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クリスの物語Ⅳ #76 抗えぬ思い
父親の工房で働く男性、それはバラモスだった。
なぜこんなところに彼が?イビージャと一緒に暮らしているのではなかったか?
今回だって、イビージャはバラモスが寂しがるから帰れないといっていたのだ。
呆然とするアルタシアを見て、母親が『あら?彼のこと知っていたの?』と聞いた。
その後、アルタシアはバラモスからすべてを聞いた。
わたしがイビージャから聞いていた話は、全部イビージャの作り話だったこと。それにわたしのことについても、イビージャはバラモスに対して嘘をついていたことなど全部。
最初、バラモスがイビージャと別れて、わたしに乗り換えるために適当な嘘をついているのではないかとアルタシアは勘ぐった。しかし、そうでないことはバラモスの心から読み取れる。
純粋で誠実なバラモスは、心の中を読み取られないよう防御する術を持ち合わせていなかった。
バラモスが話すことは、真実だ。そして、わたしへの思いも嘘偽りのない純粋な愛だと、アルタシアはわかっていた。
でも、なぜイビージャはそんなことをしようとしたのか?
そんな嘘をついてでも、イビージャはバラモスを手放したくなかったのではないだろうか?
それほどまでに、バラモスのことを愛していたのではないだろうか?
それを思うと、アルタシアはバラモスの気持ちを素直に受けるわけにはいかなかった。しかし、そんな思いとは裏腹に、バラモスに急速に惹かれていく自分がいる。
中央部の仕事も辞めて、一緒にここでバラモスと暮らすのもいいのではないかとさえ思った。
バラモスが父親の工房で働くことになったのは、まったくの偶然だった。
父親も仕事が忙しくなり、工房での働き手がほしいと思っていた。
ちょうどその頃、地表から迷い込んできた若者が仕事を探しているという話を人づてに聞いた。
そして実際にその若者と会ってみたところ、とても誠実で真面目な人柄だったので父親もすぐに雇うことにした。それがバラモスだったわけだ。
バラモスは飲み込みもよく手先も器用だったので、仕事にもすぐに慣れた。そんなバラモスのことを父親も大変気に入って、家にもよく呼ぶようになった。
バラモスは、まさかそこがアルタシアの実家だとは夢にも思わなかった。しかし、両親から中央部で働くという娘の話を聞かされている内にもしやと思い、写真を見せられて驚愕した。
『君のことを忘れようとしてセテオスを去ったのに、まさかこんな偶然があるなんて信じられなかった。そのとき僕は、心から運命を感じたよ』
優しく微笑むバラモスを見て、アルタシアは自分の気持ちに抗うことができなかった。そしてアルタシアは、バラモスにすべてを委ねた。
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