オンライン投資読書会 第2回レポート(後半)「アメリカの高校生が学んでいるお金の教科書」

読書会は朝8時から9時半までの1時間半。Aさん、Bさん、Dさんの3名がそれぞれの感想を述べたので、これまで見学(傍聴?)に徹してきた新顔のEさんに「どうですか?」と水を向けてみました。

バランスシートを作ってみるか?

Eさん「いままでお金のことをこんな風に具体的に考えたことはない。スルーしてきたことだけど、結果的にこの本のように行動してきたかな?とは思う。例えばもう引退が視野に入る年齢になってきたけど、借金もないし。」

要は、意識していなくても、無謀な借金もせず、大人として常識的な生き方をしてきたら、結局はこの本通りになっていた、ということなのかな。

Eさん「でも、今後引退したら定期的な収入がなくなるわけだから、この本にあるような、バランスシートを作ってみる、というのはありかもね」

40-50代の段階でこの本にある内容を意識していなかったとしても、今後意識していくことで、貯えをどう使っていくか、の計画には役立ちそうです。

繰り返し語られるBS

この本は、14章に分かれていますが、バランスシート(BS、貸借対照表)は前半の複数の章で出てきます。第1章(P33)では「私のバランスシート」と題し、Bさんが奇しくも言った「自分会社を運営していく」うえでのBSが、第3章(P74)「決算書の読み方」では個人のお金の管理における会計知識の重要性が語られています。P88「資金調達のやり方」では自分が起業する際の株式または借入による資金調達を説明していますが、これはBSの右側の話です。

自分という会社(会社ではないけど)のBS例を作ってみました。ポイントは、返さなくていいお金(純資産の部)をどれだけ残していくか、増やしていくか、にあります。そのために左側の「資産の部」があるわけですが、多くの日本人はリターンを生まない資産に大部分を配分する傾向にあります。

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投資有価証券を発行する側のBS

さらに進んで第8章「投資の基本」では、自分のBSの左側、つまり資産の部に乗ってくるべき金融資産のことを語っていますが、これまでの章でBSの概念を理解していれば、自分のBSの左側にある投資有価証券(株式・債券)は、その有価証券を発行する企業や国(国には株式はなく債券だけ)のBSでは、右側にあるものだということが理解できるはずです。

以下は単純化した例ですが、上場企業のBSはすべてインターネット上で公開されています。興味のある方はEDINETで「有価証券報告書」を検索してみてください。BSの共通点は「資産=負債+資本(純資産)」の関係が常に成り立つことです。

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もし、先生が授業で前から体系立てて教えてくれたとすれば、生徒は繰り返し出てくるBSの概念の間につながりを見出すことができるでしょう。その結果として、株式投資は「企業に資本金を出すこと」だから「長期投資が原則」「元本が返ってこないリスクが債券より大きい」ことなどを論理的に理解できるはずです。

広く浅く、だから教師に補ってもらいたい

このように教科書としての機能を十二分に備えた本書ですが、お金にまつわることを広く浅く全体的にカバーすることを趣旨としているため、やや単純化しすぎて誤解を招きかねない部分もあります。以下はその例ですが、こうした部分については、お金について学ぶ場で教師が口頭で補うなどの工夫が必要と思われます。

第8章「リスクとリターンの考え方」高リスクイコール高リターンとは限りません。投機的な金融商品(FX証拠金取引など)では、リスクだけ大きく、それに見合ったリターンは期待できません。この章では「投資に値するもの」と「そうでないもの」を区分できていないのが残念です。

「低リスクではじめられる投資信託」ETFも投資信託の一種です。分散投資されているという意味では個別株投資よりも低リスクですが、この小見出しは誤解を招くかもしれません。投資信託にもレバレッジ2倍、3倍などの高リスク商品がありますし、先進国国債ファンドなど、個人投資家にとっては持つ意味合いが低いものもあります。

「株価指数」インデックスとは「株価指数」とされていますが、債券インデックスもあります。債券については、インデックス投資は有意義でないことにも授業では触れる必要があります。

「デリバティブ(金融派生商品)」:「多くのデリバティブは、リスクが大幅に軽減されている」というのは明らかな間違いです。オプションについては、売りと買いでは全く違い、売りの場合は損失が無限大となります。なぜ素人がデリバティブに手を出すべきでないか、の説明が中途半端だと感じます。

本書は、日米の制度の違いを超えて基本的なお金の知識を普及するうえでは、大変優れた構成になっています。ただし、もとは教科書ですから、一人で読むのでなく、少なくとも章の数だけ回数を分けて、教師が補足しながら読み進めるのがベストだと思いました。個人的には、日本の法制や税制を踏まえて、このような教科書を書いてみたいという野心が芽生えました。

(この項終わり)

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