冬に増える重篤な病気~ヒートショックに気をつけて!
冬になると増える病気があります。心筋こうそくや脳卒中といった、命にも関りかねないものです。原因の一つとされるのが、寒暖差。そうした病気の仕組みと、高度急性期病院として、救急外来ではどんな受け入れ態勢でいるかについて、大同病院 救急センターの看護師長・有本泰生さんに聞きました。(2023年11月22日配信)
ヒートショックって知ってますか?
イズミン 「ヒートショック」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
冬場に、部屋の中は暖房で暖かくしているのに外に出ると寒いため、急激な温度の変化が体に起こってしまいます。
アリモト 寒さで血管がギュッと収縮して血圧が上がる。それによって心筋こうそくや脳こうそく、脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血といった、とても怖い病気が起こりやすくなります。
シノハラ 日本家屋って、確かに寒暖差が大きいから、そういうトラブルが起こりやすいかもしれないですね。
アリモト そうなんです。海外の寒い地域や日本でも北海道などでは、家全体が温かくなっている造りも多いですし、最近のマンションですと気密性も高くて、家の中に寒いところが少ないのですが、一般的な日本家屋の特徴としては、暖房は部屋ごとなんですね。なので、リビングから一歩、廊下に出た途端にブルッとか、トイレもけっこう寒かったりします。
特にお風呂ですね。お風呂から出ての脱衣所が寒い。お風呂で体はポカポカ温かい状態から寒い脱衣所で急に体が冷え、そこで血圧が上がったりします。
あと冬の朝はかなり冷え込みますが、朝早い時間に新聞を取りに行ったり、ゴミ出しにいくときに、ちょっとの間だからいいやと、パジャマや薄着のままで出ていくのも要注意です。
シノハラ ちょっとした時間なんですけども、面倒くさがらずに油断せずに、上着を羽織って温かくして外に出ていただきたいですね。
脳卒中に気をつけて
イズミン まずは脳卒中について伺っていきます。どんな症状なんですか?
アリモト 先ほども言った通り、寒いとギュッと血管が縮んで、それで血圧が上がります。脳の血管にもともと動脈瘤ができていたりすると、そこへの圧が高くなり、それが破裂すると「くも膜下出血」という状態になりますし、血管がキュッと縮むことによってその部分の血管が詰まってしまう「脳こうそく」も大いに可能性はあります。
シノハラ くも膜下出血は、すごい頭痛がするといいますね。
アリモト はい。くも膜下出血の一番の特徴は激しい頭痛です。よくいわれるのは「人生最悪の頭痛」。今までこんな頭が痛いことはなかったと、のたうち回ります。「頭を金属バットで殴られたような痛み」とも言われます。こうなったら迷わず救急車を呼んでください。
イズミン 救急車で病院に運ばれたあとはどんな処置が取られるのですか?
アリモト 救急外来に到着したら、すぐに必要な検査をします。まず頭部のCT撮影ですね。これでくも膜下出血かどうか、かなりの確率で鑑別診断できます。ここでくも膜下出血だと診断できればすぐに脳神経外科の先生に連絡をして、手術となります。
シノハラ 脳こうそくの場合はどうなりますか?
アリモト 脳こうそくには割と軽いものから、かなり重篤なものまでいろいろあるのですが、典型的な症状としては、片方の手足に麻痺やしびれが出る、ろれつが回らない、喋りにくいといった症状が出ます。言葉がうまく出てこない、飲んだり食べたりするときに物が口からポロポロこぼれてしまうこともあります。また視野が欠けて半分見えなくなるとか、めまいでクラクラすることもあります。これらの症状が出たときも迷わずに救急車を呼んでいただきたいですね。
イズミン 脳こうそくではどのような対応をされるのですか。
アリモト こうした症状の患者さんがいると救急隊から連絡が入ったら、われわれは「脳こうそくかもしれない」とピンときますので、大同病院では「脳卒中チーム」という、このようなケースで迅速に対応してくれる専門のチームにまず連絡します。
そうすると、彼らが事前に救急センターまで来て準備を始めます。患者さんが到着したら、やはり最初にCT撮影を行って脳出血があるかないかを確認します。出血がなければ、次にMRI検査を行います。これで脳こうそく、すなわち「血栓」が実際にどの部位に起きているのかを確定診断することができます。
イズミン 血栓ができていることがわかったら、治療はどうなりますか?
アリモト その症状が出てから約4.5時間以内なら、その血栓を溶かす治療方法(tPA)が選択されます。もうちょっと時間が経っている場合、8時間ぐらいが目安ですが、それ以内なら脳血管内にカテーテルを入れてその血栓を吸い出す治療(血栓回収療法)が行われます。
シノハラ ちなみに「脳卒中」というのは、血管が詰まる脳こうそくや脳出血など脳血管のトラブル全体を指して、この「脳卒中チーム」はそれらに対応するチームということですね。
アリモト はい。いずれにしても迅速な治療が必要なので、こうした症状が出たら迷わず救急車を呼んでください。
心筋こうそくや狭心症
イズミン 心臓の場合はどんな感じの症状が出るんですか。
アリモト 代表的な心筋こうそくでは、まず最初に出てくるのは胸痛です。痛みの程度を表すのに「火箸で刺されるような痛み」とか、「心臓をギュッとわしづかみされるような痛み」と表現されます。心臓の痛みまでは意識しないまでも、神経支配領域の関係で、肩のあたりや顎の方に痛みが出ることもあります。こうした症状が出たら、救急車を呼んでください。
それから、心筋こうそくの一歩手前の状態、いわゆる「狭心症」というんですが、一時的に胸が痛くなっても、ちょっと座って休んでると治まってしまうこともありますが、これも絶対に病院を受診していただきたいです。
シノハラ 心筋こうそくは心臓に血液を供給する血管が詰まって、心臓に血液が行かなくなって心臓がだんだんダメになってくる病気で、狭心症は血管が細くなって心臓に血液は一応流れけれども詰まる手前だね。休むと血管が落ち着いて、また少し広がって血流量が増えるから楽になりますが、また詰まっちゃうかもしれないから受診が必要ということですね。
イズミン 心筋こうそくではどんな処置が取られるんですか。
アリモト 心筋こうそくの最初の重要キーワードが「胸痛」とお伝えしましたが、この症状があると、救急車が出動すると同時に消防本部のほうから当院の救急センターに連絡が入ります。その連絡があれば、救急センターではすぐに患者さんの受け入れ準備を整えます。
救急外来に到着したらすぐに、まず心電図です。これでかなりの確率で、心筋こうそくや狭心症の診断が可能になります。そこで心筋こうそくを起こしていることが確認できれば、すぐに心臓カテーテル治療を行います。具体的には、足の付け根などの太い動脈から心臓に向かってカテーテルと呼ばれる細い管を通して、心臓の周りを取り巻く冠動脈まで到達させて、そこで血栓を溶かしたり、心臓の血管自体を広げたりする治療を行います。
この救急センターに到着してから、心臓カテーテル治療を行うまでの目安時間を「ドアtoバルーン」と呼ぶのですが、一応90分となっています。でも90分かけてのんびりやるのかという話ではなく、本当に一刻も早くという状況なので、当院ではすぐに放射線技師やME(臨床工学技士)などに協力をしてもらいながら、可能な限り速く治療することを目指して頑張っています。
イズミン 1分1秒を争っての救急医療ということですね。
アリモト そのために救急外来だけでなく、CTやMRI検査を撮影する放射線科も24時間体制で超急性期治療に備えていますし、場合によっては待っているだけではなく「ドクターカー」が出動して、病院に搬送するときから治療を始めることもあります。
イズミン ドクターカーについてちょっと説明していただけますか。
アリモト はい、当院のドクターカーは見た目、普通に一般で走ってる救急車と同じような車両ですが、消防本部から「ドクターカー出動してください」という要請があると、それに応じて、消防署から出る救急車とは別に、大同病院の方から、医師がそのドクターカーに乗って現場に赴きます。そこで患者さんに対して、必要な処置をできるだけ早く開始し、一緒に救急センターに戻ってくるというシステムです。
シノハラ ドクターカーも含めて当院は救急医療にすごく力を入れてるし、実際スタッフもね、1分1秒を争ってなるべく早く患者さんが治療を受けられるようにって頑張ってるから、この努力を引き続き行って、患者さんが少しでも早く治療を受け、少しでも早く良くなっていただけるよう、頑張っていきたいところではありますね。
イズミン 有本さんたちも頑張ってください。ありがとうございました。
ゲスト紹介
有本泰生(ありもと・やすお)
大同病院 救急センター勤務、2023年秋、当院初の男性看護師長に就任。
救急外来では、自分たちのファーストタッチが、患者さんの予後、人生を左右しかねないため毎日が緊張の連続だが、それを逆にモチベーションに変えて24時間値365日眠らない救急を支える。趣味は読書と車をいじること。