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クリスの物語Ⅱ #92 英雄

『ごめんなさい。すべてわたしがいけないの』
 アルメイオンが一歩進み出て謝った。

 アルメイオンの話によると、グレンにそそのかされて、アルメイオンはずっと選ばれし者をグレンに引き合わせる手引きをしてきたそうだ。
 ボラルクと同様、アルメイオンはグレンの思想に惹かれ、グレンを支持してきたということだった。

 ただ、いつからかグレンは闇の勢力に取り込まれていたというわけだ。
 知らなかったとはいえ、間接的にも闇の勢力の手助けをしていたことをアルメイオンは恥じていた。

『父が闇の勢力に引き込まれている可能性があるから用心した方がいいといわれ、それを信じて自分の父親まで疑っていたのだから救いようがないわよね』
 アルメイオンは肩を落として、再度謝った。

 それで、ぼくを引き合わせたところ、グレンはぼくが真の選ばれし者であることを悟ったようだ。
 そのため用済みとなったアルメイオンは、オケアノースの海底牢獄へ囚われてしまった。

『それで、たまたまその近くを通りがかったわたしたちが救い出したの』
 得意気にクレアがいった。

 クレアたちは、ぼくがラムレリアに行くことを知って、アダマスカルですぐにラムレリアに向かって来てくれたということだ。
『まあ、エランドラがアルメイオンと通じ合うことができたから気づいたんだけどね』
 自分の手柄ではないと、珍しくクレアが謙遜した。

 アルメイオンが恐縮するように頭を下げた。
『本当に皆さまのおかげです』
『こいつのせいで、色々迷惑をかけてすまなかったな』
 アルメイオンの頭に手を載せて、ガイオンも謝った。

 ぼくは首を振った。
 とにもかくにも、すべてうまくいったというわけか。
 安心して、ぼくは自然と笑顔になった。

 改めてみんなの顔を見回して、気づいたことがあった。
『そういえば、ローワンさんは?』
『ああ。あの人なら今オケアノースの海底牢獄にいて、海底都市評議会と地底都市中央部からの判決待ちだよ』
 うつむくマーティスを尻目に、クレアが答えた。

『どういうこと?』
『あの人はね、グレンと一緒に闇の勢力に加担していたんだよ。だからアクアはアトライオスにあるといって、こっちでクリスにルーベラピスを発動させようとしていたの』
 まるで最初から知っていたかのような口ぶりで、クレアが話した。

『それで、グレンはオケアノースの海底洞窟でスタンバイしていたのだけれど、クリスたちは海賊たちに襲われてしまった。そこで計画を変更して、アルメイオンをクリスのもとに向かわせたというわけ』
『あの海賊たちは、グレンさんに仕向けられたわけじゃないの?』
 クレアは首を振った。

『海賊たちに襲われたのは、まったくの想定外だったみたい。海賊たちは金で雇われていただけ。たぶん、その雇い主は闇の勢力の息がかかった、地表世界のどこかの機関みたいだけど・・・』
 クレアがちらっとガイオンを見ると、ガイオンはうなずいた。

『それじゃあ、ローワンさんはグレンさんから見放されたっていうこと?』
『そう。しかも、オケアノースの兵士たちにローワンを投獄するように指示したのは、他でもないグレンなんだよ』
 信じられないよね、というように険しい表情でクレアはいった。

『ローワンは、海賊を使ってアクアを狙う闇の勢力の一味だっていって。それで、アルメイオンにはクリスが海賊に襲われたから助けに行くようにって、グレンが指示したんだよね?』
 クレアの問いに、アルメイオンはうなずいた。

『クリスのピューラがアクアドラゴンとアースドラゴンの加護を受けていて、銃に撃たれても海底に落ちても死ななかったのはまったくの偶然だけど、それによってさらにクリスが真に選ばれし者であるという確信を、グレンは得たみたいだけどね』
 ぼくのピューラに視線を向けて、クレアは話した。
 クレアの話を聞きながら、みんながぼくを見つめていた。

『でも、いずれにしてもみんなが無事でよかったよ』
 みんなに見つめられて少し恥ずかしくなったぼくは、そういってアクアを撫でた。

『それと、これを』
 エランドラが、ルーベラピスのついた短剣を寄越した。

 そうだ。
 グレンが海底洞窟の地面に突き刺したまま、置きっぱなしにしてきてしまったのだった。

『取って来てくれたの?』
 エランドラは笑顔でうなずいた。
 ぼくは礼をいって受け取ってから、それを腰に差した。

『そしたら、これからセテオスに戻るんだよね?』
 顔を上げると、みんなが笑顔でうなずいた。

『その前に、こっちの民にも顔を見せてやってくれんか。英雄をひと目見たいとそこいら中から集まって、ずっと待ってるんだ』
 窓の外を指差し、ガイオンがいった。

 さっきからずっと騒がしいと思っていたのはそれだろうか?

 ガイオンが窓辺に歩み寄ると、天井まである大きな窓がすっと自動的に開いた。
 窓が開くと、人々の大合唱が聞こえた。

「クーリース!クーリース!」

 みんながぼくの名前を呼んでいる。
 聞いたこともないメロディのコーラスも聞こえる。
 響き渡る声からして、相当な数の人が集まっている様子だった。

 半円に広がったバルコニーに歩み出ると、ガイオンが振り返って手招きをした。
 ガイオンの姿を目にして、人々の声は更に大きくなった。

『いいじゃん。あいさつしてあげなよ』
 戸惑うぼくの腕を組んで、クレアが引っ張った。
 引っ張られながら沙奈ちゃんに救いを求めると、沙奈ちゃんは苦笑いして手を振った。

『ぼくも行く』
 ベベが飛んできて、ぼくの肩に乗った。

 バルコニーから下を見下ろすと、広場を大勢の人が埋め尽くしていた。それに、水路や空にも船が集まり、その上からもたくさんの人が大声で叫びながら手を振っている。あちこちから花火も上がった。

 クレアと一緒にアクアを掲げて、照れながらもぼくは小さく手を振り返した。

第二章 完

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 第二章もお読みくださり、ありがとうございます!
 次から、第三章に入ります。
 第三章はこれまでと少し趣《おもむき》が変わるかもしれません。タイトルも「悪魔の儀式」というものになります。
 この物語のキーとなる章になり、さらに冒険度合いも増していきますので是非お楽しみください♪
 引き続き、どうぞよろしくお願い致します。



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Daichi.M
お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!