クリスの物語Ⅳ #46 仮説
『たしかに、そのタガワという女性の行動は短絡的で何か裏があるように勘ぐってしまうよね。でも、単純にアジトへ向かっていたところをたまたまベベが見つけただけで、クリスたちの尾行に気づいていなかっただけかもしれないよ?
それはさておき、偶然の一致から考えれば、闇の勢力の本拠地はその教会の地下にあると仮定していいだろう。そして、闇の勢力が僕たちの存在に気づいているかどうかだけど、ここはすでに気づいているものと仮定して行動した方がいいと思う』
ぼくたちは、皆賛同するようにうなずいた。
『しかし、僕らがザルナバンのアジトに気づいているかどうかまでは、向こうもまだわかっていないんじゃないかな。
でも遅かれ早かれ気づかれると思って、早い段階で消滅の儀式に取り掛かる可能性はある。そうなることを踏まえて、僕たちも早めに乗り込みクリスタルエレメントを奪い返す必要があるだろう』
覚悟はできているかと確認するように、ハーディはみんなの顔を見回した。
『でも、儀式をしても失敗すると銀河連邦の人たちはいっているのでしょう?』
沙奈ちゃんが質問すると、マーティスは『はい』とうなずいた。
『それなら、もう儀式は行われた可能性もあるんじゃないですか?』
『いえ、それはないようです。たとえ失敗したとしても、儀式が行われれば銀河連邦にも感知はできるようです。そして、そのようなことが行われたという報告はまだ受けていません』
マーティスの話に、ハーディがうなずいた。
『ザルナバンのアジトに一体どれほどの人間がいるのかはわからないけど、クリスタルエレメントを保管しているだろうし、それに神聖な儀式が行われる場所だからね。上層部の人間しか立ち入りはできないはずだ。
そして、それらの者には、権力はあっても大した能力はない。気をつけるべきなのは、その護衛の人間だろう。信頼のおける人間しかやはり立ち入らせないだろうから、人数は少ないと思う。でもきっと、一騎当千といった兵(つわもの)ぞろいだよ』
それを聞いて、田川先生のことを思い出した。
たしかに、田川先生の能力は人並み外れている。一瞬にして闇の勢力の男たちをなぎ倒していたし、ラーナミルの攻撃もいとも簡単に跳ね返していた。
それに、田川先生を守護する闇のドラゴンのスタン。
ユーゲンとその守護ドラゴン、ツェリンを一撃で殺してしまった。その実力は、計り知れない。
どちらもぼくたちでは、とてもじゃないけど敵いそうにない。
そんな人たちをこれから相手にするのかと思うと、いいようもない不安に襲われた。
そんなぼくの思いを感じ取ったのか、ハーディは『大丈夫だよ』と微笑んだ。
『クリスは自分が思っている以上にパワーを秘めているよ。サナもユリもね。何といっても、銀河連邦が認めているくらいだからね。もっと自信を持った方がいい』
そういって、ハーディは全員に笑いかけた。
ぼくと同様、沙奈ちゃんも心配そうな表情でうつむいていた。でも、桜井さんだけは違った。
口を真一文字に結んで、ハーディに力強くうなずき返している。やる気満々といった様子だ。
『それに』と、ハーディは続けた。
『その前に、まだ戦いになると決まったわけじゃないからね。隙をついて忍び込んで、クリスタルエレメントだけさっと奪い返せるかもしれないしね』
安心させるようにいって、ハーディはウィンクした。おかげで、なんだか少し場の雰囲気が和んだ。
きっと、ハーディがいれば大丈夫だ。自然とそう思えた。
さすが、若くても社長をしているだけのことはある。