クリスの物語Ⅱ #74 アルメイオンの能力
『でも、何のために?』
『わからない。自分が疑われないように海賊を買収していたのかもしれない。
それで海賊に襲わせて、あなたがアクアを手に入れたら海賊を通じてローワンがそれを手に入れるようにしていたとか』
たしかに、そう考えられなくもない。
『それじゃあ、ローワンさんも闇の勢力に加担しているということですか?』
アルメイオンは首を振った。
『それはわからないわ。でも、そう疑ってかかった方がいいでしょうね。
情報が操作されてしまっている今、誰を信じていいのか何を信じるべきなのかについては、慎重になった方がいいわ』
じっとぼくの目を見て、アルメイオンはいった。
『とにかく、少しでも怪しい要素がある今、ローワンのことは疑っておいた方がいいでしょう。
それならあなたがアクアを手に入れるまで、あなたは死んでしまったことにしておいた方が都合がいいわ。あなたのお友達を危険にさらさないためにもね』
『でも、そんなこといわれても、ぼく一人でハワイ沖の海底都市まで行くことはできないよ。それに、沙奈ちゃんやベベが心配しているし』
沙奈ちゃんやベベには、せめてぼくが無事でいることだけでも伝えたかった。
『ラムレリアへは、私が案内するわ』
そういうと、アルメイオンはその場で人の姿にシェイプシフトした。
立ち上がったアルメイオンは、色白で背が高くすらりとしていた。
ぼくのそばへ近づいてくると、アルメイオンはひざまずいた。
それから、今度はぼくの手を取って自分の額に軽く押し当てた。
脳裏に、カンナンの波止場に立っているみんなの姿が浮かんできた。
エランドラの胸に顔を埋めて沙奈ちゃんが泣いている。
クレアもラマルに抱きついて泣いていた。
マーティスとローワンも、船に乗って駆け付けていた。
ベベは海の上を飛びながら、匂いを嗅いでぼくを探している。
『誰と話したい?』
アルメイオンの声が頭に響いた。
『話ができるのですか?』
『ええ。一人ひとりであればつなげられるわ。でも、本当に信じられる人だけにして』
それなら、やっぱり沙奈ちゃんだ。
『沙奈ちゃんと話したいです』
沙奈ちゃんに焦点を合わせて、ぼくはいった。
すると、沙奈ちゃんの姿が拡大された。
『では、話しかけて。でもあまり長くリンクさせ続けることはできないから、手短にね』
そう話すアルメイオンの声が少しずつ遠のいていった。