クリスの物語Ⅱ #53 体力回復装置
『あ、でももしはぐれたりした場合はね』
クテイラに身を沈めていたクレアが身を乗り出した。
『オーラムルスの右下に表示されている人物マークがあるでしょう?その詳細を開くと、リンクされているわたしたちが表示されるんだけど』
いわれた通りに人物マークの詳細を開くと、ここにいる自分以外の4人のメンバーとベベ、それにマーティスの他にソレーテ、あとエルカテオスの建物が目の前に表示された。
『その中の連絡を取りたい人の詳細を開けば、その人とコンタクトが取れるようになるよ』
試しに、クレアにフォーカスして「ディタクタム」といってみた。
すると、目の前にクレアが3Dホログラムとなって現れた。
クレアにもぼくが表示されるようで、3Dホログラムのクレアが手を振ってきた。
実物のクレアを見ると、本人も手を振っている。
本人の仕草がそのままホログラムとなって現れるようだ。
『まあ、こんな感じでもしはぐれたりした場合には連絡を取り合えるからね』
『このエルカテオスのマークは?』
『んーと、たぶん中央部と連絡がつながるんじゃないかな?』
『ふーん』
中央部と直接連絡するようなことなんてあるのかな、と思いながらエルカテオスの詳細を開くのはやめておいた。
『そうしたら、クリス。マルゲリウムに入ってみる?』
「レスタロール」といって、オーラムルスの表示を何もない状態に戻すとクレアがいった。
『マルゲリウム?ああ。さっき下で見たやつだね』
下の階にあった酸素カプセルみたいな装置だ。
その中に入って体の疲れを癒やすのだと、メシオナでクレアが話していた。
「どうする?沙奈ちゃん」
「え、なに?」
会話の内容がわかっていないのか、沙奈ちゃんが聞き返した。
そういえば、クレアがマルゲリウムについて話をしたとき、たしか沙奈ちゃんはその場にいなかった。
それで、マルゲリウムについて簡単に説明した。
「ふーん。でも、今そんなに疲れてないかな」
説明を聞いてから、沙奈ちゃんはいった。
「まぁ、そうだよね」
『ぼく入ってみたい』
ぼくが相槌を打つのと同時に、ベベの声がした。
振り返ると、アダマスカル内を飛び回りながら探検していたベベがこっちへ向かって勢いよく飛んできた。
『犬も大丈夫なの?』
ベベを抱きとめてからクレアに聞いた。
『もちろん大丈夫だよ』
『それなら、せっかくだからぼくもやってみようかな』
そういって沙奈ちゃんを見ると、沙奈ちゃんも仕方ない、というようにうなずいた。
エランドラとラマルを残して、ぼくたちは下の階へ移動した。
マルゲリウムは全部でちょうど3台あった。
クレアに指示されるままに、ぼくたちはそれぞれマルゲリウムの中に入った。
横になってカバーが自動で閉じられると、真っ暗で何も見えなくなった。
頭がズーンと重くなり、体の力がどんどん抜けていった。
指一本動かせなくなるくらい力が抜け切ると、今度は少しずつ力がみなぎってくるのを感じた。
心臓の鼓動が高い音を立て、体中を血がめぐった。
燃やされているのではないかと感じるほど、体が熱くなった。
すると、周囲が明るくなった。
目を開けると、マルゲリウムのカバーが開いていた。