友達に教えたいリスクとお金の話(4-1)
第4章では「相場の方向性を予測して当てるのが投資」との思い込みが資産形成上はむしろ有害であることを学んでいきます。
第4章 予測でいいところどり?超能力者じゃあるまいし。
予測を当てるのが投資じゃないの?
「運用会社に長年勤めていました」「ファンドマネジャーやアナリストの経験があります」「日米の証券アナリスト資格を持っています」との自己紹介を聞いて、皆さんはどんなことを私に期待しますか?
広島の叔母は生前よく「キリンビールの株を買った。これから上がるかどうか教えて」「他のでもいい、どの株が上がるか教えて」と言っていました。私の返事は「わからん」でした。「あんた、運用会社に勤めとるんじゃろう!ケチケチせんと教えなさい」と叱られたものです。
一般の人が運用会社の専門職に求めるのは「予測に基づいて株や債券、通貨を売買し、人より儲ける」ではないでしょうか。全くの外れではないですが、9割くらいは外れです。
というのも、第3章で見たように「長期リターンのほとんどはリスクの量で決まる」からです。期待するリターンを得ようとするならば、この「リスク量」の計画であるべき「資産配分」は数か月単位で大きく変更すべきではありません。むしろ、一定のリスク量(資産配分)を維持することによって長期的なリターンの獲得が目指せるのです。
そのため、株式に投資する投資目的を持ったファンド(投資信託や投資一任契約)なら原則として株式やその派生商品(デリバティブ)のみに投資します。債券に投資するファンドであれば、原則として債券とその派生商品のみに投資します。
株式・債券・不動産投資信託といった異なる資産クラスに分散投資するファンドもありますが、多くの商品では基本となる資産配分をあらかじめ決め、一定の範囲内で投資割合を調整する、という商品設計になっています。
第3章の後半で紹介したGPIFの資産配分も、そうでしたね。
GPIFの場合は国内・外国債券、国内・外国株式への投資割合を原則25%ずつとし、時価などで変動する場合の許容幅を上記のように各々±7%、6%、8%、7%と定めています。
年金資金や投資信託などを運用する投資運用会社では、顧客と契約で取り決めた「投資目的」の範囲内で運用し続けることで「とるべきリスクの量」を一定にコントロールしています。複数の投資家からお金を集めて運用する投資信託の場合、「投資目的」は目論見書や約款で規定されています。
そのため「日本株式インデックスファンド」として販売された投資信託が、日本株がこれから下落しそうだからといって株式への投資比率を極端に下げる(例:ファンドの純資産額の10%にする)ということはしません。また「先進国国債に投資します」と顧客と契約した投資一任の資産でもって、「新興国債券が魅力的なので」と純資産の大部分を新興国の債券に振り向ける、などといったこともしません。
それはなぜでしょう?第3章でみたように、長期のリターンはとったリスクの量でおおむね決まるので、伝統的な6資産(国内株式、先進国株式、新興国株式、国内債券、先進国債券、新興国債券)の基本的な資産配分を維持することでリスクの量が維持され、長期のリターンの計画が立てられるからです。そうしないで頻繁に資産配分を変更していると、リスク量が変ることで長期のリターンの見通しが変っていきます。
単年度ではとったリスクに実績のリターンが見合わないケースがあるので「ほら!今年は株式に投資するより債券に全部投資した方がよかったじゃないか!」ということもありますが、そういう事態をあらかじめ正確に当てることはほぼ不可能といえます。
「え!じゃあ運用会社って何をしてるの!予測も当てないでただ何かの資産を買って持ってるだけなら素人でもできるじゃん!」という突っ込みを入れたくなりますか?(次項に続く)