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クリスの物語Ⅳ #29 布石
『思ったんだけど、田川先生が入っていったその教会が闇の勢力のアジトのひとつだとは考えられない?それで、田川先生はたまたまあの場でわたしたちを見かけたから、仲間がいるそのアジトへひとまずおびき寄せようとしたとか?』
洋梨のジュースが入ったグラスを片手に、沙奈ちゃんがいった。
部屋に戻ってからぼくたちはマーティスを呼び、さっき街であったことを話し合っていた。
『恐らくそれはないと思いますが、でも念のため調べてみる必要はありそうですね』
リビングの椅子に腰かけ、腕を組んでマーティスがいった。
マーティスは、今日もスーツを着込んでいる。
『皆さんの話を聞く限り、その女性は闇の勢力かもしくは銀河連邦などの組織に属する人間ということになるでしょう。情報を読み取られないようにプロテクトしているとなると、それ相応の組織に属しているとみて間違いありません。そして、現在の状況を考えると、闇の勢力の人間である可能性が極めて高いといえます。タガワという者かどうかは別として』
マーティスは、ベベに向かって小さくうなずいた。いいたいことはわかりますが、という目をしている。
『しかし、その女性が皆さんの存在に気づいていたと考えるのは早計でしょう。教会でクリスさんに注意をした男性が、闇の勢力の人間だと考えるのも同様に』
ぼくたちを安心させるように、落ち着き払った態度でマーティスはいった。
『そうですよね。もしばれてたら、せっかく変装した意味がなくなっちゃうもの』
さらりとした金色の髪を指先でつまみながら、沙奈ちゃんがホッとしたようにいった。
そんな沙奈ちゃんを一瞥してから、マーティスは続けた。
『ですが、闇の勢力に我々の存在が悟られてしまっている可能性がないともいい切れません。もしそうであれば、向こうも何かしらの手立てを講じるでしょう。その前にこちらも手を打つ必要があります』
身を乗り出して、マーティスはぼくたちの顔を見回した。
『早速、乗り込むのかい?』
ソファに座ったハーディも身を乗り出すと、マーティスは首を振って姿勢を戻した。
『いや。まだそうするというわけではありません。一度銀河連邦へ報告して、指示を仰ぎます。しかしそうなってもいいように、皆さんには準備をしておいていただきたいと思います』
そういって立ち上がると『後ほどまた報告に参ります』といって、マーティスは部屋を後にした。
残されたぼくたちは、ハーディがルームサービスで頼んだおやつのジェラートを黙々と食べた。
さっきまでうきうきしながら街で買い物していたのに、これから闇の勢力の本拠地に乗り込むことになるかもしれないと思うと、気が重かった。
もちろん遊びに来たわけじゃないし、覚悟はしてきたつもりだ。でもいざとなると、緊張感が高まって気後れしてしまう。
「クリス、ピューネスの飛び方教えてくれる?」
ジェラートを食べ終えると、思い立ったように沙奈ちゃんがいった。
そうだった。ピューネスで空を飛ぶ方法を教える約束をしていたのだった。
ぼくは了承し、それぞれ寝室へ行ってピューネスに着替えた。
今日買ってもらった服は、ひとまずクローゼットにしまった。
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