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クリスの物語Ⅳ #37 提案
ハーディの話を聞いて、ダニエーレは顔を引きつらせた。
ハーディはもちろんホロロムルスで得た情報を喋っているだけだろうけど、脅すには十分だ。
「どうするつもりだっていうんだ?」
ダニエーレは青ざめ、怯え切っている。
「何もするつもりはないさ。君たちが彼女から奪った物を返してくれればね。それと、さっき女性から盗んだ財布もね」
ハーディはそういってテーブルの上に乗った籠に指先を向けると、中に入っていたフォークを浮かび上がらせて先端をダニエーレに向けた。
ダニエーレは目を見開き、顔をのけ反らせた。
「わ、わかったよ」
ダニエーレが観念すると、ハーディは宙に浮き上がらせていたフォークをゆっくりと下降させてテーブルの上にそっと置いた。
「でも、盗品(ブツ)は全部ボスに渡してるんだ。だから、それをボスがまだ売っていなければなんとかなるかもしれないけど、もし売っ払ってたらたぶんどうにもできないよ」
そう話すダニエーレは、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「ボスは、今どこにいるんだい?」
「たぶん、アジトだよ」
ダニエーレがそういったのと同時に、ケータイの着信音が鳴った。
びくっと体を震わせると、ダニエーレは怯えた表情でポケットからケータイを取り出した。
「マルコだ」
着信表示を見て、ダニエーレがつぶやいた。
「さっき、一緒にいた奴だよ」
ダニエーレがそういうと、スピーカーにしてから出るようにハーディが指示した。ダニエーレはうなずいて、ケータイをテーブルに置いたまま電話に出た。
「もしもし」
「もしもし。俺だ。マルコだ。無事逃げ切れたか?」
ハーディがうんといえ、というように何度かうなずいてみせた。
ダニエーレは指示通り「うん」と、返事をした。
「今どこだ?」
「えっと、今は・・・」
「どこか、適当に答えて」と、ハーディが小声でいった。
「えっと・・・パンテオンのあたりだよ」
「そんなとこまで逃げたのか?」
「うん。なんか、けっこうしつこく追いかけられちゃって」
「そうか。ていうか、あんなガキ返り討ちにしてやりゃあよかったじゃねえか。
そんなことよりあの中国人みたいな女、全然金持ってなかったぜ。50ユーロしか入ってねえの。しけてるよな。財布がブランド物でまだ新しいからいくらかにはなるだろうけど」
「そうなんだ」
「まあ、いいや。とりあえずこれを今からボスのところに届けるからお前も来いよ」
ダニエーレがハーディを見た。
ハーディはまたうんと返事をするようにと、ジェスチャーで示した。
「よし。そうしたら、今から君たちのアジトへ向かおうか」
ダニエーレが電話を切ると、ハーディがいった。
「でも俺、ゲロったことがばれたら袋叩きにされちゃうよ。俺だけじゃなくて、妹にも手出しされるかもしれないし・・・」とダニエーレが不安げにいうと、ハーディは首を振った。
「心配いらないよ。もちろん君がばらした、なんてばれるような真似はしないさ。君はただアジトへ行ってマルコと落ち合うだけでいい。あとのことは全部僕らに任せてくれ」
ダニエーレは、うつむいたまま黙り込んだ。
「それと、これが終わったら君には仕事を世話しよう」
黙ったままでいるダニエーレに、ハーディがいった。
「そんな泥棒稼業からは、足を洗うべきだ。妹のためにもね」
それを聞いて、ダニエーレは目を輝かせた。
でもたちまちその光はしぼんでいって、諦めたように首を振った。
「ダメだよ。俺は学校もロクに行っていないし、何の取り柄もないんだ。俺にまともな仕事なんてできっこないよ。それに、今さら抜け出せないし」
「そんなことはないさ。これから仕事をしながら、必要なことは少しずつ学んでいけばいいじゃないか。人生はいくらだってやり直しできるんだ。望みさえすればね」
ハーディは、そういって身を乗り出した。
「君が望むなら、組織から抜ける手助けもしてあげるよ」
テーブルの上で手を組んでそう話すハーディは、まるで大企業の社長のようだった。
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