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ケアマネジャーの上手な使い方

「ケアマネジャー」は、介護保険サービスを利用にあたり、要介護・要支援の申請、ケアプランの作成、サービスの手配、介護の目標に対して実際にうまく自宅での生活ができているかの評価や調整など、とても重要な役割を担っています。高齢化が進み、「要介護認定」も取りにくくなっているといわれるなか、本当に必要なときにはどうすればいいかなど、大同居宅介護支援事業所のケアマネジャー、北野和美さんに教えてもらいました。ケアマネさんのスキルによって、自宅療養のクオリティはかなり変わります。ケアマネの上手な使い方を知る参考にしてください。(2024年4月10日配信)

ケアマネジャーとは、どんな役割を担うのか?

イズミン まず「ケアマネジャー」とは、そもそも何ですか?

キタノ 日本語では「介護支援専門員」と言われます。福祉用具、訪問看護、ヘルパー(訪問介護)など多岐にわたる介護サービスを、利用者さんの意向や必要性に応じて、その人の望む生活ができるように、調整して導入していく司令塔のような役割を担います。利用者さんに困ったことがあればそれを聞いて調整します。

シノハラ 普段どんな仕事をされているのですか?

キタノ 仕事の量・幅は大きいのですが、まず新規の利用者さんについては、ご自宅を訪問し、その方が生活上で困っていること、どのような助けがあると自立した生活ができるかを評価(アセスメント)し、一緒に考えていきます。それからサービスの計画書を作り、各種サービス提供者の担当者が集まって、「サービス担当者会議(ケアカンファレンス)」を行います。
 サービスの導入にあたっては、例えば「デイサービスに行きたい」要望があれば、その人に合いそうなところをオススメしたり、体験利用をしてもらったりします。歩行器や車いすといった福祉用具も、いろいろなタイプがあるので、試してからレンタルできます。

イズミン その「サービス担当者会議」というのは、利用者さんのご自宅で開催するんですよね。

キタノ はい。やはり、その方の実際の生活環境を見て皆で考えたほうがいいので、ご自宅でやります。利用者さんとそのご家族と集まって、いろいろな意見を出し合ったり、各事業者さんからアドバイスいただいたりしながらサービスを調整し、計画書を作って、それに基づいてサービスを開始します。初回だけでなく、途中で介護度が変わったり、身体の状態や介護の目標が変わったりした場合にも、都度、こうした会議を開催します。
 そのほか、月に1度は利用者さんのご自宅の方を訪問し、きちんと本人の目標に沿ってサービスが使えているか、新たに困っていることはないかとかなどを、利用者さんやご家族からお話しをお聞きする機会を作っています。

イズミン 介護サービスを調整し組み立てていく上で、難しいことや注意していることはどんなことですか。

キタノ ご本人の意向はすごく大事にしています。それが思い通りになるときはいいんですけど、金銭面や取り巻く環境の問題で、そうならないこともあるんですね。例えばご家族は「施設に入れたい」、ご本人は「おうちにいたい」と、意見が違うときは結構難しくて、できるだけお互いが「ここはちょっと我慢しようか」とか、「ここは家族の協力を得ようか」と、なるべくいい着地点になるように、提案したり話し合ったりして調整していきます。

シノハラ それ実力いりますね。だって利用者さんの思いもあるけれど、金銭面とか家族の協力も大事だから、それをどうやって折り合いつけて、利用者さんも妥協しながらも納得していただいて、家族の協力も得られて、うまくサービスを受けられるよう調整するのは、腕の見せ所ですね。

キタノ ケアマネ1人ではできないことが多いんです。

シノハラ いろいろな方と協力して連携するにも、コミュニケーション能力や人生経験が必要ですよね。

キタノ 利用者さんご自身が歩んできた人生を知ることで、何を大事にしてらっしゃるのか、だからご家族とこういう関係なのか、といったことがわかってくるので、お話をよく聞いて、調整するようにしています。

シノハラ その人自身と向き合わないとできないですね。

キタノ そうですね、信頼関係は大事だと思います。一度では聞けない。何度もお話しているうちに、だんだん自分を出してくれる方もいます。

シノハラ 大変だけど、やりがいはありますね。

イズミン 大同居宅介護支援事業所の特徴は何でしょうか。

キタノ スタッフたちのスキルは高いと私は自負しています。特に終末期の方で、いま自宅へ帰らないと、在宅で過ごすいい時間がなくなってしまうというケースで、在宅診療部や訪問看護ステーションと連携をとりながら、最短で帰れる迅速な対応が常にできていると思います。在宅看取りの方も増えてきています。
 それは宏潤会には病院があり、訪問診療や訪問看護のセクションもあり、老人保健施設、リハビリもあります。医療、介護の連携がとれているのでケアマネとしての役割も発揮できます。なので在宅看取りの方も多いです。

高齢化の進展とともに変わってきていること

イズミン 高齢化がどんどん進み、それに伴って介護保険サービスも逼迫してきています。変わってきたや、以前に比べて大変になったなと思われることはありますか。

キタノ 申請する方が増えてきたこと、あとは情報が溢れていることですね。ご家族がインターネットなどですごく調べてくるんですよ。いい情報もたくさん持っていらっしゃるけれども、悪い情報もあって「ヘルパーさんは何でもやってくれる」など、間違った認識をお持ちの場合もある。でも、介護保険ではできないこともあります。
 また、申請者が増えて、要介護認定の審査結果が出るのに以前は1カ月くらいでしたが、もう少し長くかかることもあります。申請から認定調査が入るまでの時間も、申請者が多いときは3週間くらいかかるようになりました。ただ、申請したその日から、暫定でサービスを利用することができますので、本当に困ったときに申請する方が良いのではと思います。そうでないと、要介護度も軽くでてしまうので。
 終末期は「至急でお願いします」というと3日以内に認定調査に来てくれます。みなさんが必要なときに申請するようになれば、区役所の介護保険課も混み合いません。

シノハラ なるほど。みんな知識が増えて、時間がかかるからと早めにやろうとすると、かえって思うようにいかないんですね。

イズミン もう余命が少しだけど、おうちへ帰りたいと帰られて、1~2日でお看取りになるケースが実際あると思いますが、そういうケースで介護ベッドもなかったら大変ですよね。

キタノ そういう場合は、退院が決まったらなるべく早めに申請するようにしています。どうしても調査が間に合わないというときは、自費の金額についてもお話させてもらって、でも最低限必要なものは整えるようにしています。

シノハラ 介護ベッドや訪問看護師はマストですから、やはりそこら辺のスピード感が大事ですよね。

キタノ そうですね。うちの場合ですと、退院前から在宅診療部や訪問看護ステーションと連絡を取り合って、退院前にできる限り準備をします。お風呂に入りたいという希望があれば、そのための条件なども医師に聞いておいて、帰ったら最短で入れるようにするなど、利用者さんが望むスタイルで、在宅で過ごせるよう調整していきます。

シノハラ そういう意味では宏潤会のいろいろなサービスが有機的に繋がっているといえますね。

キタノ はい、ちょっと手前味噌ですけど、本当にそう思います。

イズミン 最近は、独居で頑張る方も多いと思いますが、そういう方が介護保険サービスを利用するときに、問題が起こることはありますか?

キタノ 要介護認定は、介護の手間がどれだけかかるかが点数化されて計算されます。なのでご家族がいて、娘さんやお孫さんがいろいろお世話をしているとなると、介護度が上がります。ところが、一人暮らしの方の場合、自分でやらざるを得ない状況なので頑張ってやっていらっしゃる。本当は助けがあったほうがいいことも一人で「できるでしょ」と判断されてしまう傾向があるんです。

シノハラ 悩ましい問題ですね。独居の方は増えていくから、今後の課題ですね。

キタノ ただ反対に1人で頑張っているから元気、ということもありますので、一長一短ですね。

シノハラ そういう意味では、身体的な介護も大事だけれども、その方が1人で頑張れるような精神的サポートも重要かもしれないですね。

イズミン 昔は地域の繋がりとかありましたが、いまは少なくなり、孤独感も増します。本当に何かあったとき、ちょっと助けてくれる人が近くにいると安心ですよね。

イズミン 介護保険サービスを利用するにあたって要介護度によって使える金額が違ってきますが、そのあたりで問題になることはありますか。

キタノ 要支援1・2、要介護1~5とあり、それぞれ限度額が決まっていて、それを越えた分は10割負担になってしまうので、超えないように、何が必要かという優先順位を決めていくんですが、中には金銭的にこれだけしかお金払えないという方もいらっしゃるので、そういうときは介護保険外の地域の福祉サービスなども検討したりしています。

イズミン いまは収入に応じて、2割負担、3割負担もありますが、ボーダーラインの方は大変ですよね。

キタノ 収入があと数万円少なければ1割負担のゾーンなんだけど、その数万円のために自己負担額が倍になり、収入の差である数万円を上回る出費になるというケースも実際あります。

イズミン 独居の場合、契約上の問題が起こることもありますか?

キタノ 施設によっては保証人がいないと入所できないところもあるので、そのような場合には、民間の身元保証を案内させてもらっています。

どんな方でもご自宅に帰れる

イズミン 病院から退院する際に、ご自宅に帰るのは難しいかなという方でも、ご本人が望めば、そのためにサービス調整することが自分たちの務めだとおっしゃっていましたが、患者さんの希望を聞き、それを叶えるために努力していること、大事にしていることはどんなことですか。

キタノ 大同病院を退院する方では、寝たきりの方やがん末期の方なども多くいらっしゃいます。まずその方の希望を叶えるために、その方を知ることを大事にしています。
 なぜ自宅で過ごしたいのか、どういうふうに過ごしたいのか、何を大事にしているのかをお聞きして、その方の生い立ちやご家族のことを知れば、望まれる過ごし方やサービスのイメージが見えてきます。本人からの聞き取りが困難なときは、ご家族から、その人が元気なころに言っていたことや、好きだったことなどをお聞きします。福祉用具など早めに用意できるものは準備して、いつ退院してもご自宅に戻れるよう、仕度を整えていきます。

イズミン ご自宅に帰られても、やっぱりちょっと難しいかなということもあるかと思いますが、そういうときはどうしますか?

キタノ 主治医と相談しながら、また入院することもあるし、施設をご紹介することもあります。家に帰ると決めたからといって、必ずしもそうしなければならないわけではなく、気持ちは変わるものですので、その時々の気持ちを大事に、寄り添っていけるよう心掛けています。

シノハラ 確かに、帰りたいと思って、いざ帰ると不安になることはありますよね。でもね、たとえ数日であっても、本人と家族が家で一緒に過ごせたらいいですよね。

イズミン このお仕事をしていて、心動かされることはありますか?

キタノ ケアマネジャーは基本的に、月に1度しか利用者さんのお宅を訪問しないのですが、在宅で看取りされる方は、身体状況なども大きく変わっていくので、こまめに訪問します。すると、ご本人やご家族とお話する機会が増え、とても貴重な時間をケアマネも一緒に過ごさせていただいているなと感じます。
 あとお風呂を喜ばれる方が多い。入院中はお風呂に入れないことが多いので、おうちに帰ったら入りたいと希望されますが、やっぱりおうちのお風呂は難しいから、「訪問入浴」という大きな浴槽を持ってきて入れてくれるサービスを使って、亡くなる前日まで嬉しそうに入られる方もいらっしゃいます。入浴には医師の指示もいりますので、訪問診療や訪問看護に同行させてもらって、ご本人やご家族の意見も聞いて、相談してようやく「お風呂に入りましょう」となる。お風呂って、体力を消耗するので疲れるんですが、やはり満足感や心地良さを感じて、「入れて良かった」とよく聞きます。

シノハラ それはケアマネジャーがある程度プロデュースしないとなかなか実現できないですね。

キタノ ほかには、ずっと家庭内別居されていたご夫婦で、旦那さんが終末期に奥さんのことをたくさん話してくれて、「自分が亡くなった後、妻のことが心配だ。今までよくやってくれたけどなかなかお礼が言えない」と告白されました。結局、最期までお礼は言えなかったのですが、亡くなった後に奥さんにそのことをお伝えしたら、大変喜んでくださいました。こうした貴重なお話に触れることもあります。

イズミン 亡くなられた後に伺うこともあるそうですね。

キタノ 訪問看護師が「グリーフケア(悲しみのケア)」で訪問するときに同行し、ご家族と「ご自宅で過ごせて良かったですね」といったお話をします。在宅でお看取りされた方は、満足されているケースが多いように感じています。やり切ったというか。

イズミン わたしの周りでは、これから親の介護が始まる、でもどうしたらいいかわからないという人も多いのですが、そういう人たちに向けて、知っておいたらいいと思われることやアドバイスがあったらお願いします。

キタノ 「人生会議」ってありますよね。あれがすごく大事だなと思っています。元気なうちからそういうことを話し合える環境があるといいですね。そうすれば、介護が始まってからどうしてほしいのか見えてきます。その時になってうろたえるよりも、前もって、重たく考える会議ではなくて、和気あいあいとした家族の団欒のなかで、例えばテレビ見ながら「管に繋がれるのは嫌だよね」とか、明るく話しておけるといい。
 私も主人と時々人生会議をしていて、「俺の葬式はこんなふうにしてくれ」とか「俺は入院しても最後は家族と一緒に過ごしたい」とか聞いていますので、何かあっても、それを叶えてあげられるのかなと思っています。

シノハラ 「人生会議」というと、何となく大げさに感じるけれど、“人生”というより、ちょっとした自分の想いや希望を、普段から話し合っておけるといいですね。

イズミン この番組でも「人生会議」や在宅診療、訪問看護など取り上げてきました。こうした情報もぜひ参考にしていただければと思います。北野さん、どうもありがとうございました。


ゲスト紹介

北野和美(きたの・かずみ)
大同居宅介護支援事業所 管理者、ケアマネジャー。介護士としてデイサービス、デイケアで7年半ほど経験を積んだのち、介護福祉士、そしてケアマネジャーの資格を取得。ケアマネとしての経験は14年ほどになる。
この数年はハイキングや低山登山にはまり、夫ともども道具を一式揃え、出かけている。自然に触れるとリフレッシュして、頂上で叫びたくなるほどの幸福感を感じる。


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