「前」と「後」を詠んでみた
累々とこころの死骸積もりたるリストラのあと主なき椅子に
前にしか進めないのが歩兵だとわかる上司に会えたしあわせ
2022年3月20日のNHK短歌のお題は「前・後」でした。大森静香さんが選者の最終回、とても素敵な入選歌ばかりでした。
さて、私の投稿歌を紹介します。まず最初は仕事関係。
1首目はリーマンショックの後の大量リストラを詠みました。当時の職場では1日で4割弱の職員が去り、がらんとしたオフィスに秋風が吹き抜けるようでした。
2首目はいまの私。自分の能力を活かして働ける環境に感謝しています。
五十年わたしをやっているけれどわたしの後ろを見たことがない
人前で話すのが好き壇上で私ではない人格になる
鼓笛隊はそろって前に進むもの我の手足は反抗期かも
ヴァイオリンが前で主役を張っており低音だけを追う我が耳は
前へ前へフェデラーが出るネットへと唾を飲み込む音が聞こえる
次は個人的なことを詠みました。
4首目は大学時代の部活動でやっていたディベートについて。
5首目は小学生の時に参加した鼓笛隊の経験。
6首目は私が音楽を聴く時の癖について。
7首目はスポーツ観戦好きとしてテニスも詠んでみました。
今期は佐佐木頼綱さんが選者だったこともあり、スポーツの歌を詠むのがとても楽しかったです。
一瞬で満たされていく会う前の私は空のペットボトルだ
後朝はロマンティックでなく靄のかかった海にひとり漕ぎだす
君の声が届かなくなるまでずっと振り返らずに前を見ている
最後に、自分にはあまり縁のない「恋愛」っぽい感じの歌3首に挑戦してみました。具体的にこのような経験をしたわけではなく、あくまで想像です。とはいえ、9首目の「ロマンティックでなく」は記憶にあるかもしれません。現実はドン引き、さーっと覚めるってこともありますよね。そして8首めですが、私はむしろパートナーに会うと消耗して空っぽになる方でしたね。やれやれ。(終わり)