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クリスの物語Ⅳ #27 教会の中
思った通り、その建物は教会だった。
中では音楽が流れ、白装束を着込んだ人たちが前の方で聖歌を歌っている。
室内はそれほど広くはなく、左右に長椅子が何列か並べられているだけだった。
なぜか前半分は黒い鉄柵で仕切られていて、聖歌を歌っている人たちは、その鉄柵の向こう側にいる。
どうやら、部外者は鉄柵の向こうには行けないようになっているみたいだ。
入り口から中をのぞき込んで、隅から隅まで見渡してみた。ところが、赤いカットソーを着た女性はどこにも見当たらない。
『あれ?いなくなっちゃった』
ぼくの腕の中で鼻をくんくんさせてベベがいった。
おかしい。階段を上がってこの建物に入っていったのは、この目でたしかに見た。
見間違い、なんてことは絶対にない。
もしかしたら白装束を着て、前の人たちに紛れているのかもしれない。そう思って、ベベを抱えたまま教会の中に入った。
鉄柵の手前の席に座り、白装束を着た人たちの後ろ姿を眺めたけど、それらしき背格好の人はいなかった。それに、よく考えたらあの短時間で着替えられるとも思えなかった。
すると突然、誰かに肩をつかまれた。
びっくりして振り返ると、見知らぬおじさんがぼくの肩をつかんでいた。
黒いローブを羽織ったその人は、ぼくを見てにやりと笑うと「ペットはダメですよ」とイタリア語でいった。
ぼくは「ソーリー」と、英語で謝った。
立ち上がろうとするぼくの肩をおじさんは引っ張って、また椅子に座らせた。
肩をつかんだまま、笑顔でおじさんはいった。
「ちょっとそのサングラスを外してもらおうか」
この教会の中はサングラスもダメなのか。
サングラスに手をかけて、思いとどまった。おじさんの目が少し赤く光った気がしたからだ。
すると、ぼくの肩に手をかけたままのおじさんの手に、ベベが噛みついた。
「あいたっ」といって、おじさんが手を離した。
その隙に、ぼくは立ち上がって駆け出した。
周りの人たちが驚くようにこっちを見ている。
「その子供を捕まえてくれ!」
おじさんがそう叫ぶと、出口に立っていた観光客らしき体格のいい男の人が、両手を広げてぼくを捕まえようとした。
ぼくはとっさに、マージアルスをはめた人差し指を突き付けて「エクスボーラ」と小さくつぶやいた。
すると、ぼくに向かってきた男性はふっ飛んで、教会の壁に体を打ち付けた。
まずい。
軽く押しのけるだけのつもりだったのに、予想以上に飛んでしまった。あのおじさんが闇の勢力なら、正体がばれてしまったかもしれない。
でも、今はそんなこと構っている場合じゃない。
ぼくは教会を飛び出して、階段を駆け下りながらハーディに連絡を取った。
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