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晴読雨読

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晴レノ日モ雨ノ日モ、私ハ本ヲ読ム
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#読書記録

あたまの中の栞 - 卯月 -

 4月になってようやくポカポカとした陽気に包まれ、ほっと一息ついていました。新しい年度に入ったことで心機一転。ちょうど友人たちから誘われて、桜を見ながらお花見をしたり写真を撮りに行ったりして、割と充実していた気がします。世間ではすっかり自粛モードは解除され、たくさんの人たちで花見スポットは賑やかになっていました。  この季節は「読書の春」と言ってもいいくらい、何かやる気に満ち満ちていて、心なしかいつもよりも本を読めたような気がします。大切なのは量ではなく質で、自分の中できち

あたまの中の栞 - 師走 -

 あっという間に、年が越えてしまった。私の気持ちを、置き去りにしたまま。新しい年を迎えるための、心の準備が整っていなかった。振り返ると、たくさんの人に助けられて、なんとかこうにか目を開けることができている気がする。  コロナが本格に流行した時期くらいからnoteを始めて、気がつけば文字を綴ることが自分の中で常態化して、これまではどちらかというと読む専門だった私が、まさしく自分の中でポンと新しく産声を上げた。最初どちらかというと自己満足に近かったのに、少しずつ読んでくださる人

あたまの中の栞 -水無月-

 早いもので新しい年を迎えてから半年が過ぎようとしている。「光陰矢の如し」とはきっとこんな時に使うんだろうな。6月に入ってからは毎日のように雨が降っていて、正直な話気が滅入った。もう地面が陥没してしまいそうなくらい雨が降り続けて不安が胸を掠める。  ここ一ヶ月長い物語を書いているうちに気がつけば1日が終わっている、という日々が続いた。物語を書くのは全然私にとっては苦ではなくて、あー私生きてるって思ってしまった。なんて単純なんだろう。自分が紡ぎ出す物語の世界に没頭することによ

あたまの中の栞 -皐月-

 そろそろ春の暖かい季節も通り過ぎて、ジメジメとした季節に突入しようとしている。5月は個人的にはとても好きな季節。都会ではあまり見かけなくなったけど、私が住んでいる田舎町ではところどころで鯉のぼりを見ることができる。柏餅も食べることができるし、黄金色に輝く休みだってある。  なかなか贅沢かつ楽しみが詰まった月だと思う。例年であれば、だいたい休みを数珠のように繋げて、海外へ特に目的地を定めるでもなくプラッと飛ぶ。残念ながら依然として「名前を言ってはいけないあいつら」が猛威を振

あたまの中の栞 -卯月-

 4月は1年の季節の中でも1、2を争うくらい好きな季節かもしれない。何といっても日本人が愛してやまない桜を見ることができるし、気温も暖かくなって過ごしやすい。新しい年度始めの季節ということもあって、気持ちも新たに引き締まる。  去年の今頃は同じように緊急事態宣言が発令されていて、あの頃は状況が改善されていることを心の底から願っていたけれど、再びゴールデンウィークを迎えるにあたって同じビデオテープを再生しているような気にさえなってくる。どこかやるせなさも湧いてくるではないか。

今夜は心地よい炭酸の上で

 ようやく明日からゴールデンウィークとなるわけだが、毎年やっときたー!というような異様なハイテンションにはなることができないでいる。それもこれも突如降って湧いた”やつ”のせいであるが、もうみんなが同じ状況なので四の五の言うことはできない。  まだまだしばらく海外へ行けなさそうなので、どうにも魂だけでもどこか浮遊したい気分になってくる。(そういえば昔ゲゲゲの鬼太郎のアニメ版において、鬼太郎が魂だけ飛ばして地上階を見下ろす回があったような気がする。私も魂だけでもこの状況から抜け

あたまの中の栞 -弥生-

 気がづけばあっという間に新しい年度が始まっていた。正直先月に自分が何をやっていたのかということをまったくもって思い出せない。引っ越しやら新たな仕事のタスクやら、やることが後から後から降って湧いてくる。自分の時間も確保できない。  …というのはきっと言い訳で、忙しさにかまけてサボっていただけです、ハイ。そうこうしているうちに、ハッと我に帰ると図書館への本の返却期間が過ぎていて、慌てて本を返しに行く羽目になった。  新しく引っ越した場所は、幸いにも図書館から10分もかからな

あたまの中の栞 -如月-

 一年のうちで一番短い月、二月。気がつけば新しい年が始まっていて、そこから二ヶ月も経ってしまった。不思議な気分だ。緊急事態宣言が発令された結果、緩く外に出るような日々が続いている。  どちらかというと家から出る時間もだいぶ減ってしまったので、気楽な感じで本やら映画やらを楽しんでいる。さすがにずっとこのままの生活は耐えられないと思うけれど、自分が好きだと思える世界にどっぷり浸かれる時間ほどこの世に素晴らしいものはないのでは、という気さえしてくる。  先月から引き続き、一ヶ月

記憶は決して色褪せない

 自分の幼少期の頃を、思い出そうとしている。まだ物心つく前のことで、善悪の区別もついていなかった。その頃の自分は、誰かと接するときや何か行動を起こすときなど、そこには一切の偏見や先入観が存在していなかった気がする。確かに、この世界にあるすべての物事は新鮮だった。  今では、ある程度自分の中で経験や知識が蓄積された一方で、どこか物事をフラットな目で見ることができていないのではないかという思いに駆られてしまう。そんなとき、原点に一度戻るために読むのがアメリカ人作家Truman

自分にないものに憧れる

 昔はどこか現実世界から逃避できるような場所を欲していて、心温まる小説ばかりいっとき読んでいた。それがここ最近だと、割と人の内面だとかその人の行動する理由みたいなところに、焦点を絞った作品を読むことが多くなった気がする。  そんな中で読んだのが、奥田英朗さんの『ナオミとカナコ』という作品。 ■  あらすじ望まない職場で憂鬱な日々を送るOLの直美。 夫の酷い暴力に耐える専業主婦の加奈子。 三十歳を目前にして、受け入れがたい現実に 追いつめられた二人が下した究極の選択……。

あたまの中の栞 -睦月-

 ふだん日常的に映画を見たり、本を読んだりしていると、終わった直後はしばらくその内容がふよふよと頭の中を漂っているのだが、料理と同じでしばらく経つ頃には感動経験は残っているのに内容の細かい部分を忘れてしまう。  そんなわけだから、ひと月終わるごとに、その前の月に読んだ映画や小説を棚卸ししようと思い、noteにもまとめることにした。 1. さくら:西加奈子 昔からずっとずっと再読したいと思っていた作品。前回読んだ時は、正直主人公の兄のエピソードと、美しい妹の美貴のエピソード

読後感想文:『消滅世界』

正常ほど不気味な発狂はない。だって、狂っているのに、こんなにも正しいのだから。(河出文庫・p.248)  今わたしが生きているこの瞬間は、何か意味があるのだろうか、そしてこの先何が待ち受けているのだろうかと思うことがある。その延長線上の思考の中に、わたしがわたし自身たりうるその存在を築き上げているのは、いったい何なのだろうかとよくわからなくなってしまう。  昔何かの紹介番組の中で、村田沙耶香さんの『殺人出産』という本の特集を見た。その時に一度読んでみたいと思ったまま、その

さくら

ああ神様はまた、ぼくらに悪送球をしかけてきた。 ★ 西加奈子さんの『さくら』を、久しぶりに読みました。 昔読んだ時も、なんて瑞々しい描写なんだろう!と思っていて、ずっと心の中に残っていた作品の1つです。元々は本屋大賞に選ばれた『サラバ!』という本を読んで衝撃を受け、その後別の作品を読むようになり、最終的にたどり着いたのが『さくら』。 最初読んだときには、とにかく主人公の兄ちゃんのエピソードが強烈で、それがずっと心の奥底に燻っていました。タイトルの由来となっている、犬の

読後感想『琥珀のまたたき』

幼い頃の記憶。誰しも幼い頃のことを思い出すと、ほとんどのことが朧げながらも、どこか断片的に思い出す記憶があると思う。そしてなぜか楽しい思い出よりも、どこか苦い思い出の方が、脳裏に強く焼き付いていて思い出すたびに少しシュンとなる。 わたしがちょうど小学校に上がる前に、隣に兄と妹の兄妹が住んでいた。よく一緒に遊んでいたのだが、妹は非常に犬が苦手であるときそのことを面白がった兄がわたしも巻き込んで、妹に犬をけしかけたことがあった。 その途端、妹は恐怖で泣き叫び、その事実を知った