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クリスの物語Ⅱ #31 ラプーモとポルタール

 下には、大きなベッドがひとつ置かれていた。
 卵のような形をしたベッドは、白い綿(わた)のようなものが敷きつめられ、見るからにフカフカそうだ。

『ベッドも宙に浮いてるね』
 後から下りてきた沙奈ちゃんがいった。

 よく見ると、たしかにベッドも床から少し宙に浮いている。
 ベベをベッドの上に降ろしてから、ぼくもベッドの上に腰かけてみた。
 ふわりと沈み込むと、その後全身が包み込まれるような感覚があった。
 なんだか、雲の上にでも乗ったような気分だ。

『歩きにくい』と、ベベがベッドの上でもがいている。
 それを見ていて、ふと気づいたことがあった。

『そういえば、靴は脱がなくていいの?』
 ベッドから降ろしていた両足を水平に上げて、クレアに聞いた。
『靴?寝るときはもちろん脱ぐよ』
 なにそんな当たり前のこと聞いてるの?といわんばかりに、クレアがいった。

『部屋に入ったときは脱がないの?』
 ベッドの端に腰かけた沙奈ちゃんが、続けて聞いた。
『それは、好きずきじゃないの?』
 どうでもいい、という感じで面倒臭そうにクレアは答えた。

『わたしたちは基本的に地面に足を着けないから部屋でも靴を履いたままだけど、でも部屋に入って脱ぐ人もいるみたいだし。
 どっちでも好きにしたらいいんじゃない?』

 それからクレアは『貸して』といって、ぼくのテステクを掴むと、ベッドの向かいの壁に向かって「ムルスペリオ」といった。
 すると、向かいの壁が透き通って、その向こうにバスルームのような部屋が現れた。
 その隣には、壁に謎の器具が取り付けられた小部屋がある。

 バスルームの隣にあるものといえば考えつくのはトイレだけれど、壁に取り付けらたシルバーの器具はホルンのような形をしていて、便器とは似ても似つかない。

『これがラプーモとポルタールだよ』
 お風呂らしきものと、その隣の小部屋をテステクで指してクレアがいった。

『ラプーモ?あとポル・・・なんだっけ?』
『ラプーモとポルタール。地表世界でいうところの、お風呂とトイレみたいなものだよ。
 ラプーモは、フォンソワ・・・えっと、地球から湧き出るお湯のことなんだけど・・・』
 言葉が思い付かないのか、助け船を求めるようにクレアがちらっとこっちを見た。

『温泉のこと?』
 沙奈ちゃんが答えると、すっきりしたようにクレアはうなずいた。

『そうそう。オンセン。それを溜めて入浴するの。
 ポルタールは、排泄される便の掃き出し口のこと。
 地表世界って、たしか排泄物をおしりから出して水で流すんだよね?前に養生校で教わったことあるけど』
『こっちは違うの?』
 聞き返すと、クレアが『ちょっと来て』と頭で合図した。

 ベッドから降り、クレアについてポルタールの前に行くと、クレアがガラスの壁をテステクで触れた。
 すると、壁は自動ドアのようにスッと開いた。

 ポルタールはとても狭く、地上の個室トイレよりもひと回りほど小さい。

『クリス、中に入ってみて』
 指示された通り、ぼくはポルタールの中に入った。

『向こうを向いたままちょっと待ってて』

 ホルンのような器具を正面にぼくが気をつけの姿勢をすると、クレアが「ポルタディエーロ」といった。
 すると、正面の器具がゆっくりと音もなく下に下がってきた。
 ホルンでいうベルの部分がぼくの下腹部あたりまで下りてくると、下降が止まった。

『そのまま、じっとしててね』
 いわれた通り、ぼくは気をつけの姿勢のまま待機した。

 すると間もなくして、ホルンのベルの部分が青い光を発した。
 その光がぼくの下腹部を少しの間照射すると、光は消えてホルンはまた音もなく元の位置まで上昇した。

 ポルタールから出ると、クレアがにやにやしながらぼくを見た。

『どうしたの?』
 青い光で何かされたのかと思って、ぼくは自分のズボンを見た。
 でも、特に変わったところはなさそうだ。
 クレアは相変わらずにやついている。

『何も感じない?』
『何もって?』
『おなかの具合はどう?』
 そういわれれば・・・なんだかおなかがスッキリしたような気がする。
 少し我慢していたおしっこも、もうしたくなくなってる。

『え?何これ。どういうこと?』
 おなかに手を当ててぼくは聞いた。

『ポルタールはね、溜まった排泄物を粒子に分解して吸い込んで、異空間へ掃き出すゲートみたいなものだよ』
『ふーん』
 よくわからないけど、とにかく、うんちやおしっこを吸い取ってくれる便利な物だということだろう。

『でもこれって、体の上からその・・・排泄物を吸い込むことができるの?』
『うん。体の上からでも、服の上からでも分解できるよ』
『動物もできる?』
『もちろん』
 腕組みをして得意気にクレアはいった。

『それじゃあ、とりあえずベベもやっておこう』
 ぼくはベベをポルタールに入れて、ベベの排泄も済ませた。

 それからぼくたちは、ラプーモの使い方も教えてもらった。

 上へ戻る前に、ぼくはバッグから着替えを取り出してベッドの奥にあったクローゼットにしまった。

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Daichi.M
お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!