クリモノ4タイトル入

クリスの物語Ⅳ #51 師弟対決

「見ない内にずい分立派になりましたね、ハーディ」
 魔法使い風の男性が口を開いたと思ったら、笑顔でハーディに話しかけた。英語だった。

「あれから5年も経ちますからね。当然ですよ」
 ハーディがそう答えると、男性は意外そうな顔をした。
「おや?私を前にしても驚かないのですね?」
「ええ。もう僕もあの頃のような子供ではないですからね。ハウエル先生が去ってから、先生の教えに従って良いものかどうか僕も僕なりに考えたんです。
 正義のため、自分の信念を貫き通すためなら、犠牲はやむを得ないというその思想。そして、魔術を試すために、命ある動物を次々に実験台にするその所業。その行き着く先には一体どんな世界があるのか、それを考えればハウエル先生の進んだ道は自明の理です。
 ですから、いつかこうして相見えるときがくると思っていました」

「そうですか」といって、ハーディがハウエル先生と呼ぶその男性は、弟子の成長を喜ぶように嬉しそうにうなずいた。

「それなら、説明の必要はなさそうですね。あなた方をこの先へ通すわけにはいきません。今後邪魔立てをしないと約束するのであれば、見逃してあげてもいいのですが・・・」

 反応をうかがうように、ハウエルはハーディを見つめた。
 それに対しハーディは、目を逸らすことなく力強い眼差しでハウエルを見つめ返した。

 ハウエルはふっと笑った。
「いいでしょう。何も死に急ぐことはないと思うのですが・・・しかし、いずれは地球と共に滅びゆく運命(さだめ)。この大軍を前にしても一歩も引くところがないその勇気を称え、私が直接手を下してあげましょう」

 そういって杖を胸の前に掲げると、ハウエルの背後にぼわーっと守護神の姿が浮かび上がった。
 その姿は、沙奈ちゃんの守護神“ホルス”に見た目の雰囲気がそっくりだった。でも、頭部は鷲ではなく犬のような頭をしている。

「砂漠の神セト」
 ハーディがつぶやいた。

 沙奈ちゃん以外にも、エジプト神話に出てくる守護神を持つ人に会ったことがあると以前ハーディがいっていたけど、それがこの先生のことか。
 ハーディの背後にも、キュクロプスのラシードが現れた。

 ラシードは姿を現すや否や、大剣を振るってセトに斬りかかった。
 セトがそれを細長い槍で受け止めると、ガキーンとものすごい金属音が響き渡った。
 そして、まるでそれが戦いのゴングとなったかのように、黒マントの男たちが一斉に向かってきた。

「みんな飛ぶんだ」
 ぼくは、大声で叫んだ。
「ベベはエンダの上に」

 通常サイズに戻ったエンダの背に乗るように、ぼくはベベに指示した。
 エンダも吹火(ふきび)ができるようになっていたし、多少の攻撃魔法は使えるようになっていると桜井さんがいっていた。

 宙に浮きあがったぼくたちを、闇の勢力が放つレーザー光線が次々と襲った。ぼくたちはそれを防御魔法で跳ね返しては、攻撃魔法で応戦した。
 エランドラもラマルもドラゴンにシェイプシフトし、火を放ったり水砲を放ったりして、次々と闇の勢力たちを蹴散らした。

 砂嵐が起こる中ラシードとセトがぶつかり合い、ハーディとハウエルが魔法をかけ合ってそこら中で爆発や火災が起きていた。

 数は多いけど、黒マントの男たちの実力は大したことなかった。
 ピューネスはレーザー光線にも耐えられるので、よけられなかったレーザー光線が当たっても特別ダメージはない。
 男たちの中には魔法を使ってくる者もいたけど、生命力がないのか弱小な攻撃でしかなく、はっきりいってぼくたちの敵ではなかった。

 ぼくが水矢で敵の視界を奪って戦意喪失させれば、水浸しになった敵に沙奈ちゃんが電撃魔法を浴びせかけ、それを一掃するように桜井さんが風魔法で薙ぎ払った。
 ベベもエンダもいいコンビだった。
 ベベが俊敏な動きで敵をかく乱すると、その隙をついてエンダが火を吹いたり尻尾で攻撃したりした。
 マーティスの動きもなかなかのものだった。敵の攻撃をよけては、状況に応じた魔法を放って、一人ひとり確実に仕留めていた。

 クレアはハーディが苦戦していると見るや、隙を見ては援護射撃をしてハウエルの気をそいでいた。しかし、ハウエルの強さは相当なものだった。
 二人掛かりの攻撃を物ともせずに、ハーディやクレアを少しずつ追い詰めている。ハウエルの攻撃は、ピューネスでも防ぎきれないようだ。

 ハーディは防御魔法に集中するのみで、防戦一方だった。
 砂嵐の攻撃で視界を奪われたラシードも、苦戦をしている。セトよりも大きな図体をしていながら、セトの素早い動きに翻弄され、体中傷だらけになっている。
 圧倒的な力の差だ。ラシードの動きは、見るからに鈍くなっている。ハーディは、ハウエルとの戦いで手いっぱいだ。ラシードを助けに入るような余裕はない。

 このままではやられてしまう。
 黒マントの男たちを相手にしながら、何か手はないかとぼくは考えた。
 しかし、隙を狙って攻撃魔法を仕掛けようものなら、砂嵐を巻き起こしながら俊敏な動きをする巨大なセトに逆に返り討ちにあってしまいそうな恐怖があり、ただ見守ることしかできなかった。



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Daichi.M
お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!