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顕微鏡の世界に魅せられて~がんの確定診断を支える病理検査技師

高校生のときの職場体験学習で、臨床検査部門を訪れた。そこで顕微鏡をのぞいて見つけたカラフルな世界に魅了された。そして臨床検査技師をめざし、病理検査という道をずっと歩いてきた。毎日毎日、がんの病変などを含む標本を作製し、病理診断医とともに「確定診断」という世界に挑む。そんな病理検査技師の日々をのぞいてみました。ゲストは大同病院 病理診断科の臨床検査技師・加納考城さんです。(2024年10月9日配信)

病理検査技師とは?

イズミン 病理検査室にいらっしゃる病院臨床検査技師さんとは、通常どんな業務をしているんですか。

カノウ がんなどの確定診断、つまり「この病気はこれです」という診断を病理医が行うのですが、それには組織診細胞診という二つがあります。僕たち検査技師は、手術で切り出された病変をスライスして、顕微鏡で詳しく調べるための標本を作製したり、患者さんのからだから採取された粘膜や痰や尿など体液に混じっている細胞を顕微鏡で見て、正常でないものを見分けたりといったことをしています。

イズミン 1つの症例につき、標本はいくつくらい作るんですか?以前にそうしたプレパラートがびっしり何十枚もならんだファイルを見たことがあります。

カノウ 症例によってかなり違います。1枚だけのこともあれば、30枚くらい作ることもあります。

シノハラ それを1日でどのくらいやるんですか?

カノウ 組織診では、1日に大体25~30件ぐらい、細胞診では60~70件ぐらい作ります。合わせて1日に100枚くらい作っていることになります。

シノハラ 細かい作業ですし、一つひとつが貴重な病変とか検体だから丁寧にやらないといけないし、結構な作業ボリュームですね。

カノウ はい、朝から晩までずっと作り続けるって感じですね。時間も忘れて気づくと「あ、もう(夕方の)5時か…」って(笑)

イズミン 目も疲れますよね。

カノウ 1日ずっと見てると、とても疲れます。眼精疲労ですね。そういうときには少し遠いところを見たり、ときどき休みながら進めます。

シノハラ 術中迅速診断っていうのもあるじゃなでいすか。手術中に取った組織をすぐにスライスして、病理の先生が診断しますよね。急にそういうのが入ってくる、作業のペースも乱れるのでは?

カノウ そうですね。途中でそういう急ぎの仕事が入って、時間がずれ込んでしまうことはあります。

イズミン 本当にスピードも、正確さも、質も量も要求されるお仕事ですね。手先が器用になるかもしれません。

 

がんが増えていることを実感する日々

イズミン このお仕事をされていて感じることはありますか?

カノウ 僕らが扱う組織や細胞は、ほとんどががんなんです。だからがんには詳しくなります。最近特に思うのは、「こんなにもがんって多いのか…」ということですね。

シノハラ 2人に1人はがんになる時代ですものね。

カノウ 僕自身も親をがんで失くしていますので、こういった診断がしっかりできるように、僕たちが正確に速く標本を作ることで、少しでも貢献できればと思っています。

イズミン がんをしっかり見つけて、早めに切除できるように、ということですね。

カノウ はい。病理検査では、採ってきた病変に対して、いろいろな工程を組んで作業していくのですが、途中でちょっとでもエラーが起きてしまうと、その検体がもう使い物にならなくなってしまうんです。なので、そうならないよう何重にもチェックするなどして、病理医が正確に診断できるように、良い標本をつくるというところですごく責任を感じます。

シノハラ 確かに標本が駄目になってしまったら、がんかどうかの診断がつきにくくりますし、それが治療方針にも影響するわけだから、やっぱり正確に速く確実に標本ができて、それを病院の先生が的確に判断されて、治療方針が決まるようにしたいですよね。

カノウ はい、失敗したからもう1回採らせてくださいというわけにはいきません。

イズミン 病理検査にはもう一つ大事なお仕事があるんですよね。

カノウ はい、「病理解剖」という、亡くなられた患者さんの死因をきちんと調べるために、ご遺族の同意を得て実施するものです。

イズミン 亡くなった方の解剖をするというのは、これもまた身が引き締まりますね。

カノウ 僕らは、病理の先生が解剖するときのサポート役として入るんですが、先生がしっかり病変部にフォーカスして、病因を示せるように、診断しやすいように心がけています。

シノハラ 病理解剖って極めて大事なものなんですよね。亡くなられた方の原因がはっきりしない場合に、どういう病院で亡くなられたのかをちゃんと調べて、はっきりさせて、次に繋げていくという重要な仕事だから、やりがいはあるでしょうけれど、とても大変ですよね。

カノウ とにかく、自分たちのやることが診断に直結するというプレッシャーと常に闘っていて、そういう責任感をもって仕事をしています。

 

病理診断の態勢が整った病院

イズミン 大同病院は、堀部先生というベテランの先生がおられて、小島先生という若手で初期研修のときからずっと大同病院の病理医に、と活躍する先生がおられますけれども、一緒に働いていてどうですか?

カノウ 小島先生は僕と年も近くて話しやすいので、何かあるとすぐに相談できますし、僕らの意見も尊重してくれます。堀部先生は、ものすごく知識抱負で、どんなこともお聞きしたらすぐ返してくださり、とても勉強になっています。

イズミン このクラス(400床程度)の病院で、病理医の常勤が2名いて、これだけしっかりやっているところは多くはないと聞きます。

シノハラ 僕、いろいろな病院で勤務しましたけど、ここの病院は本当に充実していると思います。診断も正確ですし、検査技師さんにとってもやりがいがあるんじゃないでしょうか。

カノウ はい、症例もたいへん豊富です。 

劇物を扱う資格もたくさん

イズミン 加納さんは実にいろいろな資格をお持ちなんですよね。

カノウ はい、細胞検査士とか認定病理検査技師といった病理検査ためのものもありますが、有機溶剤作業主任者とか毒物劇物取扱責任者とか、運用上必要な資格もほとんど持っています。

シノハラ 結局、病理検査では人体に影響を及ぼすような化学薬品を結構使っていて、それを取り扱うための資格が必要だということですか。

カノウ そうです。自分の身を守るためにも必要なんです。ホルマリンという臓器を保存するために漬ける液体がありますよね。あれも劇物なんです。

シノハラ あと生検組織など、患者さんの生身の臓器を扱うから感染対策もしっかりしないといけないですよね。

カノウ はい。基本的にマスク、エプロン、手袋、ゴーグルといったフル装備で臨んでいます。

イズミン 病変に直に接触するお仕事ですものね。なかなか危険なことも伴うと思いますが、そうした対策もしっかりとって、がん診療などを支えていただいているということで、これからも身の安全を確保しながら頑張ってください。今日はどうもありがとうございました。 


ゲスト紹介

加納 考城(かのう・こうき)
大同病院 病理検査科・臨床検査技師。
高校生のときに訪れた病院でみたカラフルな顕微鏡の野を「美しい」と感じた。そして臨床検査技師をめざし、大同病院入職16年目。最初に配属された健診センターでは臨床検査全般を学び、6年目からは希望のポジションに。趣味はスポーツ全般。バスケットやテニスをやっていたが、最近では子どもとプラモデルを作って遊んでいる。手先の器用さは、病理標本を作るようになって磨かれたようだ。


 

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