がんに関するどのようなお悩みも相談してください
地域のがん診療拠点病院である大同病院には、地域のだれもが利用できる「がん相談支援センター」が設置されています。ここには専任の看護師がいて、がんに関するさまざまな悩みごとを聞き、解決のお手伝いをします。病状や治療に関することはもちろん、治療中・治療後の生活に関すること、お仕事や学校のこと、経済的な問題など幅広く対応しています。
いま注目されているのが「アピアランスケア」というもの。これは、化学療法などがんの治療によって髪の毛が抜けてしまったり、乳がんで乳房を切除したり、治療でお肌や爪などが荒れてしまった、という見た目のことについて悩みをお聞きしたり、ウィッグ(かつら)や人工乳房など、見た目を整える製品をご紹介したりしています。そのがんのアピアランスケアを中心に、がん相談支援センター看護師の和田美恵子さんにお話を聞きました。(2024年8月7日配信)
がん相談支援センターとは
イズミン 「がん相談支援センター」というのはどんなところですか。
ワダ がんの診療連携拠点病院などに置かれている「がん」に関する相談窓口です。「がんの疑いがある」と言われて不安になった、これからの治療どうなるんだろう、自分の体はこれからどうなるのか、お仕事や学校はどうしたらいいか、お金のことは…といったいろんな悩みや不安をだれかに聞いてほしい、というときにご相談いただける窓口です。
看護師のわたしがまずお話を伺い、相談内容について適切な専門職につなげたりします。
イズミン 大同病院にかかっていない方でも相談に来ていいんですよね。
ワダ もちろんです。地域のがん診療拠点病院としてこの窓口を開設していますので、当院にかかっていない方や、患者さんご本人以外のご家族やご友人の方からの相談も受け付けます。無料ですし、お気軽にご利用いただければと思います。直接面談でも、お電話でも受け付けています。
イズミン 和田さんはこれまでもがんの患者さんとかかわってこられたんですよね。
ワダ がん化学療法や外科の病棟でがん患者さんと接してきましたが、なかなかゆっくり向き合う時間が取れないことにジレンマを感じていました。こちらが忙しく動き回っていると、患者さんも話したいけど遠慮してしまう、本音を言えないということが起きていました。そうこうしているうちに、治療が進むことや、自身の身体が変化していくことを受け入れがたいという患者さんをたくさん見てきました。終末期に差し掛かったときに、自身の状況を受容できておらず取り乱される、ご家族も準備ができていないということもありました。そうした中で看護師として何かできないか、患者さんやご家族が納得してがんと向き合えるようになるには、どうしたらいいかとモヤモヤしていました。
イズミン がん相談支援を専門にされることになって、看護師としての関わり方は変わりましたか。
ワダ そうですね。病棟とは違い、時間を取ってしっかり患者さんの訴えや不安に向き合うことができるようになりました。まずはとにかく話をまずは聞き、患者さんが発する言葉から、時には本心からおっしゃっているのか、表情や声のトーンを観察しながら、何に困っていて、どんな悩みがあって、どんなニーズがあるのかをキャッチするよう努めています。そして、必要に応じて専門部署に繋げる橋渡しをするのがわたしの役目なのですが、臨床経験があることで、それを生かして、患者さんが直接先生に聞けなかったことや、細々した疑問や不安についてお答えすることもあります。治療経過についてもカルテを見ればある程度わかりますので、これからどんなことが起こり得るのかについて、今後出てくるかもしれない症状などについてお話できるのは強みかなと思っています。
シノハラ 患者さんとしては、聞きたいことがなかなか医者に聞けないことも実際多いと思うので、相談できる窓口があって、解決策を示してもらえたり、その人の想いをだれかに話すことで、ある程度、気持ちがスッキリしたりすることもあるから、すごく大事な仕事ですね。
イズミン 聞いてもらえるだけでありがたいことも多いですよね。
ワダ 例えば、家族にも言えないこと、家族だからこそ言えない、心配をかけたくないから、という方も結構いらっしゃいます。自分の中に抱え込んでしまって「どうしよう、どうしよう」と一人で悩んでいらっしゃる方もすごく多いんです。がん相談支援センターのような場所では、「ただ聞いてほしい」というだけの方もたくさんいらっしゃいます。そういう吐き出す場所でもあるので、上手く利用してもらえるといいと思います。一人で悩まずに一緒に考えていける、そんな関わり方をしていきたいなと思っています。
イズミン がん相談支援センターに配属されてから、ちょっと新しい気づきもあったそうですね。
ワダ そうですね。以前、病棟にいたときは入院患者さんとしか関わる機会がなかったのですが、がん相談支援センターでは、退院後、自宅で生活されている方との関わりの方が多いので、地域の医療者や多職種の方たち、ケアマネジャーや訪問看護師、訪問診療や訪問リハビリなど、いろいろな、今まで関わりが薄かった方たちと密に関わる機会がすごく増えました。どのように連携しているのか、それぞれがどんなサポートをしているのか、以前は広く浅くしか見えていませんでしたが、自分自身が深いところまで関わるようになって、こんなふうにいろいろな職種の人たちが連携して一人の患者さんやご家族を支えているんだなということが、実感としてわかってきました。
シノハラ 確かに切れ目なく、いろいろな職種の方が患者さんの生活に寄り添って支えていますよね。
がんのアピアランスケア
イズミン がんの治療では、化学療法で髪の毛が抜けてしまったり、また乳がんで乳房切除したりと、大きく外見が変わることも珍しくありません。
ワダ そうですね。そうしたがん治療に伴う外見の変化によって、患者さんが身体的なことはもちろん、心理的・社会的に受ける苦痛を軽減するための支援を「アピアランスケア」と専門的には呼んでいて、がん対策基本法の中でもとても重要視されています。
外見が変化すると、どうしても周りの目が気になってしまったりとか、外に出るのが億劫になってしまったり、精神的ダメージを受けて抑うつ的になってしまったり、とったことが起こります。社会生活上、かなりマイナスな面が多いので、アピアランスケアは非常に大事なものです。
シノハラ アピアランスケアは、医学的、整容的(見た目)、そしてそれによって心理的、社会的な不安にもアプローチして支援するということですが、具体的にはどんなことをするんですか。
ワダ 医学的な対応としては、例えば治療による皮膚障害に軟膏を塗ったり、爪がボロボロになった場合のケアであったり、乳房を摘出した方の再建術といったものが挙げられます。あと、眉毛も抜けてしまった場合のアートメイクも、医学的な面でのアプローチのひとつです。
整容的な部分に関しては、外見の悩みに対するアドバイスをします。脱毛をカバーするウィッグなどですね。
心理的、社会的なアプローチとしては、対人面での行動やコミュニケーションに悩まれる方が多いので、それについての助言や、社会的資源に関する情報提供を行っています。例えば、営業職の方ががん治療に伴って脱毛し、それでは取引先との仕事にも支障が出るというご相談に対し、その方の外見の変化に対する考え方やお気持ちについてお聞きして、ウィッグを着ける一方で、気持ちの持ちようについてもアドバイスしました。
シノハラ 整容的な変化に対して、技術的に補うことはできますけど、患者さんの心の持ちようについては心理・社会的なアプローチが大事ですね。
ウィッグや人工乳房について
イズミン 整容面のケアとして、ウィッグ(かつら)や人工乳房といったものを使えることを知ったのですが、どんなものなんですか。
ワダ わたしたちがご紹介しているのは医療用ウィッグなのですが、一般のおしゃれウィッグと違うところは、脱毛によって、頭皮が過敏になるなど皮膚のダメージに対する配慮もしっかりしていて、通気性良く、サイズも細かく調整ができます。
髪質も人工毛、人毛、両者のミックスと大きく分けて3種類あります。
人工毛は、一般的におしゃれ用ウィッグで使われているのと同じようなものです。完全に人の髪の毛で作られたものもあり、これはヘアドネーションで提供された髪の毛を使って作られています。人工毛と人毛をミックスしたものもあり、それぞれメリット・デメリットもあるので、そのたたりの情報提供をしています。
髪の毛って、本当に人それぞれじゃないですか。髪の毛の太さ、硬さ、白髪の混ざり具合などさまざまなので、利用する患者さんの髪質に合ったもの、希望されるものをオーダーで作ることができます。アフターフォローもしてもらえますので、治療によって脱毛の程度が変わり、頭のサイズに変化があったりしたときもサイズ調整が可能です。
イズミン 確かに自分の髪の毛の量によって、ウィッグの密着度も変わりますよね。
ワダ はい。治療が始まる前に自分のウィッグを作っておきたいと考える方が多いのですが、治療前だとまだ髪の毛が生えている状況なので、それで作るとサイズ感が違ってきちゃうんですね。なので、髪の毛が生えているときに作って、いざ脱毛して髪の毛の厚みの分、サイズが変わってきたときも調整してもらえるのが、医療用ウィッグのメリットだと思います。
イズミン アートネイチャーとかアデランスとか、かつらメーカー大手もこうした医療用のウィッグを作っているんですね。
ワダ はい、そういった大手もありますし、たくさんのメーカーがあり、値段もピンキリです。ところが出しています。値段が高ければいいというものではありませんので、メリット・デメリットを把握して、ご自身に一番適したものを選んでいただけるよう、ご相談に乗っています。
イズミン 人工乳房について伺います。これは乳房の再建術とは違うんですね。
ワダ はい。再建術ではなく、胸にペタッと張り付けるタイプのものです。あまり知られてないので、もっともっと皆さんに知っていただければ嬉しいです。
この人工乳房は、3Dスキャナーを使って、完全オーダーメイドで、残った片方の胸と同じような肌質や肌感、色や形状をほぼ再現できます。ペタッと張り付けて、ぱっと見た感じ、全然わかりません。本当に精巧につくられていて、再建術をしなくても人工乳房で代用が十分できることをみなさんにお伝えしたいです。
イズミン ウィッグにしても、人工乳房にしても結構費用はかかりますよね。
ワダ 保険適用外になるので、それなりにかかります。全国の自治体のほぼ全てで助成金制度があり、多少補助されます。
イズミン がん保険の一時金で賄えるケースも多いと思いますので、乳房再建術に比べたら侵襲も少ないですし、それで温泉やプールに行っても大丈夫なら、心強いですよね。
ワダ 公衆浴場や海などにお子さんと行きたいといった女性にとっては、やはり胸の問題って非常に大きいと思うんです。
シノハラ そういう方が人工乳房をつけることで、今までと同じような生活が送れれば、その生活の質(QOL)を担保できるということですよね。
ワダ 外見が変化しても、その人らしく社会生活を維持していくためのツールとして、こうしたウィッグや人工乳房などをニーズに応じてうまく使っていただければなと思っています。
展示会やがんサロンを定期的に開催
イズミン 大同病院ではこうしたがんのアピアランスケアの紹介など、がん患者さんのためのいろいろなイベントを開催していますよね。
ワダ はい。偶数月には「患者サロンease」を開催しています。これは、がん患者さんやご家族に集まっていただいて、ご自身の体験を語りあっていただいたり、情報交換をしていただいたりしています。当院の強みとしてはそのがんサロンに来ていただくと、医師や看護師薬剤師や管理栄養士、リハビリのセラピストなどの専門職と直接お話していただくこともできます。
奇数月には、お話したようなアピアランスケアの展示や相談会を、業者さんにも入ってもらって開催しています。そのほか、実際にがん治療を経験した方をお招きして、実体験を語っていただいたりしています。こうしたイベントについては、インスタグラムですとか、ホームページなどでご案内しています。
イズミン アピアランスケアなどは、いま実際に困っている、必要としている方だけではなくて、がん患者さん以外の方にもぜひ立ち寄っていただいて「こういうものがあるんだな」と知っていただけると良いと思います。もしかしたら将来必要になるかもしれません。和田さん、ありがとうございました。
ゲスト紹介
和田美恵子(わだ・みえこ)
がん相談支援センター看護師。外科病棟や化学療法センターで勤務しながら、がん患者さんとかかわり、なかなかじっくり、その悩みや辛さに向き合えないもどかしさを感じていた。2024年春から相談センター専属となり、「ゆっくり話を聴く」だけでも力になれることがあると感じている。
趣味はショッピング。洋服や家具、食器など気に入ったものがあるとツイ買ってしまう。また最近、犬を飼い始め、家に帰ると迎えてくれるのが可愛くてしかたなく、癒やされている。
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