クリスの物語(改)Ⅱ 第十一話 情報統制局
ジェカルに乗って、一同はエルカテオスへと続く橋を渡った。
エルカテオスへ到着すると、ジェカルは減速することなく、地下へと続くトンネルの中を走った。ネイゲルを先頭に、4台のジェカルが一列になってトンネルの中を突き進んだ。
そしてトンネルを抜けた先には、開けた空間が広がっていた。
「なんか、すごいところだね」
あたりを見回して紗奈が言った。
そこはジェカルのターミナルとでもいったところなのか、だだっ広い空間には立体的な迷路のように敷かれたクリスタルのレーンがあり、その上を沢山のジェカルが運航していた。人を乗せているものもあるが、ほとんどは無人だった。
このターミナルへ繋がる道は多数あり、あちらこちらにあるトンネルからジェカルが乗り付けてきていた。さらに、終点となるようなゲートも数多く存在し、それぞれのクリスタルのレーンがそれぞれのゲートへ道をつなげている。
クリスたちを乗せたジェカルは上下左右と様々に針路を変え、やがてひとつのゲートに近づいていった。ゲートが近づくにつれて、まるでジェットコースターが終点に到着するようにジェカルのスピードが緩められた。
『エルカテオスへ、ようこそ』
終点に到着してジェカルを降りると、受付カウンターに座った紫色の髪の女性がクリスたちに向かってお辞儀をした。
カウンターでは、クレアがすでにクリスタルの板“クルスター”に向かって手をかざしていた。クリスが前世で図書館に来たときにもやったことのある、入館チェックだ。
『大変お手数ですが、念のため皆様にお願いしております』
クレアの次にラマルがクルスターに手をかざしているとネイゲルが申し訳なさそうに言って、うしろに並ぶように指示した。
指示された通りラマルのうしろに並ぶと、紗奈がクリスの袖を引っ張った。
「何をするの?」
「入館チェックだよ。いつ誰が入ってきたのかをああやってチェックしているんだ」
『次の方、どうぞ』
紗奈に説明していると、早速ふたりの番がきた。クリスは「ちょっと見ていて」と言って、先に受付に向かった。
『こんにちは』と、受付の女性が微笑んだ。
『それでは、手の平をこちらのクルスターにかざしていただけますか?』
クリスは指示された通り、クルスターに手をかざした。すると、女性が素早くクルスターの裏側を操作した。
『はい、けっこうです。あ、あなたもお願いします』
クリスの頭の横を飛びながら、一緒に入ろうとしたベベを受付の女性が呼び止めた。
『ぼくも?』
『はい。お願いします』
クルスターを手で示すと、女性は笑顔で頭を下げた。
ベベは一度クリスの方を振り返ってから、フワフワと戻ってカウンターに座り込んだ。それから“お手”をするように前足をクルスターにかざした。
そうしてベベも紗奈も入館チェックを済ませると、一行はネイゲルに従ってゲートの先の通路を進んだ。ピューラのおかげで、クリスも紗奈も歩く必要がなかった。他の皆と同じようにジョギングするくらいの速さでスーッと滑るように前進した。
ネイゲルに案内された先には、円形の白い大きな柱があった。それを見て、クリスは“ディマインダー”だと思った。
前世で地底図書館に来た時に見た覚えがあった。建物や階を行き来する乗り物だ。
ディマインダーの前に立つと、大きな入り口が現れた。中は、20人くらいは優に乗れそうな広さがあった。
全員が乗り込むと、入り口は自動で閉じられた。それから、ドーム型になった天井が青く光って中を明るく照らした。そしてその次の瞬間には、反対側の扉が開いた。
そこからまた通路を進んで 通路の突き当りにある別のディマインダーに乗り込んだ。そうしていくつものディマインダーを乗り換えると、壁一面がガラス張りの広い部屋に出た。
テーブルやイス、ソファが並べられたオフィスのような雰囲気の空間だった。正面のデスクには、男が一人座っていた。
ネイゲルを先頭に一行が部屋に入ると、男は立ち上がって笑顔で近寄ってきた。クリスはその顔にも見覚えがあった。ソレーテだった。
『こんにちは。はるばるようこそおいでくださいました』
クリスたちに向かって、ソレーテは深々とお辞儀した。
『ちゃんと、連れてきたよ』
腕を組み、得意気な顔でクレアがいった。
『ごくろうさまでした』
笑顔でソレーテはうなずき返した。
『クリスさん、紗奈さん。こちらがセテオス中央部情報統制局司令官のソレーテです』
ネイゲルがそう言ってソレーテを紹介した。
『はじめまして。この度は、ご無理をいって申し訳ありませんでした』
ソレーテはまた深々と頭を下げた。
『私が直々にクリスさんのもとへお伺いするべきでしたが、セテオスを離れるわけにもいかなかったものですから・・・。困っていたところ、クレアさんが代わりに行ってくださるということでしたので、今回お願いした次第です』
そう言って、ソレーテはまたクレアに視線を向けた。しかし、クレアは腕を組んだままそっぽを向いていた。
『紗奈さんも、ベベさんもよく来てくださいました』
視線を戻すと、ソレーテは微笑んだ。
『勝手についてきてすみません』と頭を下げた紗奈に、『とんでもない』と言ってソレーテは手を振った。そして再び笑顔を見せると『大歓迎ですよ』と言って、うなずいた。
『それでは、私はこちらで失礼致します』
ソレーテと目で合図を交わすと、クリスたちに向かってネイゲルが頭を下げた。
それから『お話を終えられましたら、またお迎えに上がります』と言って、ディマインダーに乗って去っていった。