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クリスの物語Ⅳ #63 真相
少し観光して回った後、転移装置に乗ってぼくたちが案内されたのは、マザーシップの空に浮かぶカフェテリアだった。
転移装置から降り立つと、十数人の人たちに拍手で迎えられた。
太陽系地球担当チームの人たちだった。太陽系地球担当チームとはいっても、同時にいくつもの惑星を見ているので専属チームというわけではないらしい。
そもそも、地球のあるこの天の川銀河だけでも何百億とある惑星を銀河連邦は監視しているわけだから、専属の担当がいないのは当然だ。
ここにいる全員が、地球と同レベルの他の惑星をいくつも常時観察しているということだった。どこで誰が生まれて誰が何を食べたかなど、そんな細かな情報に至るまで、すべてを瞬時に把握しているそうだ。
今のぼくたちの脳では到底処理しきれない情報だし、その仕組みを説明しようにも、ぼくたちの脳では想像すらできない事柄だということだった。そもそもそんな難しそうなことは、ぼく自身知りたいとも思わない。
アラミスが集まったメンバーを一人ひとり紹介した。チームのリーダーは、ハスールという男性だった。
背はさほど高くなく、銀色の髪に青い瞳をしていて、顔には皺ひとつない。見た目は若そうだけれど、とても落ち着いていて貫禄がある。
ハスールは優しい笑顔でぼくたちに挨拶すると、『この度は、誠にありがとうございました』とお礼の言葉を述べた。
『皆さんのおかげで、この銀河系内の惑星から新たにまたひとつ、闇を光に変えることができました。我々地球担当チームだけでなく、銀河連邦全員がこの喜ばしい出来事を心より祝福しております』
ハスールは深々と頭を下げると、『是非この滞在を楽しんでいってください』といって、目の前のテーブルに魔法のように食事を用意してくれた。
カフェテリアは広々としていてテーブル席がいくつも設けられているけど、客はぼくたちだけだった。今は貸し切りになっているのかもしれない。
窓からは、マザーシップ内を一望に見渡すことができた。広大な土地がどこまでも続いていて、ここが宇宙船の中だということをつい忘れてしまう。
カフェテリアは少しずつ移動しているのか、外の景色が徐々に移り変わっていった。
食事をしながら、『ところで』と沙奈ちゃんがハスールに話しかけた。
『なんでしょう?』
ハスールは、にっこりと沙奈ちゃんに微笑みかけた。
『あの、田川先生・・・アルタシアって、本当はセテオス中央部の人だったのですか?ザルナバンに潜入捜査していたっていうのは、本当ですか?』
沙奈ちゃんの質問に、ハスールは微笑みを浮かべたままうなずいた。
『はい、そうです。彼女は命を懸けて任務を全うしてくれました。彼女のおかげで地球のアセンションが早まったといっても、過言ではないでしょう』
『そうなんですか・・・。でも、わたしたちには正体を明かしてくれてもよかったんじゃないですか?だって、マーティスさんでさえ知らなかったのでしょう?』
不満気に口を尖らせ、沙奈ちゃんはマーティスに視線を向けた。
『彼女は徹底していましたからね。誰にも絶対にばれることのないよう、ヒールとして立ち回ることに。そのおかげで、ソレーテが黒幕であったことも判明しましたしね』
ハスールが答えると、沙奈ちゃんはうつむいた。
『でも・・・わたしずっと田川先生のこと敵だと思ってたし、憎いとさえ思ってました』
うつむいたまま話す沙奈ちゃんの目からは、ポタポタと涙がこぼれ落ちた。
『それは、仕方のないことですよ』
優しい口調で、ハスールはいった。
『アルタシアがそう思われるように仕向けたのですから、当然です。直感の鋭いあなたのことをそこまで騙せていたと知ったら、彼女もさぞ喜ぶことでしょう』
沙奈ちゃんは肩を震わせた。
『ホルスも・・・本当は先生の守護神だったんですよね?先生がいなくなってから、ホルスも一切出てきてくれなくなりました』
ハスールは、何も答えなかった。黙ったまま仏のような笑みを顔に浮かべて、優しく沙奈ちゃんを見つめている。
でも、否定しないということはやっぱりそうだったのだろう。先生が最後にホルスを操っていて、ひょっとしたらとぼくも思っていた。
ハウエルの守護神がセトであることを先生は知っていて、ぼくたちがハウエルと戦うことになることを先生は初めからわかっていたから、ホルスに沙奈ちゃんを守護させたということだろうか。
セトを倒せる最強の守護神がたまたま沙奈ちゃんの守護神になるなんて、なんだか少しできすぎているような気がしていた。
でも、田川先生の守護神だったということであれば納得がいく。先生はあれほど強い人だったから、最強の守護神がついていてもおかしくない。
『ひとつ気になったんですが、田川先生はなぜホルスに自分の命も復活させようとしなかったのですか?』
うなだれる沙奈ちゃんの隣で、桜井さんが質問した。
『それは』といって、ハスールは桜井さんに向き直った。
『アンクは一度きりしか使えないのです。アンクとは、ホルスの持つ蘇りの道具のことですが・・・あなたを復活させることによって、アンクは消滅してしまいました』
『そんな・・・』
桜井さんはショックを受けたように、口元を押さえた。
『でも、なんでアルタシアはイビージャを殺す必要があったの?そもそもイビージャを殺さなければ、アンクを無駄に使う必要もなかったんじゃないの?』
今度はクレアが質問した。
クレアの意見はもっともだ。たしかにイビージャが攻撃をやめないからといって、何も殺す必要はなかったんじゃないだろうか?
ハスールは、静かに首を振った。
『ユリは闇の禁術によって、最も強力な情念を持つ前世の存在に乗っ取られてしまっていたのです。そして、その術は決して解くことはできません。その者を殺さない限りは』
『そうなんだ。知らなかった・・・』
驚くクレアに、ハスールはうなずき返した。
『ですから、アルタシアは最初からアンクを施すつもりで彼女を殺めたのでしょう』
それを聞いて、桜井さんもうつむいて泣き出してしまった。
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