クリスの物語Ⅳ #68 出会い
ある日、アルタシアがいつものようにアーロンと公園で魔法をかけ合い、チャンバラに興じていると、公園の隅に設置されたクテアに座ってじっとそれを見つめる少女がいた。
歳はアルタシアと同じくらい。色白でやせ細った、小柄な女の子だった。
『こんにちは』
視線に気づいたアルタシアが少女のそばへ行って声をかけると、少女は何もいわずに立ち上がり、手にしていた杖で突然火玉を作り出した。
そしてツンとした顔をすると、作った火玉をそのままに、無言で立ち去ってしまった。
子供にしては、なかなか大きな火玉だった。サッカーボールくらいはあるだろう。それに真ん丸だ。
アルタシアは素直に感心した。これだけ真ん丸な火玉は、自分にも作れない。
少女がせっかく残していった火玉を、消してしまうのももったいない。
どうしようか考えたあげく、アルタシアはそれをアーロンに向かって投げつけた。不意をつかれたアーロンは、慌てて水壁を生じさせて対応した。
それからというもの、色白の少女は毎日のようにアルタシアの特訓中に公園に現れるようになった。
アルタシアが宙に飛んでアーロンとチャンバラすれば、少女はもっと高く飛び上がり、鳥を追いかけるそぶりを見せながらちらちらと得意気な顔をアルタシアに向けてきた。
アルタシアが電撃魔法を使えば、少女は小さな雷雲を作り、水魔法を使えば、池の水を使って自分と同じ大きさほどのドラゴンを形作ってみせたりした。
そんな日々が何日か続いたある日、アルタシアはアーロンに事前に相談して少女を驚かせることにした。
アルタシアは、ただ何とか少女と話がしたいだけだった。そのきっかけ作りとして、考えた作戦だった。
いつものように公園でアーロンと稽古をしていると、案の定少女はやってきた。
少女の目の前で、アーロンと魔法をかけ合いながらチャンバラをするアルタシア。
火魔法から始まり、風魔法、水魔法、氷魔法、雷魔法とありとあらゆる魔法をアーロンに浴びせた。
思った通り、それに対抗するように少女も次々と魔法を出現させようとする。
ところが、少女が魔法を作り出そうとすると、なぜか魔法がかき消されてしまった。どの魔法を使ってもダメだった。
焦った少女は、しまいにはあちこちに向かって杖を振った。しかし、やはり無駄だった。
杖の先に光が灯った時点で、魔法が消えてしまう。魔法が使えない体になってしまったのかと、少女は泣きそうになった。
すると、目の前にアルタシアの顔がどんと現れた。
少女はびっくりして、腰を抜かしそうになった。瞬間移動かと思ったけど、どうやらそうではないらしい。
向こうには、アーロンと魔法をかけ合いながらチャンバラに興じるアルタシアがいる。
一体、どういうことだろうか?
『びっくりした?』と、アルタシアが満面の笑顔で聞いた。
少女は、アルタシアの予想以上に驚いたようだ。顎をのけ反らせたままの状態で固まっている。
アルタシアは、慌てて説明した。
『あれは、わたしの分身だよ。ほら、パルトビアって知らない?』
説明しながら、アルタシアは「フーガ」といって分身を消失させてしまった。
パルトビアのことは、少女も知っていた。でも、それは影を作り出すだけの魔法だ。まさかあんなにリアルな実体を作り出せるなんて、聞いたこともなければ見たこともない。
それに、わたしの魔法をかき消していたのはこの子の仕業だろうか?わたしが必死に作り出した魔法が、ことごとく消されてしまった。
少女にとっては、そのことも衝撃だった。
『わたしはアルタシア。それと、向こうにいるのがアーロン。わたしのおにいちゃんだよ。あなた、名前はなんていうの?』
にこにこと、笑顔でアルタシアが聞いた。
『イビージャ・・・』