構日本勢金メダル取っている感がある。でもなんか遠い世界の出来事を見ている感じが否めなくて、うーんどうしたものかと一人で勝手に頭を抱えている。  さて、ちょっと疾走感のあるタイトルに

ショートショート:夜の陽炎

陽炎(名)・・・春や夏に、日光が照りつけた地面から立ちのぼる気。  夜の熱気を浴びて私は頭がクラクラした。  コロナで一時静まりかえっていた街も、気がつけば喧騒を帯びて再び活気を取り戻していた。辺りには酔っ払いの男どもが騒ぐ声。うるさいったらありゃしない。  昔は酒を浴びるように飲んで記憶を忘れるくらい騒いで朝に帰るというのが日課だったけど、さすがに三十路を越えたあたりから昔の悪い男たちの縁も切れた。最初は何か自分の一部を失ったかのようにちくりと胸が痛んだけれど、その痛

あたまの中の栞 -水無月-

 早いもので新しい年を迎えてから半年が過ぎようとしている。「光陰矢の如し」とはきっとこんな時に使うんだろうな。6月に入ってからは毎日のように雨が降っていて、正直な話気が滅入った。もう地面が陥没してしまいそうなくらい雨が降り続けて不安が胸を掠める。  ここ一ヶ月長い物語を書いているうちに気がつけば1日が終わっている、という日々が続いた。物語を書くのは全然私にとっては苦ではなくて、あー私生きてるって思ってしまった。なんて単純なんだろう。自分が紡ぎ出す物語の世界に没頭することによ

腐海の中をひたすら彷徨って

 どちらかというと呟きにも近くなってしまうが、最近『風の谷のナウシカ』の漫画版を読んだ。その昔映画版は見たことがあったけれど、漫画版で読むことは初めてだった。かなりの分量で、漫画とはいえどものすごい時間を要した。読み終わった瞬間、肩からゆるゆると力が抜けた。  果てしない世界観だと思った。この世の中にはファンタジーと呼べる作品が有象無象で存在しているけど、『風の谷のナウシカ』の紡ぎ出す世界はただただひたすら深いと思った。うまく言葉にすることができない。たぶん1回だけ読んだだ