見出し画像

無影灯がカッと点灯し、「メス!」という医師の声に、看護師がパシッと応える。ドラマなどで見る手術室のイメージとは、そんな感じでしょうか。
大同病院には手術室が7つあり、毎日、多くの外科手術が行われています。高度急性期医療を推進する大同病院にとってはまさに心臓部。さまざまな診療科、さまざまな体の部位、さまざまな疾患、さまざまな術式…それらを管理し、安全にスムーズに進めるためには、手術室の看護師たちの活躍が欠かせません。手術看護認定看護師の神野歌純さんをゲストに、そんな手術室(オペ室)の裏側をちょっと覗いてみました。(2024年8月14日配信)

手術看護認定看護師のしごととは

イズミン 神野さんは「手術看護認定看護師」という資格をお持ちですが、手術看護って一体何ですか?

ジンノ 手術看護は大きく分けて「器械出し」と「外回り」の二つがあります。「器械出し」は、ドラマなどで医師が「メス」と言って、その手にメスを持たせるシーンがありますが、あんな感じのことをやる看護師です。その他にも、手術の進行に合わせて必要な道具を揃えたりします。術野をしっかり見てないと、手術が滞ってしまうので術者の動きをよく見て器械を渡す役割を担っています。「外回り」は、患者さんのケアが中心で、手術中の体位や状態を確認したり、手術の前後でサポートをしたりします。

イズミン どちらも重要な役割ですし、なかなか大変そうですね。

ジンノ オペ看護師として一人前になるには3年かかると言われています。器械の種類も非常に多く、一つずつ名前も違いますし、先生や診療科によっても、同じ器械を違う名前で呼んだりします。最初の3年は本当に器械との格闘ですね。
 新人時代の一番の目標は、人工関節の手術に入れるようになることでした。人工股関節置換術は整形外科のメジャーな手術なんですが、人工膝などの手術では無菌状態の確保が重要で、絶対的に清潔な器械の扱いができなければなりません。膝手術用の器械の種類と量も豊富なので、これができるようになると、「器械出し」修了という感じです。

シノハラ できるだけシステマティックに、標準化された手術ができないといけないんだけど、器械の種類も多いし、手順も複雑なので、スムーズに進めるためには看護師さんたちの力がとても大事ですね。

イズミン 神野さんはなぜ手術看護認定看護師を目指そうと思ったんですか。

ジンノ 手術室で看護を始めて3~4年くらい経って学会などに参加するようになったり、他の病院を見学をさせていただいたりして、いろいろ刺激を受けました。また、ボランティアでネパールの口唇口蓋裂の手術に参加する機会があったんです。私、英語もネパールの言葉も話せないんですが、手術の場って世界共通なんです。だから現地の看護師や医師たちと器械の渡し合いもできるし、手術がちゃんと進められるということに感動してしまいました。ネパールでは口唇口蓋裂の子どもたちがとても多いのですが、そういう子たちがちゃんと食べられるようになるお手伝いができる手術ってすごいなと思いました。
 学会では、手術看護のあるべき姿が見えてきて、手術看護って奥が深い、もっと勉強したいと思うようになり、認定看護師をめざしました。

患者さんの代弁者となる

イズミン その手術看護認定看護師になられて、看護の価値観や実践の仕方は変わりましたか?

ジンノ 全身麻酔手術が多いのですが、そういう患者さんは意識がない状態で手術を受けます。しかし意識なくなるからって、何をしてもいいわけじゃない。恥ずかしいことだってあるし、身体への負担も大きい。ですが、執刀する医師は、どうしても手術そのものに集中するので、意識のない患者さんの立場に立ってケアをする、患者さんの代弁者となることが、手術室看護師の役割の一つだという視点がより強くなりました。患者さんはよく「まな板の上の鯉になるから、どうにでもしてください」とおっしゃるんですが、それではいけない。

イズミン 手術も局所麻酔で小一時間ぐらいの短時間で終わるものから、全身麻酔で何時間もかかって、生命の危険があるようなものもさまざまだと思いますが、いずれにしても患者さんにとっては一大イベントです。

ジンノ そうですね。基本的に体に傷をつけるわけですし、体の中にあるものを切り取るということは、患者さんご本人にとっても、ご家族にとっても、人生においてとても大きな出来事になります。未知の経験でたくさんの不安を抱えると思うんです。

イズミン そんな中で看護師さんとしては、どんなケアをしていくんですか。

ジンノ 全身麻酔の場合であれば、前日に病室に患者さんを訪問して「明日担当させてもらう看護師の神野です」と挨拶をさせてもらい、「医師に聞き忘れちゃったことはないですか」と必ず聞くようにしています。そうすると結構いろいろなご質問やご相談ごとが出てきます。やっぱり医師には聞きづらいことがあるんですね。だから看護師としては、答えられないこともありますけど、不安なことなどをいろいろお聞きして、かみ砕いてご説明したりして、納得できるようにお手伝いします。

 またカルテを読むだけでは情報が足りないので、実際に患者さんを看て、個別性のある看護計画を立てることが重要だと思っています。例えば皮膚の状態やお気持ちの部分ですね。手術室への入室から手術が始まるまで患者さんのそばに寄り添って、不安でドキドキしているような方であれば、手を握って全身麻酔で眠るまでお声がけしたりもしています。麻酔がかかった後は、その後は呼吸のための挿管介助やおしっこの管を入れる、体温・血圧・心拍の管理などを行います。全身麻酔だと体温は34度ぐらいまで下がってしまうのですが、その状態のままだと、術後に麻酔から覚めるのが遅れたり、感染症のリスクが高まったりするので、看護師が深部体温という体の中心の温度もしっかり管理して、加温器を使って体を温めたりもしています。

シノハラ 確かに医師は、手術に集中しているので、看護師さんと麻酔科の先生に全身状態の管理をお任せしているわけだけど、そのあたりをしっかりやっていただいて有難いです。

イズミン 手術の時間が長くなると、ずっと同じ姿勢でいますので、褥瘡(床ずれ)のリスクも上がりますよね。

ジンノ そうですね。やはり手術中は体位変換もなかなかできないので、血の巡りを良くするために、手術部位に影響が出ないように手でマッサージして「除圧」することもあります。褥瘡だけでなく神経障害が起きないようにも気をつけています。
 手術の部位によって仰向け、うつ伏せ、横向きなど、いろいろな体位が取られるのですが、手術しやすい姿勢が患者さんにとっては負担になることもあり、無理な姿勢がずっと続けば、術後に痛みが出たり後遺症が残ったりする可能性もあるので、手術中は看護師がコントロールしています。

究極のチーム医療

イズミン だいたい一つのオペに何人ぐらいの人が関わるのですか?

ジンノ 例えば脊椎の手術であれば、執刀医、助手の医師が2名、あと麻酔科医が1名、看護師は器械出しが1名、外回りが1名。臨床工学技士(ME)は神経をモニタリン神経障害が残らないように管理しますし、あと放射線技師が手術中にも撮影し、骨の様子を確認しながら行います。だから8人くらいですね。

イズミン 見学させていただいたときに、手術って本当にチーム医療というか、皆さんで力を合わせてという感じがしました。

 手術室で一体何が起こっているか、大変興味深いお話でした。これからもね、高度急性期病院としてたくさんの外科手術を手がけていかれると思います。どうぞ頑張ってください。


ゲスト紹介

神野歌純(じんの・かすみ)
手術看護認定看護師。看護師歴15年、もともとは助産師を志望していたが、最初に配属されたオペ室の業務に、次第に魅力とやりがいを感じ、エキスパートとなり今に至る。趣味は小学校のときからやっている水泳。中学時代には大会で優勝したいという想いで競争率の低いバタフライを専攻し、攻略どおりトロフィーを手にする。仕事帰りなどにプールでひたすら泳いでいると(いまはクロール♪)、水の音に癒されてリフレッシュできる。