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クリスの物語Ⅳ #55 ミステリーツアー
玄関ホールはとても広く、吹き抜けになった天井もものすごく高い。5,6階くらいの高さがありそうだ。
左手には太い柱に支えられたらせん階段が上へと続き、ホールを超えた先には、正面に木製の大きな扉がある。左右には、天井の低い幅広な通路が続いている。
床も壁も大理石でできていて、天井には石を削った細かな装飾が施されていた。人がいるような気配はない。
しかし古代の建物だというのに、大理石の床や壁はまるで丁寧に磨き上げられたように、ハーディが魔法で灯した明かりをきらきらと反射している。
『まずは大広間を目指そう。たぶんこっちだと思う』
ハーディはそういって、ホールを突っ切って正面の扉の方へ向かった。そしてまた魔法で扉に空間を作ると、正面の扉を通り抜けた。
扉を抜けた先には、広い中庭があった。中庭といっても、ただ長方形に囲われた広場があるだけだ。天井は、そのまま地上の空に続いているのではないかと思えるほど高い。
ハーディが灯す魔法の明かりに照らされ、暗がりの中キョロキョロとあたりを見回しながら歩を進めるぼくたちは、なんだかまるで古城をめぐるミステリーツアーにでも参加したご一行様みたいだ。
中庭を抜けて再び建物の中に入ると、両脇に何本もの大きな太い柱に支えられた通路が正面に伸びていた。
天井はピラミッドのように中心が窪んだ形をしていて、それが等間隔にいくつも続いている。
左右に走る通路は無視して、ハーディはとにかくまっすぐ進んだ。すると、突き当たりに、再び大きな扉が構えていた。
『たぶん、ここが大広間だ』
扉を前にハーディがいった。
もしこのお城が闇の勢力ザルナバンの本拠地だというのなら、儀式が行われるのはここだとハーディは踏んでいるようだ。
覚悟はいいかと確認するように、ハーディはぼくたち一人ひとりの顔を見回した。ぼくたちは、無言でうなずき返した。
でも正直なところ、ぼくはあまり期待していなかった。このお城へ乗り込んでからひとりも闇の勢力に出会うことがなかったし、気配すらも感じられない。
だから闇の勢力はここから撤退してしまったか、もしくは本拠地は元々ここではなく別のところだったか、そのどちらかのような気がしていた。
少なくとも、ここにクリスタルエレメントがあるようには思えない。
「プラレッシオ」
ハーディがまたカンターメルを唱えた。
すると扉の向こうに、暗闇の中ぼわーっと浮かび上がる光が見えた。ぼくたちは、警戒しながら中へ入った。
そこは、とても大きな広間だった。
かつては、ここで舞踏会でも行われていたのだろうか。
天井は高く、広間をぐるりと囲うようにバルコニー席が設けられ、上からもこの会場を眺められるような設計になっている。
広間は縦にも横にも長さがあって、学校の体育館なんかよりもずっと大きい。バスケットコートが3つは作れそうだ。
その広間の中央で仄かな光を発して宙に浮かび上がる、クテアのような台の上にそれは鎮座していた。
ソフトボールほどの大きさの、黒くて丸い石。まさしく、クリスタルエレメントだ。
5つのクリスタルエレメントは、下に4つ頂点にひとつと、ちょうどピラミッドを形成するように宙に浮かんでいる。
暗闇の中、光に包まれて宙に浮かび上がるクリスタルエレメントは、まるで古代からずっとそこにあったのではないかと思えるほど神秘的だった。
ぼくたちは、誰からともなく吸い寄せられるようにクリスタルエレメントへと近づいた。
『あったね』
クリスタルエレメントを前に、クレアがつぶやいた。
『うん』
クリスタルエレメントを見つめたまま、ぼくは返事をした。
なんだか、あっけなかった。やっぱり、さっき市場で戦ったハウエルが闇の勢力のボスだったということだろうか。
『早いところ回収して、地上へ戻りましょう』
マーティスがそういって、クリスタルエレメントへ手を伸ばした。するとバチッと大きな音がして、マーティスの手が弾かれた。
マーティスは痛そうに顔を歪め、弾かれた手を押さえた。
『バリアが施されているね』
ハーディがそういったのとほぼ同時に、どこからともなく明かりが灯って、広間全体が明るくなった。
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