お金と投資の読書:ダメな本ほどよく売れる(ちょっとブレイク)
「正解」には興味がない個人投資家
「読んだらあかん、こんな本、あんな本」のその1からその3では、書店で売れ筋の「FXの教科書」と「株式投資の入門書」がいかにろくでもないかを説明しました。しかし私のブログを読んで「わかりにくい」「何言ってるの?」「こっちの方が嘘では?」と首を傾げる人もいるはずです。なぜなら怪しい本を読んで投資を実行している人はきっと自分流の投資を楽しんでいるでしょうから。
特に2020年初に株式投資を始めた人は、株式市場自体が年間50%も上昇したため多くがある程度の利益を上げており「自分には投資の実力がある」と思い込んでいる可能性があります。それが単なる運だとしても、個人投資家のほとんどは客観的な指標には注意を払わず、自分の投資している狭い範囲しか見ないため、真実には全く気づきません。
なぜ「ダメな本」ほど売れるのか
「FXの教科書」や「株式の入門書」が多くの読者を引き付けてやまないのは、それが読者の期待に応える、楽しいものだからです。読者は①知らなかった知識を身につけてステップアップしたい(素人には株式投資は無理、などの正論は聞きたくない) ②十分に理解したい(理解できないほど難しいことは聞きたくない) ③特別感を味わいたい(知識を身に着け自分はワンランク上と思いたい)④どうせなら面白いことをしたい(インデックス投信を買って持っているだけなんてつまらない)という、表向きの欲求と、それと背中合わせの深層心理(太字でかっこ内に示した部分)を持っています。
「FXの教科書」や「株の入門書」が大人気なのは、①あなたにもできると背中を押してもらえる ②素人がわかる程度、ついていける範囲の情報に絞られている ③PERやPBRなどの指標、チャートなどを知り、ワンランクアップした気持ちになる ④個別株投資やFXはかっこいいし、勉強して研究した成果が報われると気持ちいい、つまり面白い からでしょう。本によって「投資は面白いもの」のはず、という自分の思い込みが肯定され、本の内容が理解できると自己肯定感が得られます。こうして気持ちよくなった読者は「騙されている」とは思いません。むしろ、客観的かつ論理的な説明を受けると、自分が否定されているような気がして、反発を感じるかもしれません。
猛獣を飼いならす:投資は「面白い」ものではない
「投資によってひと財産作るというのは、暴れる猛獣を飼いならすほど難しいことです」と聞けば、あなたは「暴れる猛獣って、値下がりするリスクのことだよね?」と思うでしょうか。そうではありません。
「暴れる猛獣」というのは、実のところ、あなた自身の「心」です。「面白い」ことをして「いい気分になりたい」という心、暴落で不安になり全部売ってしまいたくなったり、逆に持っている銘柄が値上がりして超強気になり、当初決めた額より多くの額をつぎ込んでしまったりとぐらぐらする心。それこそが投資において飼いならすべき「猛獣」なのです。
「個別銘柄はわかりやすい、株価指数はわからない」という個人投資家の心には「個別銘柄投資の方が面白い」という自覚していない本音があります。ニュースやチャートを見て売買するのも、信用取引やFX証拠金取引といった借金によるギャンブルに走ってしまうのも「面白さ」の追求が要因と思われます。これには「投資」に対して一般人が抱いている間違ったイメージも影響しているでしょう。
投資を長期の資産形成に利用しようと思うなら、計画性が大事です。10年後、20年後に受け取りたい金額を念頭において「賭け」の要素を減らしながら株式や債券などのリスク資産を上手に取り入れていくしかありません。そのためにはギャンブル的な「面白さ」はあきらめることです。一番の強敵は、資産運用の目標から逸れていくあなた自身の「心」なのです。(この項終わり)