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クリスの物語(改)Ⅱ 第一話 卒業式
あらすじ
小学校の卒業式を迎えた主人公クリスのもとへ、地底世界で出会ったドラゴンのエランドラや地底人のクレアたちがやってくる。その目的は、闇の勢力から地球を救い出すため。現在、地球は次元上昇の時期を迎えていて、光の惑星へと目覚めつつある。ところが、闇の勢力が何としてもそれを阻止しようと躍起になっているという。アセンションを成功させるには、伝説のドラゴン【超竜】のパワーを秘めるドラゴンの石を入手する必要がある。そしてクリスは、そのクリスタルエレメントを手に入れる資格のある『選ばれし者』だということだ。クリスは、仲間たちと共に海底都市へと誘われ、クリスタルエレメントを探し求める冒険へと旅立つ。
本編 第一話
校庭の桜は、今にもそのふっくらとした蕾をほころばせようと枝を大きく伸ばしている。
今日のこの暖かさが、きっとさらに開花を促進することだろう。
どこかに花を咲かせた蕾がないか見上げていると、後ろから肩を叩かれた。
振り返った紗奈の前には、ユウカが母親を連れて立っていた。その後ろには、はしゃいだ様子のミナとカオリがいる。
紗奈は、ユウカの母親に指示されるまま卒業証書を掲げて記念撮影に応じた。
すると次々とクラスメイトがやってきて、写真をせがまれた。
紗奈はまるで有名人にでもなった気分で、その一つひとつにポーズを決めた。
そうこうしているうちに、玄関の方がまた騒がしくなってきた。
ようやく、2組も最後のホームルームが終わったようだ。
2組の担任の佐藤先生は6年生を受け持つのが初めてだと言っていたから、別れの挨拶がつい長引いてしまったのだろう。
涙を流して別れを惜しむ若い女性担任の姿を、紗奈は容易に想像することができた。
写真撮影に応じながら、玄関から出てくる生徒たちの中に色白で小柄な少年の姿を探した。
「クリス、春休みどこか出かけたりするのか?」
教室を出ると、タケシに声をかけられた。
「ううん、特に予定はないよ。強いて言えば、毎日ベベの散歩に行くくらいかな」
「なんだよ、それ」と言って、タケシが笑った。
「それじゃあ、ヨウヘイとかヒロトたちとチャリでまたどこか探検しに行こうぜ」
「うん、いいよ」
「おう、じゃあいつにするか決まったら連絡するよ。それじゃあまたな」
「うん、じゃあね」
玄関を出たところで、クリスはタケシに手を振り返した。
すっかり仲良しになっている。
クリスとタケシの姿を遠目に見ながら、紗奈は心の中で微笑んだ。
ベベが亡くなった次の月曜日だった。
朝、登校するときのクリスの様子がいつもと違っていた。
それまでの陰鬱な雰囲気はなくなり、紗奈と昔よく遊んでいた頃のように明るくなっていたのだ。
そしてその日のお昼休みには、いじめっ子だったタケシやヨウヘイたちと一緒にキックベースをしていた。
紗奈には不思議でならなかった。
まるでクリスがいじめられていたのは別次元の出来事だったのではないかと、キツネにつままれたような気分になった。
その理由を問い質しても、「別に何もない」とクリスは答えるだけだった。
クリスがいじめられていたなんて嘘だったかのように、周りのみんなもクリスと接するようになっていた。
どちらにしても、クリスが以前のように元気を取り戻して明るくなったのは喜ばしいことだと、紗奈はその変化を受け入れることにしたのだった。
桜の木の下で待つ紗奈に気がつき、クリスが笑顔で駆け寄ってきた。それから、二人は小学校に最後の別れを告げた。
「とうとう卒業しちゃったね」
帰り道、ふたり肩を並べて歩いていると紗奈が独り言のようにつぶやいた。
「はぁ。なんか中学行くのやだなぁ」
「そう?なんで?」
意外だったのか、クリスは不思議そうに紗奈の顔を見た。
「え?」
意外だと思われたことが、逆に紗奈には意外だった。
「だって、中学に入ったら髪も黒く染めなきゃいけないし、爪も短く切らなきゃいけないでしょう?色々と校則が厳しくなるじゃない」
長くきれいに整えられた爪を眺めながら、紗奈は言った。
「それに他の学校からも上がってくる子たちがいるし、部活にも入らなきゃいけないし」
確かに他の小学校からも知らない生徒たちがやってくるというのは、クリスも少し不安だった。
また名前や外見のことで何か言われたりするのではないかと考えると、胃が搾り上げられるような気分になる。
でも、人それぞれその境遇に身を置く原因が必ずあるのだ。
そしてそれを受け入れ、相手の背景も理解してあげられさえすれば一夜にして状況が変わるということを、クリスは身をもって知っていた。
だから不安はあるが、もう怖くはなかった。
しかし衝突を避けるために、紗奈の意見には同意しておいた。「たしかに色々面倒くさいかも」と。
すると紗奈は大きくため息を吐き、「つまんないなぁ」と呟いた。
「え?なにが?」とクリスに再び尋ねられると、紗奈は「うーん」とうなった。
「なんて言うのかな。なんかこのまま小学校生活が終わっちゃうことが。ていうかこのまま大人になっていくことが、かな?」
紗奈は自分でもその感情がよく分からず、今感じている気持ちをうまく表してくれる言葉を探した。
「もちろん、早く大人になってこんな田舎から抜け出したいし、都会へ行って色んなことしてみたいとは思うけど。でもなんか、子供のうちにしかできないようなことをもっといっぱいしておきたかったかなって気がする」
なんとなく感じている思いを口にすると、クリスが「たとえば?」と聞き返した。
しかし、それに対して紗奈は何も答えなかった。クリスも特にそれ以上は追及しなかった。
黙りこんだ紗奈にしつこく聞いても、機嫌を損ねるだけだということをクリスも分かっていた。
それからふたり黙って歩いていると、紗奈が何かを思いついたように突然立ち止まった。
「春休み、どこか遠くへ行ってみない?」
「え?」
予想だにしていないことを言われて、クリスは思わず聞き返した。
「遠くってどこへ?」
「分かんない」と、紗奈は首を振った。
「今ふと思いついただけだから」
そう言って、紗奈は何かを考えるように下唇を噛んだ。
「なんて言うか、中学に入る前の小学生最後の記念っていうか、せっかくの春休みだし普段やらないようなことをしてみたいなって思ったの」
紗奈の言葉にクリスは首を傾げた。
「じゃあ、ぼくたち二人だけで行くっていうこと?」
「うん、もちろん」愚問だと言わんばかりに、紗奈は大きくうなずいた。
「問題ある?」
「いや、問題があるわけじゃないけど」と、クリスは首を振った。
「でも、ぼくたち今日で卒業したとはいっても身分はまだ小学生だし、子供二人だけではそんなに遠くまで行けないと思うけど・・・」
「だからおもしろいんじゃない」
「そうかもしれないけど。でも二人だけで遠くへ行くなんて、いくら相手が紗奈ちゃんだとは言ってもうちの親が許さないと思う。紗奈ちゃん家だっておかあさん、心配するんじゃない?」
「親には内緒にしたらいいじゃない。卒業記念に誰か友達の家で、みんなでお泊まり会するとかっていえば大丈夫じゃない?
うちは親があさってから二人で旅行に行っちゃうし、お姉ちゃんもそのとき友達を家に呼びたいだろうから、わたしがいない方が好都合だろうし」
「え、ちょっと待って。泊まりで行くつもりなの?」
聞き捨てならなかった。聞き間違いではないかと思って確認すると、「もちろん、そのつもりだけど・・・?」と、まるで何か不思議なものでも見るように紗奈はクリスの顔を見つめ返した。
「だって日帰りだったら別にいつでも行けるじゃない。それにそんなに遠くまで行けないし」
「それはさすがに無理だと思うよ」と、クリスは首を振った。
「お金だっていくらかかるか分からないし。それに誰かの家に泊まりに行くなんて言ったら、うちの親は絶対にあいさつしに行こうとするだろうし。それに、ぼくたち子供を泊めてくれるようなところなんてあるわけないよ」
冷静に答えるクリスを少しの間見つめてから、紗奈は残念そうにうつむいた。
「ふーん、そっか・・・」
「うん、そうだよ」
紗奈ちゃんは頭の回転も速いし観察力もずばぬけているのに、たまに突拍子もないことを言うことがある。うつむく紗奈を見てクリスがそんな風に考えていると、紗奈が突如顔を上げた。
「じゃあ、日帰りでもいいからどこか行けるところまで行ってみない?」
クリスは思わずうなずき返した。
そんな風に紗奈が何かをしたいというのは珍しかったし、その望みを断る理由も特になかった。
タケシたちと自転車でどこかへ出かけるかもしれないという先ほど交わした約束以外、特に予定があるわけでもなかった。
「でも、どこに行こうか?行くとしたら電車がいいよね?」
クリスが提案すると、紗奈は嬉しそうに声を弾ませた。
「うん、そうね。バスだとそんなに遠くまで行けそうにないし、自転車もわたしたちが行ける範囲なんてたかが知れてるしね」
それから二人は、どこへ行くかについて相談しながら家路についた。
「それじゃあ、ぼくも考えておくから、紗奈ちゃんもどこか行きたいところが決まったら電話してよ。いつにするのかも」
結局目的地も何も決まらないまま、紗奈の家に着いてしまった。
手を振って帰ろうとするクリスを、紗奈が呼び止めた。
「ちょっと家に寄っていかない?うちの親は卒業式の後買い物に出かけるって言ってたから、少し遅くなるだろうし。ネットで一緒に行き先を決めようよ」
クリスは立ち止まって思案するように一度視線を落とすと、うなずいた。
「うん、そうだね。そしたらぼく一回家に帰って、ベベを散歩に連れて行ってからまた来るよ」
クリスがそう返事をすると、紗奈は顔の前で手を叩いた。
「それなら、わたしがクリスの家に遊びに行ってもいい?ベベにも会いたいし。また大きくなったのでしょう?」
「うん。毛もすっかり生え変わったよ」
クリスは笑顔でうなずき返した。
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