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投資とお金の読書:キケン!読んだらあかん、こんな本あんな本(その2)

「株の入門書」はあやしさ満載

前回(その1)で「株式や債券は投資の対象」と書きましたが、個人投資家が読んでいる「株式投資入門書」においては個別株の「タイミングを見た売買」を推奨する傾向があり、本当の「投資」の指南書とはなっていません。株式の経済的な見返りは配当金や株式数増加の可能性であり、長期投資を行ってこそ元がとれるものなのに、個人投資家向け入門書は雑多な知識を授けることで結果的に個別株の株価の方向性を「当てに行き」売買する「投機」を勧めているように見えます

本来的に優れた投資の対象である株式においても、数日から数か月の「短期」で「上がったら売る、下がったら買う」ということを頻繁に繰り返すと、「方向性を当てる」だけのギャンブルとなってしまいます。

例えばダイヤモンドZAI編集部が出しているこの本です。ZAIによれば50万部売れているそうで、日本には少なくとも50万人のにわか投資家がいるということでしょうか。

ダイヤモンド社自体はまともな出版社だと思いますが、ZAI編集部が目指しているのは一義的には本が売れることであり、売るためには読者が求めているものを与える必要があるのでしょう。何しろ日本人、特に中高年のおじ様たちは「経済や株のことを勉強して株を売買する」のが大好き。たとえそれが自分の資産形成には効率的な方法でなくとも、自分が株を売買しているという「感じ」を味わいたい人がかなりいるのだろうと思います。

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肝心なことはすべて省かれている:すごい単純化

ZAIによれば、初心者でもこの本に書かれている「基本」を学べば、よい株を選び、危ない株を避けることができるといいます。つまり素人さんに「ファンドマネジャーになろう」と言っているようなものです。

しかしその内容を見ると、ファンドマネジャーになるのに必要な投資理論の基礎は皆無。唯一最後の方におまけのように「分散投資が大事」とあるだけです。よほどのお金がある資産家でかつ時間に余裕のある人でなければ、個別株投資でちゃんとした分散投資を行うのは難しいですし「タイミングを見て売買」などしていたら分散投資など永遠にできないのですが、そこは掘り下げていません。入門書と言うより小学生レベル以下でしょう

そして何より大笑いしてしまうのは、投資のノウハウとしてはジュラ紀以前とも言われるチャート分析つまり「テクニカル分析」を黄金のルールであるかのように多くのページを割いて説明していることです。

この偏った内容を見ると、編集の意図が「平均的な読者を満足させること」であることが理解できます。そもそも、真面目に王道の投資理論など説明したら、読者はついてこられずに「わからない!」と不満を抱くでしょう。「わからない!」本が売れるわけもないですし、SNSなどで評判になることもありません。平均的な読者に買ってもらい、読んでもらうには、複雑な内容には触れず、読者が喜ぶもっともらしい内容に絞ればいいというわけです。

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ターゲット層は暇な中高年:「勉強」で自己満足

いびつに単純化されているとはいえ、ZAIの本にある「勉強」の内容は一般の読者から見れば多岐にわたります。まず「株式とは何か」の説明。これは私が「その1」で説明したことと同じで株式投資は「出資行為」であり、企業のオーナーになるということ。内容として問題はありません。

次に、企業の財務諸表の読み方を教える章があります。財務諸表の概念自体は、理解しておくにこしたことはありません。証券アナリストのカリキュラムにも財務分析はあります。また、私が「おすすめ本」としてとりあげた「アメリカの高校生が読んでいるお金の教科書」でも財務諸表の理解を重視しています。しかし「アメリカの~」での財務諸表は、自分の資産を管理するために必要とされるのに対して、ZAIの株入門では「よい株と悪い株を見分けるために財務諸表を読むことが必要」としています。上場企業の財務諸表はEDINETで発表直後に見ることができますが、決算短信が出た時点、あるいは決算前の適時開示で重要な情報は株価に瞬時に反映されます。プロのアナリストならともかく、素人が時間をかけて有価証券報告書を読み込んだところで今後の投資の目安にはなりません

その次は「株価を理解するための指標」としてPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)の説明があります。さらに「実績のPERでなく予想PERが重要!」といったような眼を引く章も。確かにこれらは重要な指標ではあるのですが、これもすべて瞬時に株価に反映される情報ですし「予想」は「予想が出た時点」で過去の情報になっているのです。

ZAIによれば「ニュースは毎日チェック!」しないといけないらしいですが、企業や経済に関するニュースも、発表された時点で瞬時に株価に反映されます。そのあとで売買する投資家もいますが、すでに適正株価となった後で買い上がる、売り下がる、という後手後手の行為にしかなりません。

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つまり、こういった「勉強」や「ニュースのチェック」は単なる無駄でしかないと言えます。それなのにこのような本が売れ、読者が「勉強」に満足感を覚えるのは、読者の大半が定年を控えた、あるいは定年後の暇な中高年だからではないでしょうか。特に、自尊心が高く、自分が意味のあることをしていると感じたい「意識が高い」人だと思われます。若いサラリーマンの場合もこの「自分はわかってる」感を味わいたい人は、買った株が少しでも値上がりすれば自分の能力だと思い、失敗は無視して売買を繰り返すので、長期の資産形成にはつながりません。

次回も「株の入門書」の矛盾を引き続き暴いていきます。(続く)

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