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クリスの物語Ⅳ #19 沙奈ちゃんの守護神
『ところで、それは君の守護ドラゴンかい?』
桜井さんの肩の上でうとうとしているエンダを指差して、ハーディが尋ねた。
『うん、そうだよ』と、桜井さんは返事をした。
『ずい分と幼そうだね。まだ生まれたばかりじゃないのかい?』
『そうなの。孵化してからまだ1か月も経ってないよ』
エンダは自分の話をされているのがわかったのか、むくっと頭をもたげてハーディを見た。
『ハーディにも守護ドラゴンがいるの?』
沙奈ちゃんが尋ねると、ハーディは首を振った。
『僕には守護ドラゴンはいないよ。僕についているのは、キュクロプスさ』
ハーディがそういうと、背後に一本角を生やした巨大な人の姿がうっすらと現れた。
顔の中央には大きな目がひとつだけついていて、手にはものすごく大きな剣を構えている。
にこやかな表情でぼくたちを見下ろすと、巨人はスッとまた消えてしまった。
『彼はラシードっていうんだ。キュクロプスについて多くの人が野蛮で凶暴だといった誤解をしているようだけど、実際は勇敢でありながら、とても心優しい性格をしているんだよ』
ハーディは笑顔で話した。
『守護獣って、そんな人間みたいな姿の存在もいるのね』
思いもよらなかったというように沙奈ちゃんがつぶやくと、ハーディが『君の守護神だって人型じゃないか』といった。
「え?」
ぼくたちは一斉にハーディを見た。
『わたしの守護存在が見えるの?』
驚きと喜びの入り混じった表情で、沙奈ちゃんが聞き返した。
『あれ?知らないのかい?』
ハーディが意外そうな顔をした。
沙奈ちゃんはこくこくとうなずいた。興奮を抑えきれない、といった様子だ。
『そうか。どうやらつながり始めたばかりのようだね。でも、君たちにも見えるだろう?』
ぼくと桜井さんを交互に見て、ハーディは沙奈ちゃんの背後を指差した。
ぼくと桜井さんは、同時に沙奈ちゃんのうしろを見上げた。
何も見えないけど、確かにそこには何かがいるような気配がある。
「あ」と、桜井さんが声を漏らした。
正面を向いて気をつけの姿勢で座っていた沙奈ちゃんも、つられてうしろを振り返った。
目を凝らしていると、気配を放っていたものがうっすらと形を取り始めた。
それは、さっきのキュクロプスにも劣らないほど巨大な人間だった。
がっしりとした体つきで、しかし頭部は人間ではなく立派なくちばしのついた鷲のような頭をしている。
手には槍のように長い杖を持ち、女の人を表す♀マークに似た銀の十字架を首から提げている。
片手をそっと沙奈ちゃんの肩にかけると、巨人はそのまま姿をくらませてしまった。
『偉大な天空の神、ホルスだ。まったくもって珍しいよ。エジプト神話に登場する神を守護神として持っているなんて』
ハーディは手のひらを上に向けて肩をすぼめてから、ソファの背もたれに寄りかかった。
『砂漠の神、セトを守護神に持つ人には以前会ったことがあるけど。というより、僕の先生だった人なんだけどね・・・』
何かを思い出すようにハーディはいった。
それからため息をつくと『それにしても、ホルスを守護神に持つなんてすごいよ』と、感服するようにハーディは首を振った。
「沙奈ちゃん、良かったね」
そう声をかけると、沙奈ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
目には涙が溜まっている。
『話せるようになったりするかな?』
ハーディに視線を戻して、沙奈ちゃんが尋ねた。
『ああ、それはもちろん。そうできるようになるさ。でも、シェイプシフトできるような守護存在と比べると、口数は少ないと思うけどね』
エンダに視線を向けて、ハーディは笑っていった。
『意識してホルスに話しかけてみるといいよ』
ハーディの言葉に、沙奈ちゃんは笑顔でうなずいた。
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